【GDギア殿堂2022 ドライバー部門】<後編>プロ・アマ問わず幅広く使用された4モデルが殿堂入り!
ギアの進化に多大なる影響を与え、かつ今なお使いたいと思わせる名器クラブを表彰する「月刊GDギア殿堂」。ドライバー部門は、5人の識者による白熱した議論を経て、ついに2022年の殿堂入りクラブ4モデルが決定した。
TEXT/Kosuke Suzaki PHOTO/Hiroaki Arihara
クラブデザイナー・松吉宗之(左)
大手クラブメーカーを退社後、自らクラブメーカー「JUCIE」を立ち上げ、設計を行う
プロゴルファー・関浩太郎(中)
クラフトマンでありコーチとしても活躍。「SEKI GOLF CLUB目黒」を主宰
ギアライター・高梨祥明(右)
ゴルフ専門誌の副編集長を経てギアライターに転身。多くの「名器」を取材してきた
クラブデザイナー・松尾好員
住友ゴム(現ダンロップ)でクラブ設計開発に携わり、現在は「ジャイロスポーツ」を主宰
クラブアナリスト・マーク金井
ゴルフ誌編集者、フリーライターを経てゴルフスタジオ「アナライズ」を立ち上げる
前編はこちら
- 新しいテクノロジーがどんどん投入され「さらに飛ぶ」と謳う新商品が続々と登場するドライバー。チタン製のヘッドが普及して四半世紀が経ったいま“殿堂入り”として歴史に名を刻むドライバーの条件とは。5人の識者による徹底討論でその実像を探る! TEXT/Kosuke Suzaki PHOTO/Hiroaki Arihara クラブデザイナー・松吉宗之(左)大手クラブメーカーを退社後、自……
今のクラブに多大なる影響を与えた
記憶に残る名器
賢人会議の結果、“殿堂入り”の条件には現代性や幅広いゴルファーからの支持が必要だとされた。しかし振り返れば、そういった条件からは外れるものの、時代を引っ張った革新的で魅力的なクラブも多数存在する。
たとえば、いまカーボンフェースの『ステルス』(テーラーメイド)が話題となっているが、実はカーボンといえばキャロウェイこそが牽引してきたジャンルだと高梨氏は話す。
「キャロウェイは『フュージョンテクノロジー』としてさまざまなコンポジットヘッドを世に送り出してきましたし、『C4』というフェースまでフルカーボンのクラブも販売しました。打球音などの問題で売れませんでしたが、完全に時代を先取りしていましたよね」(高梨)
その点ではプロギアの『TR Duo』もカーボンクラウンをたわませるという新発想を打ち出した革新的なクラブだった。
また、ヘッドの「余剰重量」という概念を生んだものキャロウェイだった。『ホークアイ』は、当時ヘッドの大型化が進みすぎ、『ビゲストビッグバーサ』(300㏄)の大きさが受け入れられなかった反動で250㏄に戻したモデル。「大きく作れる技術で小さく作る」ことで重量が余り、それをウェイトビスにした。
「重心位置を工夫するという概念の走りですよね。『r7quad』で一般化した可変ウェイトの原点を作った画期的なクラブだったと思います」(高梨)
「バランス」という点で松吉氏は、単なる優等生ではなく、強い個性を持ったなかで独特のバランスを生み出した『エアロバーナー』が強く記憶に残っていると話す。
「ものすごく重心距離が長くてつかまらないヘッドに、左に向けて構えたくなる顔つきを与えてバランスをとった特異なクラブ。テーラーメイドが“クラブをどう構えさせるか”に腐心した結果生まれた隠れた名器だと思っています」(松吉)
そして先ほども話題に挙がった『ゼクシオ』シリーズ。「歴代で失敗したクラブは1つもない」(松吉)というだけあって、セールス面で大成功を続けている国内モデルの巨人と言っていい。とくに5代目『ザ・ゼクシオ』の完成度の高さは全賢人の意見が一致するところだ。
シリーズ全体では、ハード寄り、やさしさ寄りとモデルごとに揺らぎがあるものの、近年はユーザー層の高齢化に合わせてやさしさ重視に舵が切られているなかで、松吉氏は最新の『ゼクシオエックス(2代目)』に注目する。シリーズ初のカチャカチャ機能を搭載し、高次元のバランスと拡張性を兼ね備えた名器候補だ。
ステルスが話題だけど…
カーボンの原点はやっぱりキャロウェイ
『ERCフュージョン』や『FT』シリーズなどで早くからカーボンに注目してきたキャロウェイ。02年にはすでにフェースまでカーボンの『C4』を発売しており、ある意味では「生まれるのが早すぎた名器」と言えるのかもしれない。
可変ウェイトの原点はコレ
「余剰重量」という発想を生んだ「ホークアイ」
ヘッドの大型化競争のなかで『ビゲストビッグバーサ』の300㏄が「大きすぎる」と不評だったことから250㏄で作られた『ホークアイ』は、小型化したぶん余剰重量が生じ、それをウェイトビスとして重心位置の調節に生かした画期的なモデルだった。
キャロウェイ「ホークアイ」 テーラーメイド「r7 quad」
松吉さんイチオシの隠れた名器
“構え”へのこだわりが生んだ「エアロバーナー」
突出して重心距離が長く本来ならばつかまりが悪いはずだが、ヘッドとネックの位置関係や顔つきでハンドダウン気味に構えたくなる工夫がなされており、独特のつかまりのよさを備えていた。「クラブをどう構えさせるか」という工夫の産物。
テーラーメイド「エアロバーナー」
43.6㎜という非常に長い重心距離ながら打ってみるとつかまりがよく、独特のバランスを備える
重心距離 | 43.6㎜ |
重心高さ | 34.4㎜ |
重心深度 | 34.4㎜ |
ヘッド左右MOI | 4079g・㎠ |
フェース角 | 0度 |
ライ角 | 58.5度 |
左を向いて構えたくなる顔つき
ややオフセットに見えるフェースとネックの接合部が秀逸だったと松吉氏。「ハンドダウンに構えたくなる顔」がライ角以上のつかまりを生み、大慣性モーメントのデメリットを消した
シリーズとしては殿堂級
XXIOのベストは5代目最新の「エックス」も名器
「革新的な技術はない」(金井)けれども「歴代で失敗作は1つもない」(松吉)というアベレージゴルファーの救世主とも言える人気シリーズだが、モデルごとに難・易の振れがあった。そんななか5代目の『ザ・ゼクシオ』の完成度は非常に高かった
ダンロップ「ザ・ゼクシオ」
4代目はハードすぎ、以後はやさしすぎるモデルが多いなか絶妙のバランスだったのが2008年発売の5代目。『ザ・ゼクシオ』と名付けられただけあって歴代屈指の名器だと高評価
殿堂入りはこの4本!
