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「軟鉄」はもはや少数派? ギア好きなら知っておきたい素材のお話<アイアン編>

PHOTO/Tomoya Nomura、小誌写真部
THANKS/大同特殊鋼

「アイアンは軟鉄鍛造に限る」という人もいるだろうが、実は純粋な軟鉄鍛造アイアンはいまでは少数派。とくに飛距離を追求した“飛び系”アイアンには、ステンレスどころか、さらに弾きのいい素材が使われている。「素材のお話」後編は、アイアンに使われている素材について見ていこう。

前編はこちら

アイアンにはどんな素材が使われている?

主に軟鉄ステンレス
マレージングクロモリの4種類

アイアンの素材でよく聞くのは「軟鉄」(軟鋼)だが、最もよく使われるのは「ステンレス」。また“飛び系”と呼ばれるアイアンでは、「マレージング」や「クロムモリブデン」といった素材が使用される。アイアンで主に使用されるこれら4つの素材について、特殊鋼メーカー大手・大同特殊鋼の今井氏に話を聞いた。

「どれも主成分は鉄ですが、『マレージング』と『クロムモリブデン』は土木や車両などの構成部品として、主に強さを保持する目的で使用されています。『ステンレス』は錆びに強く、美しい状態を維持する鋼で、『軟鋼』はその特性から溶接用に使われたりします。どの素材も成分の配合で特徴が変わりますし、フェースの厚さなども影響するので一概にはいえませんが、素材単体だけの硬さでいうと、『マレージング』がいちばん硬くて、『ステンレス』、『クロムモリブデン』、『軟鋼』の順です。モデルの意図に合わせた鋼が使われているのでしょう」

軟鉄(軟鋼)

素材例/S25C、S20Cなど ●強度/440以上 ●弾性率/205~206(※S25Cの場合)

「炭素含有量が0.1~0.45%の軟らかい鋼」

特殊鋼界では「軟鉄」という表記はなく「軟鋼」と呼ぶ。また厳密にいうと「軟鋼」は炭素含有率が0.18~0.30%のものを指すが、「軟鉄」は炭素含有率が0.1~0.45%までが一般的。最大の特徴は、その名のとおり軟らかいことでメッキ加工しないとアイアン同士が当たるだけで傷つくほど。その打感の良さでプロから愛される

ミズノプロ 120

ステンレス

素材例/SUS630、SUS431など ●強度/1419~1439 ●弾性率/194~197(※17-4ステンレスの場合)

「鉄を主成分にクロムを10.5%以上含み腐食に強い」

ステンレスは「錆び(stain)ない(less)」という意味。鉄を主成分とし、クロムを10.5%以上含む腐食に強い合金で、その年間生産量は国民ひとり当たり30kgほどになり、他合金と比較にならないほど使われている。ゴルフクラブではアイアンによく使用される「SUS630」や、パターの「SUS303」などが有名

クロムモリブデン鋼

素材例/SCM420など ●強度/830以上 ●弾性率/210~214(※SCM430の場合)

「鉄にクロムとモリブデンを添加した合金鋼」

優れた強度重量比を持つだけでなく、溶接が容易で、軟鋼と比較してかなりの強度と硬度がある。アイアンにした場合、耐久性が高いので高精度で仕上げられた溝がダレにくく、高いスピン性能が持続するメリットがある。しかし、クロムを含んではいるが、ステンレスほどの腐食耐性はないので、錆びに注意が必要

ミズノ JPX921 HOT METAL

マレージング鋼

●素材例/AM355など ●強度/1320以上 ●弾性率/195(※18Ni-9Co-5Moの場合)

「ニッケル、コバルト、マンガンなどを含み硬度が高い」

航空宇宙分野の材料として開発された特殊鋼。強度や靭性に優れており、核施設やミサイルの部品に使用されることから各国で輸出規制の対象となっているほど。その特性からクラブに使用されると弾き感が極めて高く、飛距離が期待できるが、高価な合金成分を多く含むために素材単価が高いのが最大の欠点

強度(単位:Mpa)……数値が大きいほど強度が高く、ヘッドやフェースの肉厚を薄くすることができる
弾性率(単位:×103Mpa)……素材のたわみやすさを示し、数値が小さいほどフェースのたわみが大きくなる

同じ「軟鉄」なら数字の小さいほうが軟らかい

「軟鋼には『S25C』や『S20C』といった種類があり、この数字は炭素の含有率を示しています。一般的に数字が低いと炭素の含有率が少なく、素材として軟らかい。でも、『打感はどうか?』と聞かれると、プロや上級者のように蓄積がある人なら違いがわかるかもしれませんが、一般のゴルファーだとどうでしょう…… 」(今井さん)

異なる素材を組み合わせていいとこどり

アイアンも複合構造が主流に

近年では鍛造、鋳造を問わず単一素材・一体構造のアイアンはごくわずか。いくつかのパーツを組み合わせた複合構造が主流になっている。フェースとボディで異なる素材を使用したり、形状に工夫を凝らすだけでなく、樹脂などの非金属素材を採用することで、軟鉄鍛造に負けない打感を持ちながら、やさしく飛ばせるモデルも登場。さらにはチタンも採用され始めている。

打感のいい軟鉄ボディに弾きのいいフェース素材

キャロウェイ「APEX」

フェースに17-4ステンレス

ボディを軟鉄にすることでライ角やロフト角調整が容易になるとともに、打感が向上。フェースに軟鉄より弾き感のある17-4ステンレスを採用することで飛距離アップにも貢献している。

ブリヂストン「ツアーB 202CBP」

フェースにクロムモリブデン鋼

炭素の含有率が低く、軟らかい軟鉄「S20C」の採用で打感の良さを残しつつ、弾きがよく傷つきにくいクロムモリブデンフェースで飛距離と耐久性を向上。

アイアンにもチタン採用の流れ

ダンロップ「ゼクシオ11」

ドライバーと同じチタンフェース

『ゼクシオ アイアン』は初代~5代目まで「6-4チタン」をフェース素材として採用。6代目からドライバーと同じ「Super-TIX PLUS for XXIO」をフェース素材に採用。多くのゴルファーが求める飛距離と打感を追求してきた。

プロギア「01」

コアにチタンを採用

「S25C」と純チタンを2000tの高圧で鍛造した、チタンコア構造の複合鍛造ヘッド。低比重の純チタンを内部に、高比重の「S25C」を外部に配置することで、余剰重量を生み、大慣性モーメントを実現。

テーラーメイド「P790Ti」

チタンボディ&チタンフェース

ドライバーの『SIM2 シリーズ』にも採用された軽量チタン「9-1-1」をボディに、「6-4」をフェースに使用。軟鉄やステンレス素材に比べ、比重が軽く膨大な余剰重量を生み、やさしく飛ばすことが可能に。

週刊ゴルフダイジェスト2021年7月13日号より