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「『ムダ』から生まれるものもある」「目標は自分を超えること」上田桃子のオンとオフ<後編>

今年、プロ入り18年目を迎えた上田桃子。「ベテラン」と言われる存在になっても、強く、輝き続けている。そんな上田に、自身の仕事について、プライベートについて聞いた。

PHOTO/Takanori Miki 、Tadashi Anezaki

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その時々で必要な切り替え方がある

「強い選手がたくさんいるなかで、1勝することの難しさを感じているので、優勝できてよかった。でもあと1つ2つあった勝つチャンスを生かしたかったし、メジャーに勝てなかった悔しさもあります。まあ結婚もできて、自分のなかでは総合的にすごくいい1年でした」と昨年を振り返る上田。ひと皮むけた強さが生まれた感じだ。

「コロナ禍で一番大切にしていたのが“焦らない”こと。世界中の人がいろんなことに動揺したと思うし、仕事で考えても空白の時間が皆にあったと思います。それをどう取り戻すかという考えをしっかり持つことが大事になると思っていました。だからこそ、きちんとオフを過ごした。プロ入り17年で初めて母と家でのんびりしたり、今までできなかったことを楽しんだ。前はシーズン中も料理教室に通ったり、プライベートな時間を切り替えのスイッチにしていましたが、昨年はオフを充実して過ごしたぶん、シーズン中のプライベートな時間を減らしゴルフの練習に費やす時間を増やした。その時々で必要な切り替え方があると思います。今年はまたスイッチが違うかもしれません」

熊本特産・デコポンの皮をむくように、自分を丸裸にしてもらった。「熊本の人はデコポンが大好きです。私もみかん系が大好きすぎて手が黄色くなってしまいました」


「ムダ」を楽しんでプラスにする

ご主人も「オンとオフ」のスイッチになっているようだ。

「一番自分らしくいられる相手です。理解はありますが干渉はしない。ゴルフをしないので話もしない。だからオン・オフもつけやすかった(笑)。ただ、同級生で友だちみたいな感じなので厳しい部分もある。練習で『疲れた』というと、『仕事だったら皆疲れるよ』と。でも基本否定がなくて、私がやることに対してもすごく肯定してくれるし、結果がダメでも、『最近どう行動した? 全身全力でやれていなかったなら結果が出ないのは当たり前。またやるしかない』と言ってくれる。まあ、厳しいっちゃ厳しいですけど、ラクっちゃラクなんです」

日本ツアーでは、若い選手の活躍が顕著だが、レベルは上がったのだろうか。

「確実に底上げはしています。突出している選手は多くはいませんが、安定している選手が本当に多い。実際、世界的な大会で日本の選手が結果を出す。これは競争率が上がったのが要因だと思います。切磋琢磨できる相手がいるのは大きい。人間って本来、可能性は無限で、自分が思う以上にもっとできるんです。自分がムリだと思っていたことを同年代や少し上の先輩が達成すると『自分もできるかもしれない』と感じられる。身近にいる人の成績や技術はいい刺激になっていると思います」

技術面での変化はあるのか。

「世界的に飛距離は伸びていますが、今日本の強い選手、稲見(萌寧)選手、古江(彩佳)選手、西村(優菜)選手などが飛ばし屋なわけではない。でも曲がらないなど質が上がって日本人のいい特性が出ています。それに若い選手は、自分ができることとできないことがすでに明確。私たちはプロになって理想と現実を知り、そのなかで何ができて何を補っていくべきか学びましたが、彼女たちは早くにプロの試合を経験しているので、ある程度自分のスキルの把握ができていて、新しい技術を得るために必要なアプローチ法を知っている。遠回りしていない感じです」

上田は遠回りしたのだろうか。

「そうですね。でも、遊びやムダから生まれるものってある。たとえばお酒の席。ムダ話も多いけれど、積もる話もある。その場では身にならなくても後で返ってくることも多い。私はそういうムダを楽しんでプラスにするタイプ。『ムダ、ウェルカム!』です(笑)」

撮影中、様々なポージングを楽しむ上田。「ゴルフだけで考えると必要ないかもしれないけど、人生で考えればムダなことも経験しているほうが絶対にプラスの材料になります」

努力して、常に変化し、自分を超えたい

35歳、「ベテラン」と言われるようになった。

「自分自身は何ら昔と変わっていない。ゴルフ場から出たら普通の35歳。35歳なりの対応や行動はしなくてはいけないと思いますが、ゴルフ場にいるときは何歳だろうと関係ない。でも、年齢で分けるほうがわかりやすいでしょうし、そういうふうに見るのも楽しいと思いますから(笑)。それに、私と同世代の選手にも、年齢によって頭と体が一致しなくなったとか、そこにフォーカスすることで問題を解決できる人もいます」

