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“思考”がプレーの邪魔をする。「自分を見ている自分」を育てよう

トップアスリートたちが結果を出したとき、「もう1人の自分が見ている感じだった」というような話をすることがある。脳科学や心理学に詳しい末岡俊也プロによると、この「自分を見ている自分」を育てることこそ、ゴルフの悩み解決につながるという。

THANKS/松原ゴルフガーデン PHOTO/Shinji Osawa

勝みなみはアマチュア優勝したとき「左上から自分を客観的に見ている感じだった」と語った

解説/末岡俊也

71年神奈川県生まれ。自身のイップス経験をもとに、脳科学、生理学、心理学などを研究。悩めるゴルファーの問題解決に日々努めている。「ティーチングプロアワード2017」優秀賞受賞

「3人の自分」がいる

そもそも「自分を見ている自分」とは何か。まず、「3人の自分」がいることを知ってほしいと末岡プロ。

「私たちは常に『思考する自分』になりがち。その存在が大きすぎて、『観察する自分』の存在に気づけずにいる人がほとんどです。これこそが『自分を見ている自分』です。この存在をトレーニングによって大きくすることができたら、よいプレーができるメンタリティになり、イップスからの脱却も確実に可能です」

プレッシャーがかかると体が動かなくなったり、“ノーカン”のほうが結果がよかったりする。

「よく『考えるとよくない』と言いますが、これは脳科学などの仕組みで説明できます。よいプレーをするには思考と現実の動きを切り離すことが必要。そのため、3人の自分に切り分けて考えます。『思考する自分』が“自分”だと受け取っている方は多いと思いますが、思考で体が動いているわけではありません。『自律的な自分』こそ、意志の集合体で、脳の深いところで自分のすべてを操縦している存在なのです。そして、『観察する自分』は“橋渡し役”。ここに自分の意識を置いておくと体の動きがスムーズになるんです」


「3人の自分」とは?
●思考する自分

「顕在意識の大部分。意識上に浮かぶ思考や感情が連想ゲームのように常におしゃべりしている状態で、”自分そのもの”として受け取られる存在」
●自律的な自分
「潜在意識にあたり、自分をナビゲーションし自動運転している存在。さまざまな”意志”の集合体」
観察する自分
「顕在意識にあって、潜在意識へ橋渡しをする。現実を価値判断・社会的評価をせずにありのままに”眺めている”存在」

トップ棋士の対局中の脳を調べると、思考する前頭葉は働かず、もっと深い場所に血流は集まるそうだ。

「脳内には経験が蓄積され、そこが瞬時に判断して“自律的に”行動している。ゴルフでも、どんなに考えても、その場ではいい動きには結びつかないのです」

「思考する自分」に動作を任せてはいけないと末岡プロ。

「思考にはそもそも動作を司る機能がないことはすでに伝えましたが、意識とのタイムラグによって感覚に錯覚が生じる。また、非常時に動作を抑制することがあったり、ネガティブな感情と結びつきやすい、ということもあります」

タイムラグとは、意識には、動作をした後から物語を作る性質があることから生まれるもの。

「だから、現実の動きとズレが出て“違和感”になる。ゴルフでいうと、たとえばテークバックで『どこから上げる』などと始動を考えようとしてもダメ。意識より前に動きは始まっているので、違和感につながるだけです。これが大きくなるとイップス状態になる。意識のほうが遅れることの大きな意味は、行動抑制の準備をして危機管理をしているからと言われています」

だからこそ、テークバックやインパクトを、チェックすべき1つの動作(注目点)と考えず、一連の動作ととらえることが必要だ。

「脳の仕組みとして、意識は行動を決定できない。でも、意識することで経験を記憶でき、未来の行動選択の決断を下すための材料にはなる。反復や練習が必要な根拠となります。プロの間でも、パッティングを考えすぎて練習しすぎると深い迷路に迷い込んでしまうことがよくあり、そのため『練習しないほうがいい』という考え方になってしまいますが、そんな単純なことではないんです」