決め手は“バランスのよさ”
ここまで挙がったさまざまな条件を考慮し、賢人たちが選出した“殿堂入り”ドライバーは以下の4モデルとなった。
テーラーメイド『グローレ(初代)』(2012年)、同じくテーラーメイドから『M2(2代目)』(2017年)、ピンの『G410シリーズ』(2019年)、タイトリスト『TSi3』(2020年)だ。
すべてのモデルに共通するのはプロ・アマ問わず幅広く使われたことだが、その代表格といえるのが『グローレ』だろう。
「上がりやすくてつかまりがいいので女子プロに人気だったのはわかりますが、シニアとはいえ男子プロが使いはじめたので驚きました。しかもプロが嫌いそうな白ヘッド。白いヘッドは前年の『R11』からですが、広く認知させたのはこのクラブだったと思います」(高梨)
それまでつかまる・上がるはアマチュア向けのお助け機能だと思われていたが、バランスよくまとまったクラブならそれがどんなゴルファーにも有効だとプロ・アマ双方に認知させたクラブと言っていいだろう。
『グローレ』よりもアスリートに寄ったところでバランスよく仕上がっていたのが『M2』や『TSi3』だ。これは『グローレ』と反対にアマチュアも使えるプロ向けのクラブの代表格といえるだろう。『M2』はタイガー・ウッズやローリー・マキロイが使い、『TSi3』もジョーダン・スピースらが愛用するが、これをアマチュアが難なく使えるというのは特筆すべきバランスのよさだ。
「機能的なバランスのよさと形状のよさが両立されているので、ツアープレーヤーに支持され、アマチュアでもスペック次第でいい結果が出せました。性能的に突出した点がないところがむしろトータルバランスのよさにつながっています」(松吉)
『G410』はシリーズ3モデル全般で高いバランスを備えており、発売から3年を経た現在でも人気が高い。
「重心距離が長く慣性モーメントが大きいクラブですが、重心深度やフェース位置、シャフトやグリップまで含めたトータルバランスが秀逸で、扱いにくさがない。実はこのクラブのせいで、以後『大慣性モーメント・長重心距離がよい』と業界全体でムーブメントが起こるほどでした。『G410』の成功に引っ張られて失敗したクラブもあると思います」(松吉)
あまりの完成度の高さゆえに後継の『G425』はさらに慣性モーメントを大きくする方向で改良を図ったが、結果的に扱いにくくなってしまったとマーク金井氏も言うほどだ。
その点では『TSi3』はそこに引っ張られずに慣性モーメントをほどほどに抑えバランスよくまとまったと言える。
「実は慣性モーメントは、4400g・㎠前後から実打上の効果があまり変わらなくなるんです。おそらく今後の名器は、この辺の数値に収斂(しゅうれん)してくると思います。技術的には機能を保ったままの小型化も可能ですし、カーボンなど素材の工夫もさらに進むはず。その意味ではドライバーの進化はこれからが本番だと私は思っています」(松吉)
今回選出された“殿堂入り”クラブたちは現段階では間違いなく名器だが、刷新されて過去のものとなってしまう日も近いのかもしれない。
ギア殿堂2022ドライバー部門4モデル
テーラーメイド
グローレ(初代)
[2012年]
プロ・アマ共通の「やさしさ」を持つ
アマチュア向けクラブだがプロも使えるバランスで、「上がる・つかまる」がプロにとってもメリットがあることを知らしめた名器。黒以外の色のヘッドの普及にも貢献した
テーラーメイド
M2(2代目)
[2017年]
アマが使えるプロモデル
アスリート向けだがアマチュアにも使えるバランスを備えており、スペックさえ間違わなければアマチュアがPGAプレーヤーと同じクラブが使える喜びがあった
ピン
G410シリーズ
[2019年]
曲がらないからどこまでも振れる
重心距離が長く慣性モーメントが大きいためミスヒットに強く曲がらないが、それらがもたらすデメリットを隠す工夫がちりばめられておりクラブ全体のバランスが秀逸
重心距離 | 42.4㎜ |
重心高さ | 38.9㎜ |
重心深度 | 43.0㎜ |
ヘッド左右MOI | 4889g・㎠ |
フェース角 | オープン1.5度 |
ライ角 | 59.5度 |
タイトリスト
TSi3
[2020年]
PGAで圧倒的に支持されたトータル性能
プロにとって試合で必要な操作性を備えつつ、アマチュアにも扱えるクラブ。PGA ツアーで圧倒的な使用率を誇ったのは、バランスのよさの証明といえる
月刊ゴルフダイジェスト2022年7月号より