年齢は気にしない上田だが、ゴルフでの変化はないのか。

「日々変わっているとは思います。トレーニングも年齢とともにやるべきことが増えるのは当たり前。洗練されると言うほうがいいかもしれない。同じ腹筋を鍛えるにしても質を上げたいからやり方が変わり回数が増えていく。経験を重ねて必要だと感じることが多くなっていくんです。また、致命的なミスは減ります。許容範囲を想定しやすくなるし、キャディさんなど周りにいる方とのコミュニケーションミスが少なくなる」

年齢によりむしろ“進化”を感じているのだろう。

「技術もなるべくアンテナを張って常に先端に近い部分にいられるようにしたい。でも流行りに行きすぎると、自分らしさがなくなったり一過性のもので終わってしまうので、その判断は間違えないよう、信頼できる方を頼ったり、コミュニケーションを取りながら、なるべく“変化”していこうとは思っています」

「昨年私がパナソニックで勝ったあと、ポンポンと30代の選手が頑張って優勝して、私に『刺激を受けました』と言ってもらえると、やっぱり嬉しいとは思います」

結婚して、出産しても活躍する女子プロが増えている。

「(横峯)さくら選手などもですが、いろんな形があっていいと思いますし、若い選手がすごくゴルフ界を盛り上げてくれるので余計、私たちも1つのキャラクターとしていられる。とくに女子プロはキャラクターが豊富。いろんな楽しみ方をファンの方に感じてもらえれば嬉しいです」

コロナ禍、ファンとの交流がしづらくなったため、オンラインサロン「上田桃子の3030号室」を始めた。

「私のように長くゴルフをしている選手から見える景色や想いを話せる場があるといいなと。それにファンの方々との交流で、何かを知り挑戦することで、私自身が勉強していきたい。つながることで学べることは多いんです。

実はこの前、スポンサーさんに贈る5分の動画を作りました。心を込めて伝えようと暗記して話すんですけど、同じところで間違う。何度も繰り返して丸1日かかった。でも翌日になると驚くほど覚えているんです。結局、ゴルフも一緒だと思ったり(笑)。間違わないようにしようと思うとミスがすごく出てくるし、自分は器用で感覚派だと思っていたのが、実は頑張って身に付くタイプなのかもしれないと。サロン内で皆さんと話していても初めて発見する自分に出会うことが多いんです」

上田は、上手に「オン」と「オフ」を行き来し、ゴルフはもちろん人生の糧にしているのだろう。

「世界的な基準で今飛距離はどれくらいか、どんな理論やトレーニングがいいか、などは知識として持っておきたい。たとえば、“シャロー”はいいことだと思うので取り入れますが、“GGスウィング”は私にはマッチせず悪い癖が出ると思う。自分流に“つまみ食い”のような感じで試してみます。飛距離も年々上がっているんですよ」

諦めない姿を見にきてほしい

「賞金女王になりたいと言えればいいのですが、それだけのことをしなければいけない。まず東京に住むのではなく環境から整える必要がある。でも人生で考えると今引っ越すことは考えられない。今自分ができる最大限の努力を考えれば目標は昨年の自分を超すということになります」

もう1つ、ずっと心に決めている目標がある。

「皆さんに見に来てよかったと思ってもらえるゴルフをしたい。だから今年こそ有観客であってほしいです。試合には勝敗があり、私は勝ちにこだわっているつもりですが、でも負けても面白かったと思ってもらえるほうが嬉しい。そこには自分なりのいろんな努力が必要だと思います。諦めない姿や絶対寄らない場所から寄せたり、ひとつひとつの小さなことを大事にすれば見ている人に伝わる。伝わらなかったとしたら、さらに努力をするだけだと思っています」

2022年、ひと皮むけた上田桃子をじっくり味わいたい。

「スタッツもすべて昨年より上回りたい。アプローチやパターはどれだけ同じことを繰り返して自信を得られるか。これらがメジャーに勝つために必要なことにもなると思います」

週刊ゴルフダイジェスト2022年2月8日号より