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パーマー、クレンショー、タイガー…識者が選んだマスターズの名勝負

オーガスタナショナルGCで開催される「マスターズ」では数々の名勝負が繰り広げられてきた。マスターズに詳しい識者4人に思い出に残る名シーンを教えてもらった。

TEXT/Kenji Oba PHOTO/Tadashi Anezaki、Blue Sky Photos、GD写真部

「マスターズのおかげでゴルフ界が大きく変化した」(川田太三)

川田太三

コース設計家。成田GC、イーグルポイントGCなど国内40コース以上を設計・監修。米国ゴルフマガジン誌「世界のベストコース100」選定委員

ゴルフ場の設計23、改造29を手がけたコース設計家の川田太三氏は、マスターズの競技委員も歴任した人物。そんな川田氏の記憶に残るオーガスタ名勝負とは?

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マスターズは記憶に残りづらいメジャーでもあります。その理由は同じコースで開催されるからです。全米OPや全英OPのように会場が変わるメジャーのほうが記憶は残りやすいかもしれません。

私がマスターズの試合に興味を持ち始めたのは1956年からです。当時は新聞などで記事をチェックしていました(米国のテレビ中継も56年から)。個人的には世の中を変える動きが興味深かったですね。まず思い浮かぶのは1958年です。アーノルド・パーマーがマスターズで初優勝した試合です。

1955年にツアーデビューを果たしたパーマーは、人気絶頂の選手でした。そして最終日最終組、首位はパーマー、1打差で追うケン・ベンチュリがスタートすると12番パー3で事件が起きました。パーマーの1打目がグリーンを外れ、奥のぬかるみに刺さったのです。パーマーは救済を主張しましたが、競技委員に拒否されてダボに。納得のいかないパーマーは暫定処置として救済を受けた第2のボールをプレーしパーを取り、裁定を待ちました。そのパーが競技委員会に認められ、その勢いに乗ってパーマーが優勝したのです。当然、その行為に不快感を示したベンチュリでしたが競技委員に説得され、スコアを提出しました。

実はベンチュリは1956年、アマチュアとしてマスターズに出場していました。3日目で首位に立ったのですが最終日、ジャック・バークJr.に8打差をひっくり返されています。その経験もあったからこそ、彼にとっては悔しい試合になったはずです。

もうひとつルールに絡んだ事件として話題になったのが1968年です。優勝はボブ・ゴールビーでしたが、トミー・アーロンが優勝争いをしていたロベルト・デ・ビセンゾの17番のスコアを4と誤記したのです。本当はバーディ(3)でしたが、ロベルト本人もスコアカードに署名をしてしまった。リーダーボードではゴールビーとデ・ビセンゾが11アンダーで並んでいたのですが、結局プレーオフにはならなかったのです。

この2つの試合はルールが絡んだ問題として注目され、ゴルフ界にも大きな影響を及ぼしました。振り返るとこの時代は、ゴルフのルールも今ほど細かくなかったのです。マスターズがテレビ中継され、見られるスポーツとなったことで、ルールの明確化にもつながったのではないかと思います。

最後は1979年。ファジー・ゼラーとエド・スニードの戦いです。最終日、最後の3ホールまでスニードがリードしていましたが、16番、17番、18番でスコアを落とし、スニード、ゼラー、トム・ワトソンの3人によるプレーオフに。2ホール目でバーディを奪ったゼラーが優勝しました。この優勝がきっかけでゼラーは有名になり、全米OPも優勝しました。一方、スニードは有名になれる機会を失ったのです。まさに2人のゴルフ人生が劇的に変化した試合だったといえます。

スコア誤記でボブ・ゴールビーが優勝(1968年)

ロベルト・デ・ビセンゾのスコアカード誤記で優勝したB・ゴールビー。本人はプレーオフを覚悟していたというが、そのまま優勝となった。その表彰式はマスターズ特有の高揚感のあるものにはならなかったという

「マスターズは見せるゴルフ。パーマーは当時の英雄だった」(タケ小山)

タケ小山

ゴルフ解説者。世界中のツアーに精通するプロ。TBS「サンデーモーニング」の解説者としてもお馴染み。小誌で「世界パトロール」を連載中

プロゴルファーであり、ゴルフ解説者でもあるタケ小山は、オーガスタの名勝負で何を選ぶのか?

