【ドライバー進化論】#3 トランポリン効果を高めるには「ヘッドの剛性」がカギになる
反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。
TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji
●CONTENTS●
#1 慣性モーメントでは飛距離は伸びない
#2 トランポリンのジャンプにヒントあり
#3 「ヘッドの剛性」がカギを握る
クラブをトータルで考える必要もある
ここまでの話を踏まえて、今後のドライバーの飛距離アップの可能性について考えてみたい。前出の田中克昌先生は、「ヘッドとボールのたわみ戻りのシンクロ」に初速アップの可能性がありそうだと話してくれた。これはCT値内でのインパクト効率アップが期待できる。
こういった概念は、ダンロップが研究してきた「インピーダンスマッチング」という概念とも近いものがある。これはヘッドとボールの固有振動数をそろえるというものだ。
ダンロップが研究する「インピーダンスマッチング」とは?
「インピーダンスマッチング」理論は、ダンロップが1980年代から研究してきたものだ。これはヘッドとボールの持つ「固有振動数」を一致させることで、衝撃伝達力を最大限に生かすという発想。簡単に言えば、ヘッドとボールの硬さをそろえることでインパクト効率をアップさせることが可能だという。これは高反発ヘッドの発想の源泉となった理論で、当時一定の条件下ではほぼ限界値に達したというが、以後の高反発規制などもあり、同社によればまだ「完成されたとは言えない」という。今後の研究次第では、飛びの新たな可能性を導く理論となるかもしれない。
前出のクラブ設計家・松尾好員氏も、インパクトのエネルギー伝達効率でいえばインピーダンスマッチングは究極的だと話す。しかし金属のヘッドと樹脂のボールという関係上では容易ではないし、ヘッドだけではなくクラブ全体として考えるほうが有効だろうと言う。
「基本的にはヘッド重量が重いほうがボール初速は速くなります。グリップエンド側を重くするカウンターウェイトなどを取り入れて、重いヘッドを振りやすくするというのはひとつの方法だと思います。また、打ち出し角が低いほうがボール初速はアップしますので、リアルロフト角を小さめに設定するのも有効ですが、そうなるとパワーヒッターでないと扱えない。そういった点も含めて、ヘッドだけでなくクラブ全体として考えることがドライバー進化のカギだと私は考えます」(松尾)
フレームの剛性がたわみの特性を左右する
最後に、クラブ工房や大手クラブメーカーの勤務経験もあり、クラブの専門家として執筆活動やゴルフの普及に取り組んでいる松尾俊介氏にも話を聞いた。
「CT値の計測は、ヘッドを固定して振り子をぶつける静的なものですが、これはヘッドが高速で動いてボールにぶつかる動的なインパクトとは異なります。このへんの違いを追及していくと、実際にコースで打ったときに計測値よりも効率のいいインパクトが得られる可能性はあるのではないかと思います。
初速アップという点では、田中先生のおっしゃるように、フェース面のトランポリンをいかに効率よく使うかだと思います。具体的には、より盤面の大きいトランポリンを、強いバネで支えることだと私は考えます。これをヘッド構造で考えれば、フレームの剛性がひとつの鍵になると思います。どこの剛性を強くして、どこをどれだけたわませるか。ヘッドのたわみは昔から研究されていますが、素材や工作技術の進化が進めばさらに可能性が広がるところではないでしょうか」(松尾)
たしかにキャロウェイの「ローグST」シリーズは「ジェイルブレイクテクノロジー」でフレーム剛性を高め、テーラーメイドの「ステルス」シリーズはカーボンフェースという新素材によって高初速を実現した。
もちろん最適重心の追求や大慣性モーメントも並行して活用され、シャフトも含めたクラブ全体の設計の工夫も進むだろうが、ヘッド剛性の工夫による初速アップは、今後のドライバー進化の大きな鍵となりそうだ。
<識者3人の見解>
「ボールを含めた『たわみのシンクロ』が鍵」(田中克昌先生)
「ヘッドのたわみ戻りとボールの潰れ戻りをシンクロさせられればインパクトのエネルギー効率はアップします。完全一致は不可能でも、ここに近づける工夫は、初速アップのひとつの方法になるはず」
「ヘッドの質量アップと振りやすさがポイント」(松尾好員氏)
「ヘッド重量が大きいほうが初速はアップしますが振りにくくなる。カウンターウェイトなどでクラブ全体のバランスを考え、重いヘッドを振りやすくするのが飛距離性能アップに有効だと思います」
「『トランポリン』を大きく強くするフレーム」(松尾俊介氏)
「インパクト効率を向上させるために、フェース面のトランポリンの効率を上げる。クラブヘッドで考えれば、たわむ部分を広げ、それを支えるフレーム剛性を工夫する方向に進化しそうです」
月刊ゴルフダイジェスト2022年6月号より