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【インタビュー】蟬川泰果<後編>「お金を払って見に来てもらっている以上、楽しいと思ってもらえるように…」

2023年、プロ1年目にして賞金ランキング2位となった蟬川泰果。後編では、蝉川のファンに対する思いから、プロとしての矜持、そして今後の目標などを語ってくれた。

PHOTO/Masaaki Nishimoto、Blue Sky Photos、Tadashi Anezaki THANKS/樫山ゴルフランド

蟬川泰果 せみかわ・たいが。アース製薬所属。2001年1月11日、「1」が4つも並ぶ日に生まれた。兵庫県加東市出身。22年9月のパナソニックオープンでアマチュア優勝を飾ると10月には日本オープンを制し、同月プロ転向。23年は4月の関西オープンでプロ初優勝後、最終戦のJTカップでも優勝を飾った

>>前編はこちら

家族や周囲に感謝を忘れない

蟬川を常に支えるのは家族や昔から応援してくれる人々。地元の練習場も含め、蟬川の「原点」だ。

「ここは中学生くらいからずっと来ています。大学から戻ってきたときも練習していたり、優勝したパナソニックオープンや関西オープンのときも来ていた。昨年、手応えが戻ってきて復活につながったABCのときもです。何だか、運をもらえるというか。よかったときのショットはこんな感じだったなあ、今は逆にダメになっているなあと、自分の調子を知ることができる場所だと思います」

蟬川直筆のイラストも柱に貼られていた。しまじろうと虎のハーフを描こうとしたらしいが……


ここで基本的なスウィングのチェックをしたり、打てる球種を増やすような練習をしている。

「スティックを置いて、ターゲットを1カ所に決め、たとえば250Yの看板を狙って練習します。アライメントのズレを調整するのと本当に感覚的な部分。いいショットを打つというよりは、自分が動けているか、体のほうをしっかりチェックします。ここでは打つより考えるほうが多いんです」

近々練習場内に“泰果ミニミュージアム”を作る計画もある。蟬川の歴史が積み重なっていく。

「順調ですよね(笑)。ここの社長さんたちも、ずっと応援に来てくれます。本当にありがたい。JTのときも、皆さんが最後駆け付けてくれて……」

“泰果ミニミュージアム”に飾られる予定の歴代キャディバッグ。「頑張って集めてます」(田中さん)

優勝後、蟬川が好きな色、ピンクの応援タオルを持って写真に収まる“泰果ファン”たち

友達との時間も大切にしている。最近はボウリングとゲームセンターと買い物にハマっているという。

「ボウリングはめっちゃ面白いですよ。中3くらいからハマって。VISA(三井住友VISA太平洋マスターズ)で予選落ちした次の日にも行きました。そこから登り調子になってきたので、やっぱりボウリングは必要かなって(笑)」

ベストは高校生のときに出した208。先日も165のスコアが出たほどの腕前だ。

「楽しいんですよね。最近、カーブを投げる練習をしているんです。あ、ドローボールとは全然違いますよ。ドローは走らせすぎると、出球から左へグッと行く感じになってしまうので。カラオケも大好きです。上手くなりたいときはめちゃくちゃ練習します。何を歌うのかは内緒です。一番歌が上手な同級生は、上野菜々子。河本結ちゃんの次くらいです」

金谷拓実、中島啓太は「レベルが違う」

2023年、後半戦に進むにつれ、ギャラリー数も増えてきた。

「めちゃくちゃ感じました。(2022年の)パナソニックでは、僕がアマ優勝するんじゃないかとなって、しかもすごい選手たちがたくさんいるのに、あまりギャラリーがいなくて。僕が小学生の頃見ていたツアーとは全然違うのかなと思っていました」

それを、蟬川たち世代が変えていく。その兆候は出ている。

「少しずつ一緒に盛り上げていけるようになっているのかなとは思います。日本ツアーが盛り上がってくれば、次に求められることは、海外での活躍だと思うんです。そういう選手が日本に戻ってきたとき、またギャラリーも増えるんじゃないかと考えています」

