【世界基準を追いかけろSP】<前編>タイガーのフェースは右を向いている? パッティングにおける「エイミング」の重要性
人気の「スパイダー」や「トラス」パターの開発者、ビル・プライスが2年ぶりに来日。いまコーチ界で注目を浴びている目澤&黒宮と、プロから引っ張りだこのパット専門コーチ・橋本真和を交えた対談が実現した。パッティングをテーマにして、4人がディープトーク。その中身とは?
PHOTO/Tadashi Anezaki TEXT/Daisei Sugawara
今のパッティング理論は「3D」
視点が多角的になった
――対談は、意外にも、ビル・プライス氏が日本のコーチ陣を質問攻めにするところから始まった。
ビル これまでたくさんのプロやコーチと仕事をしてきたなかで、パッティングに関しては、ほとんどの人が「ポスチャー」(姿勢)が大事だと言っています。私自身も、土台となるポスチャーがよくないと、それが他の部分のエラーにつながると考えていますが、皆さんはどう思いますか?
黒宮 選手に教えるときは、もちろん、アライメントやバランス(重心)も含めた、ポスチャーのチェックは必ずします。ゼロのポジション(アドレス)は、やっぱりいちばん大事な部分なので。
ビル バランスというと、たとえば、つま先とかかとだと、どちらにどのくらいかかるのがいいと考えていますか?
黒宮 5:5でも悪くないと思うんですけど、パットのうまいプレーヤーほど、少しだけ重心がつま先寄りになる傾向はあります。
ビル なるほど。では、重心をややつま先寄りにして構える「メリット」は何ですか?
橋本 ストロークのアーク(イン・トゥ・インの動き)が大きくならない( よりストレート軌道に近くなる)というのがいちばんで、それに伴ってフェースの開閉も少なくなりますね。
ビル レス(less )ローテーション、レスアーク。それは間違いないと思います。過去10年の間に、そうした方向にパッティングストロークは変わってきたと思いますか?
橋本 それはそうだと思います。過去のパッティング理論は、ヘッドを持ち上げるという視点が欠けていて「2D」(地面に対してヘッドを平行に動かす)で語られることがほとんどでしたが、現在は「3D」で、それにシャフトのねじれなども加えた、多角的な視点でストロークを考えるようになってきています。
ビル 現代はターゲットに対して、フェースをいかにスクエアに保つかを重要視しますが、以前は、アークに対してフェースをスクエアにする傾向が強かったので、今よりフェースの開閉が多かったですね。
近年のパッティングストロークはより「フェースをスクエアに保つことを重要視している」とビル。ヘッド作りも、自然と慣性モーメントの大きいものへと進化してきた
目澤 日本ツアーでいうと、同じ「フェース・トゥ・ターゲット」の意識を持っていても、男子プロと女子プロで少しストロークの傾向が違うんです。
ビル それは興味深い。たとえば、どんなふうに違うんですか?
橋本 女子プロのほうが、ハンドダウンに構えてしまう傾向があって、そのせいでストレート軌道がきつくなることがあります。それと、ヘッドを真っすぐ動かそうとしての軸ブレや、フェースをスクエアにキープしようとして、テークバックでシャフトを反時計回りにねじってしまうというのも、男子プロより女子プロのほうに多いように思えます。
長いパットほどマレットが有利
ビル ローリー(・マキロイ)や、ジェイソン(・デイ)、それにDJ(ダスティン・ジョンソン)が口を揃えて言うのは、右腕からシャフトまでを一直線に構えるのが大事だということです。これは、ほとんどのトッププロに共通する特徴で、逆にアマチュアでは、できていない人が多い。
目澤 確かに、その通りです。
黒宮 ローリーとDJの身長差を考えると、身長や腕の長さとは無関係ということですね。
ビル そうです。そしてこれは、“aim”(エイム、狙い。アドレスのフェースの向きのこと)にも関わってきます。ところで、エイムがずれている選手にはどんな指導をしますか? というのは、パットの名手でもエイムがずれている人はたくさんいるからです。デーブ・ストックトンは左、タイガーは右にずれています。でも、仮にストックトンのエイムをスクエアに直したとしたら、彼はおそらくカップの右に外してしまう。
目澤 私自身はエイミングがすべて、というくらいターゲットに対してスクエアに構えることが重要だと思っていますが、エイミングを修正することでスムーズにストロークできなくなるプレーヤーもいます。そういう場合は、無理に修正するのではなく、たとえばパターを替えることで対処するような指導をすることもあります。
ビル いいアプローチだと思います。そのときはコーチではなく、クラブフィッターになるわけですね(笑)。その際に、シャフトの役割についてどう考えていますか?
黒宮 というと?
ビル タイガーのエイムが( ターゲットの)右を向いている話はしましたが、それでもカップインするのは、インパクトまでに何らかの修正を加えているからです。タイガーの場合は、それにシャフトが大きく関わっています。彼のシャフトはトゥルーテンパー( シャフトメーカー)の特別製で、私も詳細なスペックは知らないのですが、通常よりもかなり軟らかくてトルクが大きいことだけは確かです。つまり、ボールが「つかまる」ので、それでエイムと打ち出しの帳尻を合わせているのですね。
橋本 現状はまだそこまでシャフトの性能を重視したフィッティングがされているとは思いませんが、将来的には今よりずっと重要度が増すパーツになると思います。
ビル ついでに言うと、タイガーのパターはフェースが1度オープンになっています。そうなっていないパターを持っていくと、即座に見抜いて使わないそうです。
目澤 一般的に3〜4度オープンになっていないと、スクエアに見えないと聞くので、1度オープンでも実際はクローズに見えるはず。それを開いて構えて、絶妙に閉じながら打っているわけだ。
ビル ヘッド形状による、パッティングへの影響については、はっきりわかっていることがひとつあって、それは大慣性モーメントのマレット型のほうが、伝統的なブレード型より圧倒的に有利ということです。ゴルファーの多くは、トウ側に芯を外すことが多いのは知っていますね?
目澤 アマチュアにはかなり多く、プロの中にもトウ側に外す人はいますが、ヒール側に外す人は滅多にいないです。
インパクトのデータをとってみるとアマチュアの多くは、トウヒットで芯を外している。そうなるとフェースは開きやすく、球もつかまらない
ビル 11フィート(約3.3メートル)のパットでは、芯をトウ側に10ミリ外すと(カップを約2フィート通り過ぎるタッチで打った場合)、ブレード型はカップのセンターから2.25インチ(約5.7センチ)右に外れ、しかもカップに届かない(10.9フィートしか転がらない)ので、カップインのチャンスはゼロですが、マレット型は右ずれが1.5インチ(約3.8センチ)で、さらにカップにも届く(11.3フィート転がる)ので、ギリギリ、カップインすることになります。
黒宮 パットの距離が長くなるほど、右ずれとショートの度合いが大きくなるわけですね。
ビル その通り。その点、「スパイダー」の「トラスヒール」はかなり有利と言えますね(笑)。
後編へつづく
週刊ゴルフダイジェスト2022年7月5日号より