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甲田良美&有村智恵 ママプロ対談<後編>「母親としてのゴルファーの生き方を見つけていきたい」

プロゴルファーと母親を両立する有村智恵と甲田良美。後編も、2人の“ママプロ”に、ゴルフや人生の変化や目標を語ってもらった。

THANKS/取手国際GC PHOTO/Tsukasa Kobayashi

有村智恵 ありむらちえ・1987年熊本県出身。10歳でゴルフを始め、2006年プロ入り。08年に初優勝後、勝利を重ねアメリカツアーにも挑戦。日本ツアー14勝のキュートなアスリート。4月に双子の男児を出産。3カ月の新米ママ
甲田良美 こうだよしみ・1983年栃木県出身。18歳でゴルフを始め、プロキャディなども経験し2009年プロ入り。翌年レギュラーツアー初優勝を挙げる。常に自身の夢を切り開いてきた。8歳と3歳の男児の“ベテラン”ママ

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  • 若手の活躍が目立つ女子ゴルフ界。でも、ベテランと言われるようになり各々人生の選択をして輝き続ける女子プロたちもいる。今回は、有村智恵と甲田良美、2人の“ママプロ”に、ゴルフや人生の変化を聞いた。 THANKS/取手国際GC PHOTO/Tsukasa Kobayashi 有村智恵 1987年生まれ、熊本県出身。10歳でゴルフを始め、2006年プロ入り。08年に初優勝後、勝利を……

「成田で託児所とレッスンをコラボさせたい」

――プロゴルファーの立場として、家庭と仕事の両立には、何が難しく、何が大事なのでしょうか。

甲田 これまでの環境だと、プロの試合に出ることとママ業は両立が難しかった。私は子どもを取るか、ゴルフを取るか、という感じになっていました。それが嫌で自分でベビーシッターの資格を取って、託児所をやりたいと考えたんですよ。三つ子の魂百まで、ではないですけど、3歳までに子どもと母親の関係性は作ることができると思う。それができる環境を実現したくて、LPGAの試合会場に託児所を作ってきました。それに私が住んでいる成田にはゴルフ場が多い。女子プロは東京に住んでいる人も多いから成田に託児所を作って、レッスンなどで仕事ができる場所を確立させたいという気持ちがあり、そういう活動をしています。でも私は、出たとこ勝負でしたよ。

有村 皆さん同じだと思いますけど、私も子どもが生まれるまでは生活の24時間、100%をゴルフに注いでいた。いい準備をして試合に臨みたいですから。でもそれを今求めるのは絶対に不可能。今までの自分が子育てと両立しようとすると無理だから、これから新しく母親としてのゴルファーの生き方を見つけ出すしかないと思っています。

会場に設置された託児所を担当した「ママゴル」を運営するChild Baseの大塚さんは自身が2児の母。ゴルフがしたくても行きづらい環境をどうにかしたいと09年から始めた。「ゴルフ場内託児なら、預かってもらう時間はプレー開始から終了まで。何かあれば駆け付けられますし、帰り道に家族でお出かけもできる。保育士は登録してもらい安全にできる人数を派遣。コースの近隣にもいます」。『パパゴル』もあり、パパが休日に子どもとゴルフに出かければ、ママに嬉しい時間のプレゼントとなり大好評。時代のニーズも手伝い常設のコースは年内には50になる見込み

甲田 私が長男を妊娠、出産して、自分に何ができるだろうと考えたとき、パソコンもできないからコンビニのバイトもできない、世の中の何もできない。もしかして社会の不適合者なのかなと。ゴルフを取ったら何も残らないと。だから、ゴルフで生活できる環境を整えたいと思ったとき、私と同じように悩んでいる女子プロはいっぱいいるだろうなって。試合に出たほうがスポンサーさんも付くし、レッスンするにしてもお客さんもうれしいですよね。だから試合に出るためにトレーニングしなきゃ、次に何をしなきゃ……となると子育てとの両立って大変なんです。

有村 わかります。

甲田 でも、私は結構ストイックなタイプだったから、それまでは結果が出ないと許せなかったことが、子どもがいるから予選を通らなくても仕方がないというふうに、いい意味で言い訳にできるようになった。ゴルフにストレスがなくて逆に楽しくなった。今までがむしゃらにやってきた自分がいたから、そう思えるんだって。


有村 へえ! 確かに私も言い訳はしてはいけないと思っていました。今までは、この場面で外してポイントを稼げなかったらシードはどうなるんだろうなんて考えていたから。だけど昨年はバンテリンレディスで1試合にしか出ないから、ボギーを打とうが予選を落ちようが何もない。怖がる必要はないと思いながらやっていました。

甲田 仕方がないよねって思える。

有村 やっぱり試合なので緊張はするんですよ。だけど、いい意味で腹をくくれるという感じがありましたね。

甲田 私はQTが楽しくなったんです。

有村 それは本当ですか!?

