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【大型ヘッドドライバー 天下分け目の戦い(後編)】クラブメーカーの勢力争い追跡ドキュメント

08年の高反発規制を天下分け目として、日米メーカーのドライバー開発競争の移り変わりを振り返る本特集。後編ではいよいよ08年以 降の勢力争いに踏み込んでいく。目まぐるしく変わる主導権。見えてきた最後に残るブランドの条件とは !?

米国メーカーが進んだ異形への道

08年、高反発競争に終止符を打つ、新ルール(SLEルール)が施行。

もともと高反発ドライバーは日本市場を中心としたアジアで販売されていた特別なクラブ。前号で書いたようにUSGA傘下の国では、高反発ドライバーはルー ル不適合であり、規制されても何ら問題はなかった。しかし、08年のルール改正は反発規制だけではなかった。

ヘッド体積、ヘッドの慣性モーメント(MOI)、そしてクラブの長さにも上限が示された。 世界中のメーカーが同一規格内で性能アップを競わなくてはならない“厳しい時代”となったのだ。

そんななかで米国メーカーが目をつけたのが、ヘッドの慣性モーメントアップ。なぜなら、この分野はまだルールの上限に達していなかったからだ。ちなみにルール改正前の06年当時、体積460㏄ヘッドのMOIは大きくても 4600g㎠程度だった。新ルー ルの上限値は5900g㎠。進化の余地が残されていたわけである。

ナイキ サスクワッチSUMO 2

この高慣性モーメントの先頭を走ったのがナイキゴルフだった。 当時の開発トップ、トム・スタイツ氏は09年当時、こう語っている。

「ナイキゴルフは07年のサスク ワッチSUMOスクエアで、すでに5500g㎠の高慣性モーメントに到達。09年モデルのSUMO 2では上限の5900g㎠に達することに成功しました。我々が02年からMOI拡大について開発を進めてきた成果です」

一発の飛距離よりミスしたときの寛容性を求めるのが米国メー カーの傾向。キャロウェイ、テー ラーメイドもジオメトリーヘッド 開発に参入し、市場は一時的に三角形や四角形の異形ヘッドが溢れることになった。

数字だけを見たいゼクシオのこだわり

一方、日本では08年以降も「ゼ クシオ」が盤石な売上を誇っていた。

08年といえば5代目の「ザ・ ゼクシオ」が登場した年だが、当時の開発責任者、大西章夫氏は、「5代目ゼクシオは発表年の07年には開発目標をクリアし、ほぼ完成していたのですが、納得がいかず金型修正を願い出たのです」

5代目 ゼクシオ

大西氏がこだわった金型修正のポイントはヘッド形状にあった。

もう少し投影面積を大きくしなければ安心感が生まれない。構えて不安を感じる形状では「ゼクシオ」とはいえないというのだ。

土壇場での形状変更は、重心設計のバランスまで崩すリスクもあったが、大西氏はこう指示した。「慣性モーメント値が重要ではない。ゼクシオは顔が命である。

よく飛ぶといった性能面の進化は当たり前だが、それは感覚的な①構えやすさ、②振りやすさ、③心地よい打球音が備わっていて成り立つもの。

海外の性能重視の高慣性モーメント軍団に対し、構えやすさ、振りやすさ、心地よさという道具の原点にこだわったのが日本の雄、「ゼクシオ」だった。

5代目ゼクシオのカップフェース

ゼクシオの躍進を支えたカップフェース構造
ゼクシオの弾くようなインパクト感と高初速性能を支えているキーテクノロジーが「カップフェース」である。 ゼクシオは2代目から11代目の最新 「イレブン」まで素材やカップフェー ス構造を変えながら進化。製造コストがかかる手法だが、フェース全面をしなやかにたわませ、広範囲で高初速を得るためにはうってつけの技術。新ルール下でその優位性が高まったゼクシオの“お家芸”だ

この成功が新ルール下における日本のベストドライバーのお手本となった。国内はもちろん海外もキャロウェイ「レガシー」、タイトリスト「VG3」、テーラーメイド「グローレ」と、整ったヘッド形状、軽量で振りやすく、打球音が爽快な日本専用モデルの開発に注力し始めたのだった。

画期的な新技術を続々投入。
攻めの姿勢が勢力図を変えた!

