目澤秀憲と黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。6月8日にR&AとUSGAから、伸びすぎたゴルファーの飛距離を抑制するための提案書が発せられた。これに対する2人の見解は?

TEXT／Masaaki Furuya　ILLUST／Koji Watanabe

GD　まず、今回の報告文書が出された背景に関して教えてもらえますか。

X　元々は21年2月1日に『R&A／USGA研究トピック―関心のある分野』（※1）という文書が公表されました。概要は、伸び続ける飛距離に対する歯止めに関するルール作りと、用具の規制についての取り組み方の意思表明のようなものです。今回出された文書は、その研究・実験過程の中間報告のようなものですね。

GD　その飛距離の歯止めに対するルール作りは3つあって、1つは「ボールの初速」、「ドライバーのスプリング効果」、「ドライバーの慣性モーメント」の3項目に関してのテスト基準（※2）の変更や規定だったようです。

X　そうですね。

黒宮　PGAツアーでは一人の選手が勝ち続けているような状況でもないのに、なんでこんな規制が入るのかなって感じですね。飛ばし屋が完全に有利とは思えませんがね。

目澤　確かに。どういった意図があるんですかね。これ以上飛距離が伸びると既存のコースでは土地が足りないから、という背景もあるかもしれないですね。

X　実際に、デシャンボーの飛距離はコース設計家の意図からは、はみ出してしまっていますからね。でもそれは別にズルをしているわけじゃなく、彼の場合はクラブやスウィング研究と努力の結果なわけですからね。

GD　もし、このまま飛距離抑制の方向でルールが決まった場合、ゴルフ界にどのような影響が出てくると思われますか。

X　ボールの開発は、今までスピンを減らして飛距離を出す方向に来ていましたが、今度はスピンを増やすほうに向きますよね。「飛ばないけれど止まります」というのをウリにして、ひと昔前のバラタボールとか練習場のワンピースボールみたいな感じになっていくと思います。

黒宮　そのうち個々の選手のスウィングデータに合わせたディンプル設計になってくるような気がしますね。

GD　ボールはセグメント化が進むということですね。

X　空力に関しては、現状でもかなりのところまで研究は進んでい
ますからね。

GD　ツアー競技への影響はどういったことが考えられますか。

黒宮　日本人プレーヤーには有利になるんじゃないですか。

X　確かに、稲森佑貴や浅地洋佑など元々飛ばすタイプじゃなくて、正確性や技でスコアを作るプレーヤーはあまり影響を受けないかもしれないですね。一方でロングヒッターは影響をもろに受けるんじゃないですかね。

目澤　今のタイガーなどは、プラス方向の影響を受けるんじゃないかと思います。

黒宮　この規制がもし通ったら、女子ツアー人気がさらに高まるかもしれないですね。男子ツアーの魅力である豪快な飛ばしが見られないのなら、コース上で映える女子プロのほうを見たいという方向に進みそうです。

（※1）R&AとUSGAは2021年2月1日 に『R&A/USGA研究トピック－関心のある分野』として、用具規則の変更に向けての研究に関する取り組みについての文書を公表した。この中で、今後飛距離を減じる方向で、用具の仕様に関連するローカルルールと、ボールとクラブの仕様の見直しの可能性に言及している。（※2）『 ボールの初速』に関するルール適合判定テストをする際に、従来はヘッドスピード120ｍphで打っていたものを、2022年3月に125mphとした。今回はさらにヘッドスピード125～127mphにして研究をするとした。『ドライバーのスプリング効果』に関しては、反発度合を示すCT値を 170μsに設定してテストをしていたものを、今回は150μs以上、200μs以下の範囲に設定してテストをする。『ドライバーの慣性モーメント』に関しては、2600g・㎠の数値でテストしていたものを今回、2000g・㎠といった数値の低いものに焦点を当てるとした

目澤秀憲

めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに。2022レッスン・オブ・ザ・イヤー

黒宮幹仁

くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。淺井咲希、宮田成華、岩崎亜久竜らを指導

X氏　目澤と黒宮が信頼を置くゴルフ界の事情通

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月2日号より