社長はHC3.2のギアマニア。小祝さくらの「100万円パター」驚きの制作現場に潜入!
PHOTO/Tadashi Anezaki
1本100万円という驚きの価格で注目を集めた小祝の新パターだが、いったいどんなところで造られているのか。北海道の工場を直撃訪問した。
新パターでいきなり連勝
「前に伸びる感覚がある」(小祝)
3月の優勝以降、低迷が続いた小祝の復調のきっかけは、オリンピック期間中のオープンウィーク。スウィング見直しとリフレッシュを兼ね、地元・北海道に帰省した小祝に、あるパターが手渡された。
「近所ということで、もともと小祝選手を応援していました。ニッポンハムレディス(桂GC・有観客開催)で彼女について回ったのですが、ルーティンからストローク、転がり方まで詳細に観察して、彼女に合いそうなパターを4本作ってみたんです」
と語るのは、北海道の金属加工メーカー「ワールド山内」の代表を務める山内雄矢さん。ゴルフ好きが高じて、自らパターブランド「ワールドクラフトデザイン」を立ち上げてしまった。「お渡ししたのは(「NEC軽井沢」前週の木曜日)。言ってみれば私が勝手に作ったものなので、『良いと思ったら使ってほしい』と手渡したんです。そうしたら20メートルのパットが面白いように寄っていました」
マッチングの成果は、その後の快進撃が示すとおり。NEC軽井沢で新パターを手に初日6連続バーディを含む64のロケットスタートを切った小祝は、3日間首位を譲らず完全優勝、さらに翌週のCATレディースでもパターは火を吹き、2連勝を飾ったのである。
「前に伸びる感じがあって、ロングパットも距離が合う」
と小祝。いったいどんな秘密があるのか。詳しく調査してみよう。
これが小祝さくらのニューパターだ!
小祝と同じ角型マレット
ワールドクラフトデザイン
WY700シリーズ
ヘッド重量は3つのタイプ(310g、325g、340g)から選択可能。フェース面のミーリングや刻印にも個別対応している。地元の二木ゴルフ美しが丘店で試打が可能
すでに使用しているプロも
小山内護
「なんといっても打感だね。社長のこだわりを聞いてると、それだけで入る気になるよ(笑)」(小山内護)
中山正芳
「打感がとにかく素晴らしい。球の初速と終速のイメージがピッタリ合ってタッチが合いやすい」
この2人も投入間近!?
IoT化された機械で
1日かけて削り出す
工場を訪れると、想像以上に静かだった。
「いち早く工場のIoT化を進め、工場の無人化に成功しました。コンピューター制御されていて、自動で加工が進むんですよ」
母体であるワールド山内は、世界的なシェアを持つ金属加工メーカーで、航空部品をはじめ、高精度な金属加工が主業で、工場見学や講演依頼も多いそう。
「コロナ禍で工場見学や出張が激減したとき、『ここだ!』と思ったんです。もともと10年ほど前から贈呈用としてパター作りはしていましたが、時間が空いたので、これまで夢に描いていたものを一気に形にしました」
ブランドとして立ち上がったのは今年の4月だったが、ずいぶん前から構想はあったそう。高い加工技術をもってすれば、パターの製造も簡単なのかと思いきや……。
「大変ですよ。理想の打感や打音を求め、金属の配合割合から試行錯誤したのですが、そのために非常に軟らかい金属が必要でした。軟らかいと加工が難しいことに加え、早く削ろうとすると素材に熱が入り、良さが死んでしまう。精度を高めるためには1つずつ加工が必要で、1個のヘッドを削り上げるまでに、3日かかることもあるんです」
こうしてできたヘッドを自身でテストし、ようやく形になったパターは、ミクロレベルの精密さを持ち、多少芯を外しても同じ転がりを見せる。
インタビュー中もひっきりなしに電話が鳴り、製品説明を繰り返す。本業の空いた時間はすべてパター作りに費やし、社長室は試作品の山であふれている。
最高峰の技術力を持つ「北のラボ」。あふれる研究意欲とモノ作りへの強烈なこだわりに、値段で語れないパワーを感じた。
航空部品の製造で培った技術を採用
(1)CGで工程を作る(2)金属ブロックをセットする (3)PCからのデータを入力 (4)IOT化された機械で1日かけて削り出す (5)刻印なども同時に行う (6)完成!
社長室はパター愛で溢れていた
代表の山内雄矢さんは、多忙の合間を縫い、寝る間も惜しんで作業に明け暮れる。「パターが好きすぎるんです(笑)」と語る山内さん自身もハンディ3.2の上級者で、これまで膨大な数のパターを購入してきたという超がつくほどのギアマニア。打音・打感・重量バランスやデザインまで、徹底的に研究を重ねた結晶が、超高額パターの正体。とはいえ材料費や人件費を考えると、ほぼ利益はないそう。まさに熱意のなせるわざ
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月28日号より