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【さとうの目】Vol.208 ウィル・ザラトリス「巧みな話術も魅力のショットメーカー」

PHOTO/Hiroaki Arihara

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、今年のマスターズで2位になったウィル・ザラトリス。

4月のマスターズで2位、5月の全米プロで8位、現在世界ランク29位と好調なのが24歳のウィル・ザラトリスです。

タイガーの影響で、この世代にはインターロッキンググリップが多いのですが、ザラトリスはオーバーラッピング。理由はゴルフを始めた少年時代にさかのぼります。父親がメンバーだったセレブなプライベートコースでゴルフを覚えましたが、「いいか、この握りだけは絶対に変えるな」と教えてくれたのが、所属プロだった故ケン・ベンチュリーだったのです。

また彼の近所にはラニー・ワドキンスがいました。息子とはゴルフ仲間の同級生で、ワドキンスの母校でもあるウェイクフォレスト大学に一緒に進む間柄。マスターズでの優勝争いには、ワドキンスの存在もありました。「おそらくラニーは覚えていないだろうが、14歳のボクにこう教えてくれたんだ。オーガスタの12番(パー3)は向かい風はあまり考慮に入れなくていい。ただ、追い風のときはやっかいで、手前の池を意識してつかまりやすい、と」。それを覚えていたお陰で初日、2日はバーディ、優勝争いで緊張する場面の最終日は「やや向かい風で、なにも気にすることなく普通に打てた」と答えています。

ゴルフ殿堂入りの2人との交流があったにせよ若手選手からは普通こうした歴史を感じさせるエピソードは聞かれないもの。しかもウィットに富んだ話しぶり。彼の頭のよさを感じます。

オーガスタには12番の前に、ホーガンブリッジと呼ばれる橋があります。映像を見ると4日間、左を見て振り返りながら橋を渡るザラトリスの姿が。これはオーガスタをラウンドしたことのある、パイロットの父からのアドバイスでした。「ここは出場選手だけしか入れないエリア。パトロンを見ながらマスターズを楽しめ」と。

ジョーダン・スピースとはジュニア時代から兄弟のような間柄。サンフランシスコからテキサスのダラスに引っ越したとき、ジュニアの試合で最初に一緒に回ったのがスピースでした。当時、テキサスのジュニア界にはスピースが君臨しており、そのすごさを彼は記憶力のよさと得意の話術で、面白く、興味深く伝えてくれます。こうした話は後世に伝えるゴルフ界の大切な歴史になります。

元々コーチはスピースと同じキャメロン・マコーミックでしたが、現在はジョッシュ・グレゴリー。オーガスタ州立大でパトリック・リード、その後、サザンメソジスト大でブラインソン・デシャンボーを指導、現在でも10人以上のツアープロを抱える名コーチです。

3歳年上のスピースの背中を見て育ってきたザラトリス。スピースと同様全米ジュニアを取り、Qスクールに失敗し、どのツアーのカードも持たないところから素早く這い上がってきました。そしてスピースと同じように初マスターズで2位となり、この後スピースと同じようにツアー優勝を挙げUSAの国旗を背負ってカップ戦まで辿り着けるのか注目しています。

ショット力の高さは折り紙付き

「188㎝、75㎏と細身の体で平均飛距離は306Yの飛ばし屋。イーグル数は14で、C・オルティスと並びトップ。コーチのグレゴリーをして、ブレーク前から『今まで見てきたなかで一番のショットメーカー』と言わしめています」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年6月29日号より