【イザワの法則】Vol.27「ゴルフに『ライバル』はいない」
世界も認めた美スウィンガー・伊澤利光が、ゴルフで大切にしていることを語る連載「イザワの法則」第27回。今回のお話は、伊澤が感じる「ライバル」という存在について。
TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM)
特定の人物を「ライバル」と
思ったことはない
同時代に活躍する人が複数いると、本人同士がどう思っているかは別として、周りが勝手に「ライバル」だと決めてしまうことがあります。ジャンボさん(尾崎将司)の時代の、「AON」(青木功、尾崎将司、中嶋常幸の頭文字)なんていうのがいい例ですね。
「ライバル」というと、何となく仲が悪そうなイメージがありますが、実際そういう人は少ないんじゃないかと思います。ツアーだと、ほぼ毎週顔を合わせることになるので、あまり意識しすぎると疲れちゃいますから。ただ、学生時代からシビアに競い合っていて、お互いを意識しまくり、同じ組になっても会話ゼロという関係も、時々あります。もちろん、誰とは言えませんが(笑)。
私の場合はというと、誰かを「ライバル」だと思ったことは、一度もありません。というのは、ゴルフは自分がどうプレーするかがすべてだと思っているので、他の人のプレーとか成績に、あまり興味がないからです。コース上で誰がどんなゴルフをしていても、スコアで自分が上回れば優勝できる、というのが基本的な考え方。試合中は自分が勝つこと以外は考えていないですし、勝てなかったときに、じゃあ誰が勝ったかというのは、まったく気になりません。
強いて言えば、ラウンド中に、「タイガー(・ウッズ)ならどう打つか」と考えることはあります。とくに、相当うまく打たないとグリーンを狙えないような難しい場面で、タイガーだったら「どこに外すか」を考えつつ、自分の攻め方を決めたりしています。
ジャンボの記録を
どれかひとつでも上回りたかった
タイガーがどうするかを考えるのは、意外に「堅い」攻め方をするタイプだからです。たとえば、グリーン周りに池があるホールで、タイガーが2打目で池に入れるということはほぼありません。ティーショットが池に入ってもパーの可能性はありますが、2打目で入れてしまうとパーは厳しくなる。タイガーはその線引きがはっきりしているので、どちらかのサイドが危険な場合には、あえて曲がり幅を大きくとって狙っていくことがよくあります(曲がりを一定方向に限定するため)。
その堅いタイガーなら、この場面で狙うのか、それとも安全第一でいくのかを考えると、自分が直感で選んだショットプランを、第三者的な視点で少し冷静に判断できるわけです。でも、これは「ライバル視」ではなくて、コースマネジメントの引き出しのひとつとして使ってるって感じでしょうか。
たとえば、ジャンボさんがライバルだったかというと、それは絶対になくて(笑)、自分にとってはあくまでも「師匠」的な存在です。ジャンボさんはオフにどれだけきつい練習で自分を追い込んでも、シーズンが開幕して1勝するまでは、「もう一生勝てないんじゃないか」と思っていたらしいんです。この話をジャンボさんのマネジャーから聞いたとき、そういう、ある意味、臆病な面がないと一流にはなれないんだということを教わった感じがしました。
そんなジャンボさんをどれかひとつくらい上回りたいというのが、あるときから自分の「目標」になりました。とはいえ、通算勝利数や年間勝利数は、かなりの不可能ミッションなので、年間獲得賞金額の記録更新を狙っていたのですが、これは2001年に達成できたので、少しは恩返しができたんじゃないかと思っています。
「ジャンボさんはライバルではなく憧れ。
何かひとつでも上回ることが目標だった」
ジャンボから「左へ振れ」とよく言われた
ジャンボは伊澤に対して「左に振れ」とよくアドバイスしていたという。これはフェードヒッターの場合、フェアウェイの左サイドに対してフェースをスクエアにして、真っすぐボールを押し出していくイメージ。ヘッドを返す動きとは異なる
伊澤利光
1968年生まれ。神奈川県出身。学生時代から頭角を現し、プロ入りしてからは、プロも憧れる美しいスウィングの持ち主として活躍。2001年、2003年と2度の賞金王に輝く。また、2001年、マスターズで日本人最高位の4位入賞(当時)。現在はシニアツアーを中心に活躍中
月刊ゴルフダイジェスト2023年2月号より