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Dr.クォンの反力打法 Vol.25 ドラコンキングは“トルク”の王様

飛ばしの究極といえば、飛距離を競うドラコン競技。今回は、クォン教授が以前研究していたカナダのドラコン王ジェイミー・サドロウスキーのスウィングについて解説してもらった。

【語り手/クォン教授】
ヤン・フー・クォン。テキサス女子大学教授。専門はバイオメカニクス。生体力学的に理に適ったスウィングを研究。教え子にタイガーの元コーチ、クリス・コモらがいる

【聞き手/吉田洋一郎プロ】
よしだ・ひろいちろう。D・レッドベターをはじめ、世界の名だたるコーチのもとを訪れ、最新理論を直接吸収。日々探究・研鑽に余念がないゴルフスウィング研究家

クォン 今日は“ジェイミー”のスウィングを取り上げてみよう。

吉田 2008年と09年に世界ロングドライブ選手権を連覇しているジェイミー・サドロウスキーですね。180センチ・75キロとドラコンの世界では小柄ともいえる体格で、並み居る猛者を打ち負かす驚異の飛ばしっぷりが話題になりました。

ジェイミー・サドロウスキーは1988年カナダ生まれ。2008年、09年と世界ロングドライブ選手権連覇。自己ベストは445ヤード。現在はドラコンを引退し、プロゴルファーとしてウェブドットコムやカナダツアーに参戦中。PGAツアー「ディーン&ディルーカ招待」にも出場を果たした

クォン まさに世界一の高効率スウィング。バイオメカニクスの見地からも非常に興味深い選手だ。

吉田 400ヤードをゆうに超える飛ばしの秘密はどこにあるのでしょうか?

クォン 1つは地面反力が生み出すトルクの大きさ。もう1つはダウンスウィングのリリースのタイミングだね。

吉田 トルク……ってなんでしたっけ?

クォン わかりやすく言うと、体の鋭い回転を促す回転力のことだね。

吉田 あ、以前スパナの例で説明していただきましたね。固く締まったナットを回すとき、ナットを直接手で持って回そうとしても回らないけど、スパナを使えば簡単に回すことができる。そしてスパナが長ければ長いほど、ナットを回す力は大きくなる、と。そのスパナの柄の長さにあたるのが、えーと……。

クォン モーメントアームだ。ナットを回す強さは、スパナの柄の長さと、スパナに加える力の強さの積で表される。これがトルクだね。

スパナの柄の部分に力を加えることで、強い回転力(トルク)を生じさせ、ねじを回すことができる。トルクの大きさは、「スパナに加える力の強さ」(F)とスパナの柄の長さ(d=モーメントアーム)の積で求められる

吉田 そうでした。

クォン 思い出したところで、下の図を見てほしい。これはジェイミーのスウィング中、トルクが最大になったときの力の向きと大きさを示している。


左右の足の地面反力の合力(図中の1)が飛び抜けて大きい(通常は身長の高さぐらい)。また合力のベクトルが左足寄りになっていることから、モーメントアーム(図中の2)の長さもしっかり確保できている。これが強い回転力を生む

吉田 地面反力の矢印が見たことのない高さに達しています……!

クォン 地面反力のベクトルが、スパナに加える力。地面反力のベクトルから体の重心までの垂直距離が、スパナの柄の長さにあたる。

吉田 地面を踏み込む力の大きさが、驚異的な回転力を生んでいるというわけですか。

クォン それもあるが、モーメントアームの長さもしっかり確保できている。左足をしっかりと踏み込んでいる証拠だね。地面反力とモーメントアームの最適なコンビネーションが、最高のトルクを生み出しているんだ。

吉田 もう1つの要因である、ダウンスウィングのリリースについては?

クォン それは次回説明しよう。