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【さとうの目】Vol.210 ジョン・ラーム「“自分が勝つ”と信じ込める強さ」

PHOTO/Blue Sky Photos

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は全米オープン優勝のジョン・ラームに注目。

最終日は世界ランク1〜6位が上位にひしめき、さらにメジャー優勝者のL・ウエストハイゼン、R・マキロイが優勝争いに加わり、大混戦となった今年の全米オープン。勝者は、「勝った経験もあり、このコースを知り尽くしている。最終日を3打ビハインドで迎えるのも(初優勝と)同じ展開だ。自分に有利だと思っている」と3日目を終えて言い切ったJ・ラームでした。会場となったトーリーパインズGCは、17年のファーマーズインシュランスで初優勝したコース。さらにケリー夫人にプロポーズした思い出の地。まるで「勝つのは自分だ」と、自分に言い聞かせるような力強い言葉でした。

日本ツアーでも本当に強い選手……同年代でいえば(片山)晋呉や谷口(徹)さんなどは「自分が勝つ」と信じ込む能力に長けています。ボクのような選手は、そう思えば思うほど気負い、空回りしてしまうものです。ところがラームは最終日の朝イチショットで、恐怖心のかけらもない強烈な振りを見せます。続く1番のセカンドショットも、「そこを狙うの?」という攻撃的な姿勢。マラソンでスタートから飛ばす選手のように、後半まで持つのか心配になったほどです。しかし17番、18番のガッツポーズが示すように、「勝つのは自分」という確信は最後まで揺らぎませんでした。

その伏線となったのが2週間前のメモリアル。54ホールを終えて2位に6打差をつけながら、コロナの陽性反応で棄権を余儀なくされます。今回の火曜日の練ラン前、それについてメディアの質問が集中しましたがラームは、「ルールがあり、PGAツアーはそれに則って行動したまでで、自分は事前に今回のようなことが起きる可能性があることも知らされていた」と、少し意地悪な質問も一蹴します。すでに全米オープンに全神経を集中させていた表れだったのでしょう。最終日はバーディチャンスに何度もつけながら決めきれませんでしたが、集中力を切らさず17、18番での連続バーディ。18番のイーグルで勝った初優勝とダブる展開となりました。

トーリーパインズのあるサンディエゴは、出身のスペイン、バスク地方と気候や風景が似ているため大好きな土地。ラップで英語を覚えたというアリゾナ州立大時代、車を飛ばしてはケリーさんと何度も訪れたといいます。そして、コロナによる隔離生活の間に、同じく残り6ホールで6打差リードで失格し、翌週優勝した経験のあるニック・ファルドから送られた「挫折の後に飛躍がある」というメッセージ。いろいろなことがラームの優勝を後押しした感じです。

4月に誕生したケパくんと、コロナ禍で19年のクリスマスから会えなかった両親の前での優勝。父の日に、初のメジャーチャンピオン、そしてスペイン人初の全米オープンチャンピオンに輝いたことは、自分への、そして家族への最高のプレゼントになりました。

ラインをイメージする能力が高い!

「初優勝時も、昨年のBMW選手権でD・ジョンソンをプレーオフで破ったときも、とんでもないパットを決めたラーム。グリーンの読み、ラインをイメージする能力が人一倍高いように思います。今回のウィニングパットは2008年大会でL・ウエストウッドが外したパットをよく覚えていたのでラインはわかっていたと。冷静に記憶を呼び戻し、ラインを感じきっちりと読み切りました」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年7月13日号より