「思考する自分」が練習の必要性を記憶し、「自律的な自分」を深めていく。そして、「観察する自分」が潜在意識を引き出していく。

「小難しい話ばかりで申し訳ないです(笑)。でも、意識は行動を決定できないということだけは理解していただければ。思考する自分をなるべく動作には参加させないほうがいい。これができれば、違和感には出合いません」

「観察する自分」になれば
「潜在意識」が働く

「観察する自分」になることで潜在意識が働き、動きを自動操縦に任せることができる。だからプレッシャーに動じず、欲望に惑わされず、動作が円滑になる。「観察する自分」になるには訓練が必要だ。

「善悪の判断をせず、ありのままを見ている状態にしていく。具体的には呼吸に注目することから始めて、ステップを踏んでいきましょう。マインドフルネスの状態をつくるイメージ。簡単ではないですが、できるようになりますよ」

また、実際のプレーに生かすために、「3人の自分」の課題を分離して対策する。

「パッティングを例にすると、アマチュアの方ならセットアップで『左に向けたら入るかな』とアライメントなどを『思考する自分』が考えるのは仕方がない。でも、ストロークするときは『観察する自分』が流れ作業のようにプレーできれば一番いい。入ろうが入るまいが自分のせいではないという心持ちを目指しましょう。また、練習するほどノウハウ・経験が蓄積していくので、ゆくゆくはセットアップ自体も『自律的な自分』に担当させたいですね」

「観察する自分」を育てるストロークやスウィングのポイントは、「注目点を作らない」「反射、慣性、位置エネルギー、リズムを使う」こと。

「連動が大事。感性を利用する、動きを細切れにしない。自動操縦されてるものをなるべく邪魔しないようにするんです。重力や筋肉の反射、位置エネルギーやリズムを徹底的に利用する。潜在意識とペアリングしやすい動きです。いつ上げようとか、真っすぐ上げようなどと考えると、上がらなくなって当たり前。それにパットはインサイドイン軌道がいいと言われますが、カップに真っすぐに運びたいのに、丸く振ろうとは思えないもの。それならなるべく低く真っすぐに引いていくと脳も安心する。低く引いて、そこから引き上げながら打ったほうがスムーズな動きになります」

「観察する自分」になるための3ステップ
STEP1 呼吸に注目
深呼吸をしながら「お腹が膨らみ、へこむ」「鼻から吸い込まれ、口から吐き出される」など体がどう動くのかに注目
STEP2 自動思考に気づく
1のなかで、自分が思考・感情・イメージを湧き出させているのに気づく。湧いては消える様子を許容しながら観察
STEP3 思考と自分に距離を置く
2に集中せずやりすごす。抑えようとはせず遠くで鳴っているBGMのような扱いに。手放すように脇に置き、呼吸に意識を戻す

思考が発動しない動きの反復を身につける

今回紹介する腕の重さ>反射>位置エネルギーを使ったパッティングストロークは、イップス気味になった生徒さん3人に紹介し、改善されたものだという。

「練習すればするほど習熟して再現性が高くなりますので、女子ツアー選手並みに練習すれば、ラインさえ正しければ全部入ると思いますよ!」と豪語する末岡プロ。

「スウィングでは、プロも結構使っている“動き出し”を紹介します。こちらもあくまで思考を使わないように、自分にとって自動化されやすいものを選んで試してみましょう

潜在意識を育てる「半自動化ストローク」

一度吊り上げて重力を感じる。握り方は何でもOK。グリップエンドを左腕の重さで押してそのままテークバック。シャフトの傾きが位置エネルギーになり、押された反射でエネルギーが戻るので勝手にストロークになる。ロフトがマイナスからプラスに変わろうとするときに当たると転がりがよくなる

週刊ゴルフダイジェスト2022年7月5日号より