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女子アマV 寺岡沙弥香の強さの秘密<後編>「自分で考てて工夫する子は伸びる!」川西コーチの教えとは?

6月の日本女子アマで完全優勝を果たした寺岡沙弥香。その強さの秘密はコーチとともには育んだ“マネジメント力”にあるという。その真意をさらに詳しく聞いていこう。

THANKS/忍ケ丘ゴルフセンター PHOTO/Masaaki Nishimoto、Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki

寺岡沙弥香(右)
02年大阪出身。3歳でゴルフを始め、大阪学院大高卒業後、プロテスト合格を目指して日々研鑽中。153㎝でパワフルに飛ばす。「160㎝以下の人に飛距離は負けたくない」。宮里藍が大好きで目標
川西直樹(左)
75年大阪出身。リアライズゴルフアカデミー主宰。近畿大学卒業後24歳でプロ転向。師匠は田中秀道。08年からは不動裕理のキャディなどで一流選手の考え方やマネジメントを勉強。「同級生で一番活躍しているのはタイガー・ウッズですわ」

>>前編はこちら

球は曲がる。だから曲げろ。
どう飛ばすかはボールに聞く

川西の教えは、自身のゴルフへの取り組みも影響している。

「高校で甲子園に行きプロ野球選手になるのが夢でした。中3の夏にオヤジと打ちっぱなしに行き、真っすぐ飛ばないので腹が立ち、『このオッサン(父)にできて僕にできないなんて』とハマった。当時高価だったパーシモンのドライバーは芯に当たらないとすぐ割れるので最初は打たせてもらえず、『7Iで10球連続グリーンに乗る精度が出たら打たしてやる』と。毎日7Iと500円玉を持ち練習場に通った。漫画やファミコンのソフトを売ったり、担任の先生について行って打たせてもらったり(笑)。上手そうなおっちゃんを探してはジーッと見て真似。レッスンに聞き耳を立てたりもして」

このときから学んできた“大事”がある。自分で考えること、曲がることを恐れないこと。

「スライスでもグリーンに10球乗ったらいいんやと、真っすぐ打とうとは思わなくなった。腕を絞って力任せに打っていたので握り方をやわらかく。ボール位置も、叩いてパンチショットを打つには右に置くけど、体を回すには左に置くほうが打ちやすい。いろいろやっている間に、ここやったら叩けるし回転できるという場所が何となく自分でわかってきたんです」


こうして、ずっと試行錯誤してきた川西。やったものは自分のものになると思っているという。

「ジュニアにも僕からはあまり言わない。質問には答えるけど、質問返しもします。沙弥香は僕に、『コーチ、やってみて』と言うし、『もう1回!』としつこいくらい。でもそれには応えようと思います」

だから、中2で「10フィンガー」を取り入れた寺岡に対しても、「すぐに取り入れられるのはすごくいい。やって損したと思うタイプやないし、グリップだけやないですけど、そのほうがいいと自分が思うなら続けてみたらいいし、違うと思ったらやめたらいい」

10フィンガーに変えた理由について寺岡は「IMGのコーチの方が大会で来日し、少し教えてもらう機会があって、アメリカでは皆がインターロッキングで握ってるわけやない。君ってちっちゃいんやし、やめときや、くらいな感じの言い方で言われたんです。確かに、小指が引っ張られて痛いと思うときもあったし、それが原因でミスも出たので変えてみようかなと。翌日すぐに打ってみて、半日は気持ち悪かったけど、直後の試合でスコアがよくて、やめるにやめられなくなった(笑)」

「そんな関西弁でアメリカ人は言うとらんわ」と突っ込む川西だが、

「長い目で見たらこうしたほうがいい、今はそれでいいと思う、くらいのアドバイスはします。でも、球筋がドローの子もおれば、身長が高い子も筋力がない子もおるから。自分が気持ちよく振れて、こんな球を打ちたいという気持ちが出てきたらそれでいい思います」

しかし川西は「球は曲げろ」という。ボールをマネジメントするためだ。「クラブの進化で僕らの頃より曲がる幅は少ないかもしれませんが、ボールからゴルフをしたほうが簡単。そこから、どう構える、こう曲げる、どのクラブを使う、重さやフレックスは何を選ぶ、なんかにつながる。どう飛ばすかはボールに聞いたほうがええんです」

