【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.772「スウィング改造は元に戻れないという覚悟を持って取り組まないと後悔します」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
渋野選手はメジャーチャンピオンになったのにスウィングを変えないといけなかったのでしょうか。渋野選手に限らず、トップ選手があれほどスウィングを改造したがるのはなぜなのでしょうか?(山本祐樹さん・45歳・HC12)
アマチュアの方でも思うようなショットが打てなくなると、どこかがおかしいと感じるかと思います。
変だな、調子悪いな、といった感触がある場合、みなさんはどうしますか? ちょっと休めば大丈夫って思いますか?
しかし、プロゴルファーはそうはいきません。なぜならゴルフは仕事ですから。
調子が悪ければ、練習して課題を見つけ、納得のいく修正ができるまで打ち込みを続けるしかありません。
調子を崩すたびにこれを繰り返す。それがプロの宿命でしょう。
常に自分の課題を探し、足りない部分を克服しようという姿勢でいれば、日々の練習はかなり内容が濃くなると思います。
決まったメニューを黙々とこなし、その日のノルマを消化するというより、工夫と考えを巡らせながら試行錯誤するトライアルの連続になります。
体を動かす時間に加えて、頭を使う時間も必要になるため、一日が短く感じられるはず。プロゴルファーの一日は結構忙しいものなのです。
プロを目指してひたすら練習に明け暮れ、努力の末にプロテストに合格。やっと仕事を得たとなっても、出場できる試合は限られています。
次の週、次のシーズンの試合に出るためには、その出場資格を確保し、自分の地位を維持していかなければいけません。その実力は自分自身で身につけ、高めていく以外ありません。
選手たちは常に、今の自分を超えていく向上心を保ち続けているはずです。当然、理想のスウィングを身につけたいと願っていますし、いまよりもっと飛ばしたいと思っています。
プロがスウィング改造に着手する場合、その目的のほとんどが飛距離アップと正確性、安定性の向上といってもいいでしょう。わたしなら、自分のスウィングを理解したうえで、そのための工夫を凝らすでしょう。
でも、最近の選手がスウィング改造に取り組んでいるのを見ても、そのようなビジョンやイメージのようなものの想像があまりできません。
飛ばすプレーヤーがシャロースウィングを採用しているから、自分も真似をする──それでスウィング改造が上手くいくとは思えません。
一口に理想のスウィングといっても体格や筋力、柔軟性、クセや性分は千差万別です。形だけ取り入れようとしても無理があります。
その人が今まで普通にショットを放っていたとすれば、今までのボールの位置、ボールと体との距離感、トップの位置やダウンスウィングの振り下ろす角度などそれなりの理由があったはずです。
それを、すべて変えようとすれば混乱が生じるのは当たり前ですよね。
これまでにもトッププロでさえ同じ失敗を繰り返してきました。
本人やスウィング改造を指導するコーチは、その変化をほんの少しのフォーム調整くらいに考えているのかもしれませんが、スウィングとは実に繊細で感覚的には1ミリの違いでも大きな改造に当たります。それが分かったうえで取り組んでいるのでしょうか?
実際、ここ数年間いい成績を挙げてきたトッププレーヤーが、突如スウィング改造に着手して、翌シーズン一転して苦しむ姿を目にしてきました。わたしには正直、改造する必要があったのか疑問ですし、この素朴な疑問はプロでもアマでも変わりません。
衝動的に改造に着手したくなるのは、わたしも理解できます。
ですが、あれこれイジって微調整するうちに改造の初期の目標やビジョンを見失い、スウィングバランスを壊すなどして、混乱を来した時には、もう元へは戻れなくなっているというケースが多いのも事実です。
筋肉に蓄積する記憶は、練習して動かすことで上書きすると元の記憶は取り戻せません。それが想像以上にゴルフ全体に影響することを頭に置いておくべきです。
始めたのはいいけれど、途中で失敗に気づいて戻りたいと思っても手遅れになってしまう──これは受け入れなければならない宿命の一つなのかもしれません。
「練習と同様にスウィング改造も慌てず一歩ずつコツコツ地道に行うべきだと思いますね」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号より
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