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「ナイスショットでも不満顔」稲見萌寧の強さの秘密<メンタル&フィジカル編>

稲見萌寧の強さの秘密に迫る本特集。後半では、メンタル面とフィジカル面から分析していく。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Shinji Osawa ILLUST/Hideki Kamekawa

>>「稲見萌寧の強さの秘密」前編はこちら

女子ツアーイチの「完璧主義者」

解説/笠原 彰(作新学院大学教授)

かさはらあきら。スポーツ心理学を学び、スポーツ選手のメンタルコーチやコーチング心理学を行う

試合中、ピンに絡むナイスショットを打った後でも、なぜか不満そうな表情をしている稲見萌寧。「ショットは100%でないと納得できない。完璧主義者なので(笑)」と語る稲見だが、ここにも強さの秘密があるのだろうか。スポーツ心理学者の笠原彰先生に聞いた。

「完璧主義者には2つのタイプがあります。1つは日々の課題をコツコツと“完璧”にクリアし、その努力によって長期的な目標を達成できるタイプ。もうひとつが、“完璧”を追い求めてはいるが思考だけが先行し、行動に移せないタイプです。稲見選手は、圧倒的に前者にあたります」


どうすれば稲見のように「目標を達成できる」タイプになれるのか。

「日々の練習で、『今日はバックスウィングの上げ方をチェックしよう』というような短期的目標と、『将来の夢』のような長期的目標を明確にすることが大事。この2つの目標を作ることで、短期目標をクリアするたびに壁を乗り越える力が生まれ、長期目標に少しずつ近づいていけるんです。この考えは、仕事にも役立つことなので皆さんも試してみてください」

稲見萌寧のメンタル、ここが凄い

(1)完璧主義者……何事に対しても満足せずに完璧を追い求め、試行錯誤を繰り返す

客観的にはナイスショットでも、ショット後に満足そうな顔をしている稲見はほとんど見ない。この点からしてもいかに完璧主義者かがわかる

【強み】完璧なパフォーマンスを出すための努力を惜しまない
完璧を求めることで、努力を絶やさなくなる。重要なのは、短期的な目標と長期的な目標を立てること。稲見でいうと、長期目標は永久シード。短期目標は試合中での課題。

(2)先輩・後輩関係なく仲がいい……先輩・後輩の垣根を越えて誰とでも仲良く話せる環境づくりができる

試合中の歩いているときに笑顔で話しているシーンをよく見かける。大先輩である大山志保や後輩の西郷真央など、年齢を問わず、仲のいい選手が多い

強み】ラウンド中に話すことでショット時の集中力を保てる
18ホール中、ずっと集中力を保つのは無理なこと。そのため、ショットを打つとき以外は、ゴルフに関係のない話をしながら歩くことで、ショット時の集中力を極限まで高めることができる。

(3)常に自分にプレッシャーをかけ続けている……練習中から試合以上のプレッシャーを自分にかけている

練習では自分のイメージより3ヤード右に出ればシャンク。2ヤード左に出ればOBと思うようにしている。普段からプレッシャーをかけて練習をしている

強み】不安を与えることで準備を怠らなくなる
練習のときから不安要素を入れることで、不安を取り除くための準備ができる。悪い未来を考え、その状態に陥らないように努力することが成功の秘訣。

(4)自分の居場所作りが上手い……周りを気にせず自分のテリトリーを作るのが上手い

練習場では、いつも真ん中付近で長く練習している。先輩が後ろで待機しているのもあまり気にしていない様子……

【強み】自分のことだけに集中して練習に打ち込める
他人のことを気にせずに練習できる心理状態にあるため、効率のいい練習になる。先輩後輩関係なく、グイグイいける性格だからこそできる。

トレーニングで
体力とキレを手に入れた

もうひとつ、強さを語るうえで外せないのが“体の強さ”だ。昨年末から本格的なトレーニングを取り入れたというが、どんなトレーニングをしたのか? トレーナーの平野洋平氏に聞いた。

「彼女の第一印象は、この体では、疲労がたまってくるとスウィングに悪影響が出るな、というイメージ。そこで基礎体力をアップさせるために、下半身を中心にトレーニングを行いました。しかし、筋力がついて基礎体力が上がると今度は体重が増え、動きが鈍くなってしまいます。

そこで取り入れたのがキックボクシング。この動きは、お腹周り(特に腹斜筋)を瞬発的に動かすことで、大きくなった体にキレを加えることができます。2つのトレーニングによって『疲れにくい体』と『キレのある体』を手に入れられたのです」

キックボクシングを取り入れることで、お腹周り(腹斜筋)の柔軟性とキレが増した。トップが深くなり、キレのある強いスウィングになった

決勝ラウンド平均ストローク
2019シーズン71.3635
2020-21シーズン69.9192
トレーニングを取り入れたことで基礎体力が上がり、最終日まで戦い抜ける体に。決勝ラウンドのストロークを比べると、2019シーズンに比べ、約1.5ストロークも向上している(データは10/13現在)

すべてのショットで
軸が一切ブレない

最後に、稲見のスウィングについて、多くの女子プロを指導している辻村明志コーチに聞いた。

「彼女のスウィングの特徴は、ドライバーからアプローチまで体の軸が一切ブレないことです。軸がブレなければ、当然ショットの安定感は抜群によくなります。加えて、すべての番手で同じスウィングができるので、ボール位置やフェースの向きを変えるだけで、球の打ち分けも自在になる。この操作性の高いスウィングができるからこそ、どんなコースやピン位置でも対応ができ、シーズン8勝という圧倒的な成果を挙げているんです」

ドライバー

3番ウッド

7番アイアン

30Yアプローチ

月刊ゴルフダイジェスト2021年12月号より