ソールの溝から反撃が始まった
08年を天下分け目のボーダーラインとすると、それ以降の数年間は、ゼクシオを手本とする日本モデル優勢の時期が続いたといえる。

新SLEルール下での飛距離アップ策の基本は、フェースの広域反発にあり、この分野でもリードしていたのは「ゼクシオ」のカップフェースだったのだ。

大きな転機は12年のテーラーメイド「ロケットボールズ(RBZ)」の登場だったのではないだろうか。ソールにスピードスロットという深い溝が付けられたフェアウェイウッドの登場だ。

ソールに深い溝(スピードスロット)を設けたテーラーメイドのRBZ

ドライバーのストーリーになぜいきなりFWが入るかといえば、12年当時、同社の開発責任者だったブノア・ビンセント氏がこんなことを言っていたからだ。

「RBZのソールに溝をつけたのは、ステンレス製ヘッドでも薄肉チタンフェースのようなしなやかなフェースリアクションを起こしたかったからです。グローレのようにチタンでFWが作れたら簡単ですが、米国ではハイプライスのクラブは売れません。いわば苦肉の策。日本のゴルファーはグ ローレを使っていただいたほうがシンプルですよ」

ハイコストな材料を使わなくても構造を工夫し、ボディ剛性をコントロールすることで、フェースの広域反発化(とくにフェース下部)が実現できる。

クラウン内部に2本の柱を設けたキャロウェイの「ジェイルブレイクテクノロジー」

そのことが新技術の採用でわかり、急速に研究開発が進んだのである。その結果が現在のハンマーヘッド(テーラーメイド)やジェイルブレイク (キャロウェイ)といったフェースのフレーム剛性を高める技術で、フェース全体をしなやかにたわませる最新の広域反発テクノロ ジーにつながっているのだ。

これにフェースの部分肉厚設計をプラスすることで、ハイコストのカップフェースに匹敵する初速性能を出せるようになった。つまり、この点で日本モデルと海外モデルの “差”がなくなったわけである。

勢力図が変化。米国人気が不動に

08年以降のドライバーの進化について、クラブデザイナーの松吉宗之氏はこう語る。

「反発性能のギリギリを狙っていくという日本的な手法が海外ブランドでも当たり前になることによって、慣性モーメントの米国、 反発の日本という図式は完全になくなりました。もともと慣性モーメントの分野で先行していた米国がスピードを手に入れたわけです。 新ルールの上限値に迫り、飛んで曲がらないという夢に確実に近づきつつあるのです」

昨今、米国メーカーの優勢が続いているのも、日米メーカーの開発に明確な差がなくなっているからだという。

カーボン複合ヘッドの打球音の改善
性能重視の高慣性モーメントを追求していた米国メーカーだが、感覚的な構えやすさ、振りやすさ、心地よさ、という原点があってこそのクラブ性能であると悟り、爽快な打球音への取り組みが行われた。その先駆けがテーラーメイ ド「M1」で、カーボンの打音の欠点をクリア

日本は元来、契約プロの意見を集約することで新モデルを開発してきた伝統があり、それがブランドの色になっていたが、現状ではそれも厳しいと松吉氏は語る。それではこの先、何をよりどころにして開発は進んでいくのか? そして最終的に勝ち残るブランドはどこなのか?

ゼクシオに迫るクラブの軽量化
ゼクシオを追いかけるようにクラブの軽量化にも取り組んだ米国メーカーは、 キャロウェイ「エピックスター」、タイトリスト「TS1」などを開発。軽くて硬いシャフトの進化も重なり、クラブ全体が超軽量化されたこと で、誰もが振りやすいクラブを実現した

長らくさまざまなメーカーを取材してきたが、現在高い人気を誇るメジャーブランドは、そのすべてが08年のルール改正を”転機としなかった”メーカーであるような気がしてならない。

もっと簡潔に言えば、モノ作りの原点たる目標設定をブランド創設以来変えていないメーカーが、結局は残っているのではないかと思う。続々と生まれる技術は、その時代ごとの “最適解”に過ぎないのだ。

変わらぬ開発思想が新たな技術を生む

08年のルール改正は各メーカーの技術を抑えるものだった。ルールは常に進化の後追いをし、技術にフタをしてくる。

新ルールに翻弄されなかった
日米4大メーカーの変わらぬ開発思想

テーラーメイド
ゴルファーそれぞれの最適弾道の追及
79年にゲーリー・アダムスが「最 適弾道」を提供するために創設 したテーラーメイド。今もそのコ ンセプトは変わっていない

テーラーメイド「SIM」

キャロウェイ
カーボン技術の向上と広域反発フェースの追及
80年代終わりにフリーウェイトで重心設計を極め、カップフェー スと部分肉厚フェースで広域反発を極めてきたキャロウェイ

キャロウェイ「マーベリック」

ピン
高慣性モーメントヘッドの追及
59年に「ヒール・アンド・トウ・ バランス」という、今でいう慣性モーメント理論を掲げて始まっ たピンゴルフ

ピン「G410プラス」

ダンロップ
構えやすく振りやすい心地よいクラブの追及
広域反発を極めたキャロウェイを手本に独自の構えやすさ、振りやすさ、心地よさを追求していったゼクシオ

ダンロップ「ゼクシオイレブン」

しかし、骨のあるメーカーは、目的達成をあきらめない。この先もルール改正が必要とされるような、ワクワクする”技術革新”に期待したい。

取材&文/高梨祥明( Position ZERO)

週刊ゴルフダイジェスト2020年6月16日号より