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【陳さんとまわろう!】Vol.243 ベン・ホーガンの球は凄かった。低い弾道で矢のように飛んでいくんですから

日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。ゴルフ界の“超レジェンド”ベン・ホーガン。生でその姿、ゴルフを見たことのある陳さんがホーガンの凄さを語ってくれた

TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ

前回のお話はこちら

初めて見たベン・ホーガンは
注目を一身に集めていた

――陳さんはベン・ホーガンの影響を大きく受けていますが、今回からそのホーガンについて、まとめて語っていただきましょうか。

陳さん はい。ホーガンはよく知られているように、グランドスラマーなんだね。4つのメジャー競技を全部獲ったわけ。確かジーン・サラゼンの次に達成したはずよ。私が初めてホーガンを見たのはウェントワース(英国)のワールドカップ(当時はカナダカップ)でね。1956年ですよ。台湾が初めて代表を送った年ですからよく覚えているんだ。このときホーガンは3年前の全英オープンに優勝してグランドスラムを達成していたんですよ。だから会場では選手たちの注目を一身に集めていてさ。ホーガンが練習場に来ると選手みんなボールを打つのをやめてギャラリーになっちゃって、ホーガンのショットにくぎ付けになっていましたよ。

――アメリカ代表はホーガンとサム・スニードでした。


陳さん そう。私、スニードは知っていたんだ。彼のレッスン書を読んでいたからね。でもホーガンのことは知らなかったのよ。だから選手がみんな練習をやめてホーガンの周りに集まるのを見て、何だろうって思ったぐらいでさ。そのうちギャラリーも集まってきて人垣ができたから、その下をくぐり抜けて(笑)、いちばん前に出てしゃがんで見たんだ。そうしたら、凄かったの。ボールが低い弾道で矢のように飛んでいくわけよ。それも番手が同じときは弾道の高さも同じでさ。高さが同じということは、ボールが落ちる場所も同じということよ。だから落下点に立ってボールを拾うキャディはほとんど動かないんだよ。

――ボールは左右にも曲がらないんですね。

陳さん 曲がらない。スプーンやロングアイアンでもほとんどブレなかったね。びっくりしましたよ。こんな凄い人と戦うのかと思ったら、途端に意気消沈しちゃってさ。それまでは自分なりに相当上手いと思っていたのにね。もちろん日本のトッププロよりは腕が落ちますけど、その次ぐらいの意識はあったんだ。このときの日本代表だった林(由郎)さんが言っていましたよ。「あの人たちのゴルフを見てたら、まだまだ僕らは勉強が足りない」って。

――ホーガンは68、69、72、68の277で優勝。陳さんは77、78、75、77の307で30位タイ。林さんは81、75、73、68の297で17位タイでした。

陳さん こういう大舞台で戦うのは初めてでしたけど、4日間で30ストロークも違うんですから、技術の差は大きかったんだねえ。その技術の差の最大のものが低いボールなんですよ。ボールを低く打つのは技術的に難しいんだ。それなのにホーガンはビシッ、ビシッって勢いのいい低いボールを打つわけ。
見ていて気が付いたのは、ホーガンはバックスウィングで腰を回さないんだ。当時、日本のプロは腰を回せって言っていたんですよ。するとトップオブスウィングで右腰が後ろに引けて、正面からその形を見ると逆「く」の字になって、後ろの景色が見えるんだ。ところがホーガンはバックスウィングで右足にウェイトをかけるだけなんだねえ。すると腰が右にスライドするの。またダウンスウィングでも腰はボールを打ち終わるまで回さないんだよ。左へスライドさせるの。ここなんだ、低いボールを打つポイントは。

陳清波

陳清波

ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた

月刊ゴルフダイジェスト2023年12月号より