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【さとうの目】Vol.211 岩田寛「メンタル面もパワーアップ」

PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週はツアー4勝のベテラン岩田寛に注目。

若手の活躍著しい日本ツアーですが、ベテラン勢も頑張っています。中日クラウンズで6年ぶりツアー4勝目を挙げた岩田寛。2打差7位でスタートした最終日の1番のティーショットに、40歳になった彼のメンタル面の成長、変化を見た気がしました。

和合(名古屋GC和合C)の1番は打ち下ろしの左ドッグレッグ、距離の短いパー4です。スプーンで打ったボールはフェアウェイの右サイドに。これまでの寛であれば僕のイメージだと左サイドギリギリの際どいラインを狙っていくか、あるいはドライバーで1オンを狙う場面です。そんな彼が右サイドに打ったのですから、打ち終わった瞬間に“逃げちゃった”というような不本意な表情をするかと思いました。ところが寛は、涼しい顔で普通のナイスショットの雰囲気。明らかに狙い通りに打ったのでしょう。そこにボクは「すごくいいな」と感じたのです。

思えば10年前、震災直後の同じ中日クラウンズ。2日目にトップに立ち優勝争いを演じながら、最終日にバック9で崩れて優勝戦線から脱落しました。この試合で、寛の大事な場面での不用意なプレーなどを叱咤激励していたのがキャディの新岡隆三郎氏。今回、久しぶりに寛のバッグを担ぎ、10年の歳月を経てリベンジした優勝でもあったのです。ちなみに新岡キャディの奥さんは、アース・モンダミン・カップで優勝した菊地絵理香プロです。

寛のポテンシャルの高さは誰もが認めるところでしょう。飛距離といい天才的なショートゲームといい、現時点でもPGAで十分戦える選手だとボクは思っています。実際、14年のWGCでは1打足りず優勝を逃し、15年の全米プロでは2日目に、当時メジャータイ記録であった63をマーク。16年のペブルビーチプロアマではフィル・ミケルソンと最終日最終組を回り、終盤まで優勝争いを演じました。

ボクの勝手なイメージですが、寛はどこか伊澤(利光)さんとかぶります。きれいなスウィングもそうですが、他の人ができないエグいことを簡単にやってのけそうな雰囲気があるからです。その才能を十分に発揮するための課題は、多くの人が指摘するメンタル面ということになるのでしょう。10年前の中日クラウンズの新聞記事を読み返すと、「イライラした」という語句が目立ちます。ただ、別のインタビュー記事では「ゴルフ以外でイライラを発散する方法はない」との発言も。彼のメンタル面の課題は、ゴルフ一筋、ストイックで生真面目な性格からくる部分もあるのでしょう。

顔も体型もスウィングも10年前からほとんど変わらない。先日のダンロップ・スリクソン福島オープンの決勝ラウンドで65・64とした爆発力も健在。加えて内面の成長も見られるここから先はまだまだ面白い存在になると思っています。変わらぬ目標のPGAツアーにも、再挑戦してほしいですね。

どこを切り取っても美しい!

「グリップから姿勢、スウィングプレーン、フィニッシュの形など、どこを切り取っても美しく、基本に忠実で、誰が見てもきれいだと感じるスウィング。切り返しからグッと沈み込む動きがあり、この踏み込みが彼の飛距離の源なのだと思います」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年7月20日号より