これは蟬川の変わらない思いだ。日本ツアーも大事だからこそ、自らが海外にも挑戦して活躍し、凱旋出場して盛り上げていきたい。

昨年の賞金ランキングトップ3の中島啓太、蟬川泰果、金谷拓実が、若手を、ツアーを引っ張る存在となった。

「正直な気持ちですけど、中島選手、金谷選手って、やっぱりレベルが違うなと。自分より上の次元にいるのをすごく感じます。その選手たちのレベルにたどり着いたときに自分のゴルフがもっと楽にできるんじゃないかなと思ったり。バーディやイーグルの数は僕のほうが取っていると思うんですけど、ボギーやダボが2人に比べて圧倒的に多いのが欠点だと思うので。しっかり拾っていけるようになりたいですね」

アマチュアがプロの大会で勝つことも珍しくはなくなった。その流れを作ったひとりとして、「最初に火をつけたのは金谷さんかと思うんですけど、1年空いて、中島選手が優勝して僕が勝ちました。やっぱり身近な選手が成し遂げたのがすごく刺激になった。優勝できる気持ちにさせられました。続く選手も同じだと思います。その人のレベルに自分もいけばいい、そこにずっと目を向けて、上を向いた状態で取り組める。だから、今年もまたアマチュア優勝する選手がいるかもしれない。でも自分たちがプロとしてそうさせないように頑張らないといけないなあとも思います」

改めてプロとアマは何が違う?

「難しいですねえ……プロは自分の移動経費からプロキャディさんを雇ったり、掛かるお金が目に見える状態からのスタートです。だから、1打でも、というステディさが出てくるんです。でも、自分のゴルフをしっかり出し切るためには、それをわきに置いて、今持っている自分のゴルフをする必要があると思います」

1年前、蟬川自身が語っていた「腰を据えてのイケイケも大事です」ということなのだろう。

ドキドキ、ワクワクを届けたい!

金谷拓実は蟬川のことを「1打の集中力がすごい。アグレッシブになれるのはそれがあるから。だから、ドライバーも曲がらないと思って打っていける」と言っていた。アグレッシブさは蟬川が大切にするプレースタイルだ。

「僕、全然タイプが違うと思います。2人は何かこう綺麗で、スコアを見てもすごく綺麗なスコアですけど、僕のスコアは山あり谷ありなので。見ている人をハラハラさせるのかなって」

ハラハラは、ドキドキにもワクワクにもなる。

「自分でもハラハラしてますよ。すっと落ち着いてプレーしたいんですけど、急にダボやトリを打って、感情もあがっちゃうんです」

「ハラハラさせるのが僕のプレー」と笑う蟬川。それ以上にドキドキ、ワクワクもさせてくれる。「一緒に盛り上がって、楽しんでくれたら嬉しいです」

気持ちが表情に出る姿も魅力であるのだろう。

「なるべく笑うようにしようと思っています。見ている側も、すごく怒った顔をすると、気を使うやないですか。笑うことで、メンタルも落ち着くらしいんです。それに笑顔でいるほうが優しそうですよね(笑)。やっぱり、お金を払って来てもらっている以上、見ていてある程度は楽しいなと思ってもらいたい。ゴルフもですけど、人間的な部分も見られると思うので。そのへんで応援しようかなという気持ちになってもらえるように心がけています」

あくまで“ギャラリーファースト”。この信念はゆるぎない。

キャディのアドバイスもあり、笑顔でいることを心がける。「なるべくいいときの自分をつくったほうがいいと言われたんです。プレーにもすごくいい効果がありました」

優勝したら、自分へのご褒美や家族への感謝を込めて、高価な品物も買うという蟬川。

「優勝しての記念事でもあるし、賞金ランキング上位の人がいいものを身に着けているとなれば、ゴルフという職業に夢を持てるかもしれない。物欲と言われればそうだし、よく思わない人もいるかもしれませんが、僕が欲しい物を身に着けて、それを見てカッコいいなあと、小さい子がプロゴルファーを目指すきっかけになることもあるかもしれないので。これが僕の“素”ですからね」

今年、主軸は日本に置くものの、積極的に海外には出ていく。

「どの試合に出られるのかが見えてこないので、作戦を立てにくいんですけど……でも日本の賞金王を目指しながら、向こうにも挑戦することになります」

その先にあるのは、海外のメジャー制覇だ。

賞金王&海外で1勝の目標のために練習法も、人から盗み、自分で考え、アップデートしている。リラックス法は、「アース製薬さんの『バース』という入浴剤を入れてお風呂に入ることです!」

週刊ゴルフダイジェスト2024年2月13日号より