川西の教え
「素振りで理想の動きに合致させる」

特別な共通ドリルはないが、素振りを大事にする。「自分が意識する部分を確認しながら、ゆっくり素振り。打つときは素振りと何パーセント合致しているかと確認しながら行います」

寺岡の気づき
「低い球! と思いながら打ちます」

曲げるのは得意な寺岡。特に低い球には自信アリ。「少し短く持ち、右寄りにボールを置く。軸を真っすぐにし『低い球!』と思いながらお腹のあたりの空気を下に押す感じで打ちます」

考えて工夫する子は伸びる。
面白い人間を育てたい

50人以上のジュニアが在籍するアカデミーでは、個々に合わせ、話をしながら課題を見つけ、子ども主体で解決、進化していく。

「一番は楽しんでもらうこと。競技に出る前は飛ぶことやベストスコアが出ること、友達同士でパター戦で競い合うことが楽しい。僕たちは、そういう場、環境をつくることを常に考えています」

ときには、練習場などに料金の交渉をしたりもする。

「プロになる子がどのくらい練習して経験しているのかを見て聞いているから、同じレベルにはしてあげたいと思うんです」

「僕なんか相談役です。ただ、しゃべってるだけ。ゴルフのことも話すけど、ご飯のことやら自分の話なんかが多い。調子がいいも悪いも自分のなかで確認できることが大事ですからね」

ズバリ、伸びる子は?

「やっぱり、考える子です。そしていろいろと工夫する子。一直線にいい球を打てるような答えを見つけるんではなく、ああしたりこうしたりするなかで探す。いきなり真ん中を求める子は、曲がりだしたときに対応ができません。許容範囲のブレを自分で決めて、そのなかで、目指すところはココという信念は持つ。僕は真っすぐだけを教えるつもりはないんです」

その対応力が強さと個性になる。

「面白い子を育てたい。もちろん強くなってくれたらいいですけど、面白い子でないと下も付いてきません。うちのジュニアは、高校でも大学でもキャプテンをやってる子も多いんですよ」

10年間、ともに育ててきた種が、次々と花を咲かせている。

昨年のQTで2位に入り、新人としてツアーに出場する平田憲聖(大阪学院大4年)も教え子だ。

「憲聖もゴルフが大好きで研究熱心。ユーチューブで選手を見つけて真似し、自分に合ったら取り入れるし、違ったらまた次の選手やと、勝手にやるタイプです。すごいと思ったのは、皆で卓球をしたとき、経験者は私だけで勝ち続けていましたが、ほとんどやったことのない憲聖は、僕のカットスピンに『こういう回転でくるならこうしたらいい』と、すぐに理解する。唯一負けました。即座にいろいろ考えながら対応できる人間やなと思いました」

「平田は研究熱心。卓球でもボールの回転から考える」

曲がらないショットが武器の平田。スピンをかけたり引き出しも多い。「昭和な感じもする。インパクトで合わせる感じがないのがいいですね」

そして取材中も、ショットが上手くいったら満面の笑みを見せてくれる、とにかく明るい寺岡。

「前は、なにわのアン・ソンジュと言われてました。体型が似ているから(笑)。コーチはなんか面白い人。急に変なこと言うんです。でも、心強い存在です」

「沙弥香は、嬉しいとスキップする、できなかったことには自分に腹が立って泣くくらい、表現がそのままやから。(最終プロテスト会場の)大洗GCは彼女向きやと思う。いろんな高さの球を打てるし、右ドッグレッグが多いのもフェーダー向きやなと。せっかくのチャンス、ビシッと決めてほしいです」

「食べることも強くなるためのトレーニング」

飛距離を伸ばすため「ご飯は大盛でおかわりをする」と寺岡。お祝いのケーキもパクリ。「最近の子は食べない。バランスを考えるのは大事ですが、米でも肉でも好きなものをたくさん食べるのもトレーニング。エネルギーがないと体力は続かんし、体力がないと集中力もなくなります」(川西)

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月16日号より