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【さとうの目】Vol.205 「人気ラーメン店の心得」スチュワート・シンク

PHOTO/Tadashi Anezaki

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手はスチュワート・シンク。

昨年9月のシーズン開幕戦・セーフウェイオープンに続き、RBCヘリテージで2勝目を挙げた47歳のスチュワート・シンク。47歳以上でのシーズン複数優勝は、1960年以降、サム・スニード、ジュリアス・ボロス、ケニー・ペリーに次ぐ、史上4人目の快挙です。

彼のゴルフを見ると距離が出ているなぁと感じます。実際スタッツにも表れていて、昨年295Yだったドライビングディスタンスは今年306Yに。ツアーで生き残るためにコーチと飛距離アップに取り組んできました。また南アフリカ出身のフィジカルトレーナーをつけたことも功を奏しました。

自分の取り組みをメディアにもオープンにするシンクですが、コーチを代えたり、様々な練習器具を試したり、データ管理を徹底するなど、あらゆることをしながらスウィング改造に取り組んできました。傍目には分からない変化ですが、スウィングは確実に進化、磨きがかけられており、ゴルフを俯瞰で見られるメンタルも持ち合わせています。

長く美味しいと評判のラーメン店は、自ら進化し続けないと伝統の味を保てないとも聞きました。まさにシンクのゴルフに通じるもので、年を重ねながらいい味を出し続けているのです。

意外だったのは試合の前夜、次男でキャディのコナーくんと、1番から18番まで徹底したラウンド計画を立てること。ピンポジは前日に発表されますから、天気、気温、風向き、グリーンの硬さなどを想定し、攻め方を決定します。当然、コースに行くと計画通りにいかない場合もありますが、そうした場合のシミュレーションも織り込み済み。「若い頃と違って、コースでは何も考えず、ムダにエネルギーを消費したくない」というのが理由のようです。これもまた、美味しいラーメン店は完璧な仕込みをして、あとはどんなお客さんが来てもいいよう準備することに似ています。 

シンクの選ぶトッププレーヤーはポール・エージンガー。強烈なストロンググリッブでオーソドックスとは言えないスウィングから個性的なフェードボールを打つ選手。何よりもシンクは彼の闘争心が好きだと言っています。試合中はもちろん選手としてピークのとき(全米プロに勝った93年)にガンを患い、打ち克ったエージンガーを尊敬しているのだそうです。

今季2勝目のRBCヘリテージでは、キャディの次男、ジョージア工科大時代に“さずかり婚”したリサ夫人に加え、そのとき生まれた長男のレーガンくんが急遽婚約者を伴い応援。優勝後は5人で写真に収まりました。そこには理想的なアメリカの家族の姿がありました。16年にステージ4の乳ガンの宣告を受け、乗り越えようとしているリサ夫人からも強い闘争心を学んできたのでしょう。

年を追うごとにレベルが上がり、チームを編成して戦うのが主流になりつつあるPGAツアー。前号で紹介したリー・ウエストウッドもそうでしたが、その中心に家族がいるチームの強さを感じました。

アッパーブローで飛距離アップ

「これまでのシンクは、ドライバーもアイアンのようにダウンブローで打つタイプでした。それをアッパーブローにして高弾道・低スピンのボールが打てるようになり、飛ぶようになったということです」

佐藤信人
さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中


週刊ゴルフダイジェスト2021年6月1日号より