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“10K”ドライバーの飛ばし方 #1 進化のポイントは「上下」の慣性モーメントにあった

今年のドライバーは「10K」が話題。ヘッドの慣性モーメントが上下・左右合計で1万g・㎠を超えるものだ。まずはこのようなドライバーが登場した背景について考察していこう。

TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Shinji Osawa、Takanori Miki THANKS/パフォーマンスゴルフスタジオ

解説/松尾好員

月刊ゴルフダイジェスト連載「こちら東灘区ギア研究所」で、おなじみのクラブデザイナー。1957年生まれ。ジャイロスポーツ主宰

「慣性モーメント」は物体の“回りにくさ”を表す数値
慣性モーメント(MOI=Moment of Inertia)とは、物体の「回りにくさ」を示すデータ。この数値が大きいほど芯を外した場合にヘッドがブレにくいため、ミスヒット時に球が曲がりにくく方向性が安定する。「10K」ヘッドは、ヘッドの左右と上下の慣性モーメントを足して1万g・㎠を超えたモデルのことを指す
●ヘッド上下・左右慣性モーメント……ヘッド単体での慣性モーメント。ヘッドの重心を軸に、それぞれ上下・左右方向へのブレにくさを示す
●ネック軸回り慣性モーメント
……ネック軸、つまりシャフト軸に対する回転のしにくさを示し、大きいほどフェースの開閉に大きな力が必要
●クラブ全体慣性モーメント……シャフトやグリップまで含めたクラブ全体の動かしにくさを示す。これが大きいほど振りにくくなる

数値で進化を表現できる
最後のアピールポイント

今年のドライバー市場では、ピンの「G430 MAX 10K」とテーラーメイド「Qi 10 MAX」がヘッドの慣性モーメント上下左右合計1万g・㎠超えという「10K」を打ち出し話題をさらった。

近年のドライバーの開発競争は、「AI」や「カーボンフェース」など各社さまざまな独自路線で進められてきているなか、突然大手外ブラ2社が「10K」という共通のキーワードを打ち出してきたのはなぜなのだろうか?

クラブデザイナーの松尾好員さんに聞いたところ、「“数値”でドライバーの性能を打ち出していくうえで、ここが最後のアピールポイントだからだろう」という。

「ドライバーはルールによる規制があらゆるところにかかっていて、数値でわかりやすく“すごい”をアピールできる点がほとんど残っていないんです。2003年にフェースの反発係数(COR)が0.830以下に規制されるとともに、ヘッドサイズは460ccが上限となり、もはやそれらはすべて達成されています。クラブの長さの上限も22年に48インチから46インチに短くなりました(※)。ヘッドの慣性モーメントも左右5900g・㎠という規制があり、ここは07年ごろにはもう上限に達しています。しかし実は、ヘッド上下方向の慣性モーメントはまだ規制がなく、データとしてもあまり注目されてこなかった“未開拓ゾーン”だったんです。各メーカーがそこにフォーカスして開発を進めた結果4200g・㎠を超えるところまで達し、左右と合計して1万=10Kという数値のインパクトを打ち出せるようになった、ということだと思います」

確かに近年のドライバーは、カーボンフェースやAI設計などテクノロジーを前面に押し出す一方、数値によって「こんなにすごい」とアピールするモデルは少なくなっていた。ルールでがんじがらめのなか、残された数少ない数値上の進化アピールポイントがヘッド上下慣性モーメントであり、「10K」だったというわけだ。

その意味では「10K」ドライバーとは、ヘッド上下方向の慣性モーメントが大きいことが最大の特徴といえるだろう。実際、「G430 MAX 10K」のデータをスタンダードモデルの「G430 MAX」と比べてみると、上下の慣性モーメントが200g・㎠、約5%ほど大きくなっている。“飛ばし方”を考えるうえでも、ここがカギになりそうだ。

※ローカルルールとしての規定

ナイキ「SQ SUMO2 5900」

ヘッド左右MOI5937g・㎠
ヘッド上下MOI3761g・㎠
ネック軸回りMOI10102g・㎠
上下左右合計9698g・㎠
※ヘッドデータはジャイロスポーツ調べ

実は「SUMO2」はすでにほぼ「10K」だった!
07~08年には、ナイキとキャロウェイが四角いヘッドを発売し「慣性モーメントの極大化」を打ち出した。とくにナイキ「SQ SUMO2 5900」は上下慣性モーメントも非常に大きく、実は「ほぼ10K」に達していたのだ

2010年~
“広反発”多様化の時代

偏肉フェース

フェースの肉厚を部分ごとに変えることで、オフセンターヒット時にも高い反発性能を発揮し、平均飛距離アップを目指す

重心の最適化

高打ち出し・低スピンの「飛ぶ弾道」を得るため重心位置の最適化を目指す。可変ウェイトで重心位置の調節ができるものもある

スリット・溝

ソールやクラウンに刻まれたスリットや溝がボディのたわみをコントロールすることで、ルール内での反発性能アップを図る

ボディ剛性

フェースだけでなくボディ全体で高初速を効率よく生むため、フレーム構造を工夫してボディ剛性を高める工夫も登場

2024年~
上下MOI極大化による「10K」時代へ

G430 MAX G430 MAX 10K
重心距離45.5mm 44.5mm
重心深度 46.mm 46.2mm
SS高さ35.2mm34.2mm
ライ角 60.5度61.5度
ヘッド左右MOI5768g・㎠ 5886g・㎠
ヘッド上下MOI4058g・㎠4265g・㎠
ネック軸回りMOI 10398g・㎠10288g・㎠
「G430 MAX 10K」と、スタンダードモデル「G430 MAX」のヘッドデータを比較してみると、「10K」は上下慣性モーメントが約200g・㎠、5%ほど大きくなっている。重心は「10K」のほうが約1ミリ低く短いほか、左右慣性モーメントが約2%大きい、ライ角がアップライトなどの差もあるが、最大の違いはこの上下慣性モーメントといえる

>>「G430 MAX 10K」と「G430 MAX」を打ち比べたら
10Kの性能が違いが浮き彫りに!

月刊ゴルフダイジェスト2024年7月号より