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1960年、アーノルド・パーマーが2度目の制覇をした試合です。4日間、首位を守る完全優勝でした。今でもYouTubeで動画が見られますが、最終日の途中でケン・ベンチュリ、ダウ・フィンスターワルドにリードを許すも17番で8mのバーディを決め、18番もベタピンでバーディ。連続バーディで逆転したのです。素晴らしい試合でした。パーマーはIMG(世界最大のアスリートマネジメント会社)と契約した最初のアスリートですが、1960年代のスターだったパーマーのおかげでゴルフツアーが有名になり、放映権を売るというシステムが作られていったのです。今のゴルフトーナメントの原型が生まれた時代といえるでしょう。

もうひとつ記憶に残るのが2017年、セルヒオ・ガルシアのマスターズ初制覇です。メジャー74試合目、19回目のマスターズで手にした悲願の優勝でした。仲のいいジャスティン・ローズとのプレーオフも印象深かったですね。

最後は1995年のベン・クレンショーです。恩師のハービー・ぺニックの死を乗り越えてつかんだ2度目の優勝でした。この試合は米国にいたときで、リアルタイムでテレビ観戦していました。18番でクレンショーが涙したシーンは、とても感動的でした。

19度目の挑戦で初制覇(2017年)

ガルシアの優勝はスペイン勢としては3人目。「マスターズはギャラリーに強いタイプの選手が勝つね」(タケ)

「タイガーの復活優勝に大感動。とんでもない選手です」(内藤雄士)

内藤雄士

日大ゴルフ部時代に米国にゴルフ留学し、最新のゴルフ理論を学ぶ。その後、丸山茂樹のコーチを務め、現在、大西魁斗、清水大成らを指導。日大ゴルフ部コーチ

2001年、丸山茂樹のコーチとしてマスターズを経験した内藤雄士。内藤が選んだオーガスタの名勝負とは何か?

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1995年の試合です。ベン・クレンショー、トム・カイトを育てたハービー・ぺニックが試合の前週に亡くなったのです。クレンショーは当時、「私にはハービー・ぺニックという15本目の心強いクラブがあった」と語りました。私のようなコーチの立場で考えると、それだけ強い信頼関係があったわけです。ぺニックの理論、人柄や取り組む姿勢が素晴らしかったことを物語っていました。

もうひとつは2019年のタイガー復活優勝です。2001年に絶頂時のタイガーを見ていますから、もう優勝は見られないと思っていました。それが復活したのです。本当に感動しました。

最後は1989、90年のニック・ファルド連覇です。私が米国留学していた大学生のときで、オーガスタでライブ観戦したからというのが大きいです。彼のスウィングを見てプレーンの美しさや安定感に衝撃を受けたのを覚えています。コーチであったデビッド・レッドベターのスウィング理論がブームになり始めた時代で、レッスンの基礎が作られていった創成期といえますね。

クレンショーが恩師の死を乗り越え涙の優勝(1995年)

タケ小山と内藤雄士が選んだのがクレンショー、恩師の死を乗り越えた涙の優勝だ。「マスターズ前の4試合は予選落ちが続いていたが、恩師の死をきっかけにマスターズで勝った」(タケ)

タイガー奇跡の復活優勝(2019年)

D・ジョンソン、B・ケプカといった若手選手を抑え、復活優勝したタイガー。「2022年、自動車事故から復帰してマスターズで予選通過したのも信じられません」(内藤)

レッドベターに師事するファルドが連覇(1989・90年)

「1989年、ファルドの最初の優勝を現地で観戦しました。ファルドのスウィングは非常に理にかなっていて、もっとスウィング理論を勉強したい、そう思うきっかけになりましたね」(内藤)

「名勝負のなかで歴史的な意味を持つ試合を選んだ」(江連忠)

江連忠

高校卒業後、渡米しミニツアーを転戦しながらジム・マクリーンに師事。日本のプロコーチ第一人者となり、片山晋呉や上田桃子を賞金王に育て上げる

片山晋呉を賞金王に導いた、プロコーチの第一人者、江連忠は大のマスターズ好きとして知られる。どんな名勝負を挙げたのか?

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1983年のセベ・バレステロスです。1980年に勝っていますから2度目の優勝ですが、そのカッコよさに釘付けになりました。圧倒的な飛距離、スウィングの柔らかさ、攻撃的なプレー、そしてイケメンな顔に憧れました。

1997年、タイガーのマスターズ初制覇(史上最年少優勝)、1986年、ニクラス6度目の優勝(史上最年長優勝)は、歴史的な意味を持つ名勝負です。マスターズは伝説級の試合が多いですから2021年の松山英樹の日本人初制覇も語り継がれる名勝負です。

セベ2度目の優勝(1983年)
ニクラス6度目の優勝(1986年)

タイガーが史上最年少で初優勝(1997年)

「12打差という最大スコア差と18アンダーという最少ストロークを記録したタイガー。当時のキャスターの興奮したトークを鮮明に覚えています」(江連)

週刊ゴルフダイジェスト2023年4月18日号より

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