【イザワの法則】Vol.53 今年の伊澤は“ゆっくり”上げます

もうすぐ日本の各プロツアーが開幕するこの時期、プロはどんなことを考えて練習しているのだろうか。伊澤プロの場合、何か具体的な目標はあるのだろうか?
TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura PHOTO/Hiroyuki Okazawa THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM)
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- 昨年、5シーズンぶりにシニア2勝目を挙げた伊澤プロ。また、師弟関係にある天本ハルカプロも初優勝し、うれしい出来事が重なった年となった。2025年はどういうシーズンになるだろうか? TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura PHOTO/Hiroyuki Okazawa THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM) >&g……
「優勝する」ことが
プロとして常に当然の目標
いつも年が明けると、「今年の目標は?」みたいなことを聞かれますが、シニアツアーに参戦するようになってからは、あまり具体的な目標を決めることはなくなりました。ただ、もちろん「優勝したい」という気持ちはいつでも持っていますので、それが目標といえば目標でしょうか。勝てることが重要なので、「どの試合で」というのもとくにはないのですが、強いてあげるなら「シニアオープン」かもしれません。
昨シーズンからは、トレーニングの仕方を少し変えて、全部自重を使ったものにしています。ウェイトトレーニングと違って、自重トレーニングの場合は、複数の筋肉をバランスよく鍛えられるのと、動きのよさや柔軟性も一緒に向上できるのがメリットです。負荷が(ウェイトトレーニングに比べて)小さいので回数をこなす必要がありますが、今はかなりの回数をやれるようになっていて、体に痛いところもとくにないので、自分には今のやり方が合っているのかなと思います。
具体的な目標が「ない」というと、もうゴルフ自体にあまりこだわりがないのかと思う人もいるかもしれませんが、実は飛距離だけにはこだわっていて、いつまで今の飛距離を維持できるかということは常に考えています。トレーニングの方法を変えたのも、飛距離に対する試行錯誤の一環です。
PGAツアーに、ジェイク・ナップという選手がいるんですが(24年、メキシコオープンでPGAツアー初優勝)、彼のスウィングがすごくいいので、最近は「ちょっと真似してみよう」と思いながら練習したりしています。何がいいかというと、ヘッドスピードがものすごく速いのに、全体がスムーズであまり力感がないところですね。テークバックはゆっくりだと思うんですが、フォロー側がとにかく速いので、テークバック側も速く見えてしまう。それを真似するために、今はテークバックをなるべくゆっくり上げるようにしています。イム・ソンジェみたいな極端なゆっくりじゃなくて(笑)、シャフトがしなったりねじれたりしないくらいの自然なスピードで上げるという感じですね。
飛距離を出すには、テークバックも速く振るほうがいいという理論もあります。ですが、速く上げるとシャフトのしなりが大きくなって、それがしなり戻るときに余計な動きが入ってしまうのが気になるので、私はゆっくりのほうが飛距離にも有利だと思っています。フォローまでしっかり振るために、テークバックではスピードを温存しておくほうがいいという考えですね。実際、ヘッドスピードを計測してみると、昨シーズンより0.5か1m/sくらい、今のほうが速いです。といっても理論上、それで伸びるのは5Yくらい(ドライバーの場合)。いつものコースをラウンドしていても、セカンド地点がそこまで変わらないので、「飛んだ」という実感が沸きづらいのがつらいところですが……。それでも、ゆっくりテークバックの効果は確実にあるとは思います。
「テークバックで余力を残しておくことで
フィニッシュまで速いスピードで振り切れる」


いいものはどんどん真似てみよう
もう1人、カイル・バークシャー(世界ロングドライブ選手権3回優勝)も真似ている。「テークバックを上に大きく、速く上げると計測上はヘッド速度が上がる」と伊澤プロ。ただし、同じスウィングでアイアンは打てない。ゆっくりテークバックのメリットはそこにある

伊澤利光
1968年生まれ。神奈川県出身。学生時代から頭角を現し、プロ入りしてからは、プロも憧れる美しいスウィングの持ち主として活躍。2001年、2003年と2度の賞金王に輝く。また、2001年、マスターズで日本人最高位の4位入賞(当時)。現在はシニアツアーを中心に活躍中
月刊ゴルフダイジェスト2025年4月号より