甲田 はい。だって、練ランを含んで5日間ゴルフができるという環境がまずなかった。でも託児所ができて、子どもともいられるし、何も文句を言われずゴルフができるんですから。

有村 今まで当事者ではなかったから、良美さんたちが動いていることに気付いていなかったけど、昨年妊活のため休んで、今回出産となってもあまりストレスがないんです。仕事をするにしてもゴルフをするにしても、皆さんすごくウェルカムな感じで「頑張ってね」と言ってくださる。それってたぶん、昔は当たり前ではなかったんだろうなって。こういう生活になったら、仕事がなくなったりスポンサーさんが離れたり、ゴルフがなかなかできないという環境があったと思うんですけど、それをまったく感じなかったのは、先輩方が頑張って、すごく環境が変わったんだと思う。JLPGAの方とも話をしましたけど、やはり子どもを連れて試合に出場する選手がいないと託児所を作っても意味がないし、そのせめぎ合いみたいなものがあったと。お子さんがいる方が試合に出てくれたおかげで変わったんだろうと思います。実は私、今年全英女子オープンに行くんです。

甲田 出るわけじゃないよね、予選会とかに(笑)。

有村 解説の仕事で(U-NEXT)、子どもは熊本で母と姉が見てくれるんです。

「仕事も子育てもどちらもやりたい」という有村。依頼された仕事にはしっかり取り組む。全英女子オープンの解説も楽しみだ

甲田 絶対にいいと思う。物心つかないときから預けることも必要。

有村 すごく葛藤はありました。

甲田 すごく心苦しいんだよね。

有村 すごく寂しいというのもあるし。

甲田 最初は寝られないよ。

有村 本当ですか。でもこれからの訓練なのかなって。寂しさに負けたら練習なんて行けませんよね。仕事なら使命感で子どもと離れられるけど、練習なんて自分のさじ加減で行くことはやめられる。そんなことだったら絶対に復帰はできないって。やっぱり社会復帰ってけっこう大事です。私は経済的に困ることはなかったですけど、何もしない、仕事がないと精神的に本当に安定しないんです、子育てってすごく立派ですごいことなんだけど、なんだかこう、働いていないと気が済まないというか。

甲田 プロゴルファーって産休手当などもないので、無収入がすごく不安なんです。

有村 主人の存在はありますけど、急に不安になるんですよ。

甲田 自分で稼いでいないのが、自分が必要とされていない気になったり。智恵ちゃん、ちょうど今そういう時期でしょう。

有村 はい。いただいたお仕事を断るというのも、なんだか嫌で。

甲田 断って若い子に行ったら来年は呼ばれないかもという恐怖があります。

有村 私もありますよ。今回は家族が、今しか行けないかもしれないから行っておいでと。ママがいなくて泣くこともないし、これから同じような仕事が来てもいけない可能性のほうが高くなるかもしれないからって。それに、セントアンドリュースですから(笑)。

甲田 私は、ジジババに、甘やかせていいよって言っています。ママがいないときに特別なことができると思ってくれるから、ママがいなくても嫌にならないんですよ。

有村 自分でしょい込みたい気持ちもあるんです。やっぱり全部自分でやりたくて、関わっていたくて、でもそこは自分で断ち切らないと絶対に社会に出ていけない。どちらの気持ちもわかるけど、どっちもやりたい。

甲田 体が2つ欲しいです。

有村 もちろんゴルフだけやり続けて幸せになっている方の気持ちもわかる。子どもを持たずに幸せな人生を歩むのもわかるし。結局、女性は何を選択しても、モヤモヤは絶対残るだろうと思うんです。

甲田 そう思う。

有村 出産するという選択をしたら、あのときもう少しゴルフを続けたかったというモヤモヤが残るし、ゴルフだけしていても一度出産にトライすればよかったというモヤモヤは残る。どちらでもすっきりすることはない。後輩たちにもそれをずっと言っています。どちらを選んでも、後悔しないことはないからねって。

甲田 でも結局どちらも、後悔はないとも思います。

有村 そうですね。若い頃みたいにゴルフのことだけを考えているのは絶対に無理だから。

「ゴルフを取ったら何も残らないんです」

後輩プロからの相談も多い。「親ではなくても、見てくれる人がいる環境を自分で作ってからゴルフに戻ると考えたほうがいいと思います」

「何を選択してもモヤモヤは残ります」

子どもが理由でゴルフをやめるという選択肢はなかったという。「どうにかやれないかと考えるから、結局準備が必要だと思います」

――自分たちが心地よく楽しくできる場所を作る。強く、しなやかに。気張らず、準備はしっかりと。変化し進化し続ける女子プロたちを応援していきたいですね。最後に今の目標を!

甲田 私はやっぱり託児所を設置したい。それが成田のゴルフ振興にもなるとも思います。あれだけゴルフ場があるのにプロゴルファーが1人も出たことがないんですよ。だから、プロを出したいというちっちゃい夢があります。レッスンする環境と託児所をコラボさせたいと思いますね。

有村 すごい! 私はまだ出産したばかりで明確な目標は持てないんですけど、小さな夢としてはやっぱり、試合に子どもを連れていきたいかな。LADY GOで同世代の選手たちと皆で“遊ぶ”気分も持ちながら、試合もして、という環境も続けていきたいと思います。

ツアーには若手が増えた。「周りの人は皆変わらない。私も気づいたら36です(笑)」(有村)「皆飛びます。でも智恵ちゃんが若い時も飛んでいました」(甲田)「そういう時代もありました」(有村)

週刊ゴルフダイジェスト2024年8月13日号より