Myゴルフダイジェスト

【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.111 「今でも鮮明に覚えている“埃みたいな球”」

高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。

前回のお話はこちら

ゴルファーなら誰しも、こんな球を打ちたいという理想の弾道をいくつか持ったことがある思いますが、僕が20代後半の一時期に打ちたい思うたんは、”埃”みたいな球です。

その球を打っていたのは竹安孝博さんです。僕がデビューして間もない頃に何回か回ったことがある先輩プロですが、特筆すべきはその球質でした。バックスウィングをゆっくり上げて、インパクトはバチーンといかない、フワァ~いう感じで打つんです。

そのスウィングで打たれた球は、皆が憧れるバァーンという豪打で放たれた球とは真逆の、フワァ~いう情けない球ながらもなぜか落ちずにずっと飛んで飛距離はそこそこ出ておる球でした。

それを見たときに、この人なんやろなとビックリして、すぐに師匠(高松志門)に聞いたんです。


「先生、竹安さんっていう人と回ったんですけど、何ですかあの人?」言うたら、師匠は、「埃みたいな球打つやろ」言いました。

師匠の言った言葉は、まさに言い得て妙な表現でした。その球は、本当にフワァ~ッと宙に舞い、自分が思った所に落ちる、まさに”埃”。ゆっくりとした等速で進んでいく球。今で言う、スピンレスの棒球のような球やった。

それを、意図的かどうかはわからんけど、竹安さんは今から30年前に打っとったんです。その後、僕はその”埃”みたいな球に憧れ、どうしたらあの球を打てるんかなと思うて、ずいぶん練習しましたけど、なかなか打つことができなくて。

それで師匠に、「あの埃みたいな球、どう打ったらいいんですか」と。

そしたら、「立派な球打とうと思って構えんこっちゃ。ベンツに乗ってエナメルのスパイクを履いて構えたらアドレスもギンギンになるやろ。要するに立派な球を打とうと思うと硬さが出るいうこっちゃ。だから”埃”みたいな球を打ちたかったら、軽トラでゴルフ場に行き、普段着でボールに向かって構えて、人生で一番情けない球でええ思って打て。そしたら一番ええ球になるから」と教えられました。

30年以上前のことですが、今でも”埃”のような球のことは鮮明に覚えています。

81年新潟県オープンで優勝した竹安プロ。「人生で一番情けない球でええと思って打つと、ええ球が出ると言うんですわ」(奥田)

奥田靖己

おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する

週刊ゴルフダイジェスト2023年1月3日号より