タイに誕生した「バリシアーゴルフリンクス」 かつて米に存在した“幻のリンクス”を再現した世界注目の圧巻コースだった
週刊ゴルフダイジェスト
タイの首都バンコク近郊に近年誕生した「バリシアーゴルフリンクス」。ギル・ハンス設計のコースとして注目を集めているというが、果たしてどんなコースなのか。さっそくタイに飛んだ。
TEXT/Takeo Yoshikawa


ギル・ハンス
1963年生まれ。デンバー大学で学んだ後コーネル大学でランドスケープアーキテクチャーの修士号を取得。奨学金を得て英国とアイルランドでゴルフコース設計を学ぶ。コーネル大学の同級生でコース設計家トム・ドークと4年間働き1993年独立。2016年リオ五輪のコースを設計。名門コースの改修も数多く行っており、昨年、日本OPが開催された東京GCも2018年に改修した
本場リンクスの
名ホールを再現
タイに誕生した「バリシアーGL」は、1917年にチャールズ・ブレア・マクドナルドがニューヨーク州ロングアイランドに造り上げ、英国の著名なゴルフライター、バーナード・ダーウィンが世界一と評されるパインバレーGCと同等と評価した、リドーCCをオマージュしたものだ。
マクドナルドは16歳でスコットランドのセントアンドリュース大学に留学し、当時健在だったトム・モーリス・シニアにゴルフのプレー、コース理論などを教わることができ、帰国後に「本格的リンクスをアメリカに」と1911年、ニューヨーク州ロングアイランドにザ・ナショナルゴルフリンクス・オブ・アメリカを完成させた。本場のリンクスからアルプス、レダン、ホグスバック、エデンなどの名ホールを取り入れたコースだった。
マクドナルドはセス・レイナーと共に1917年、同じロングアイランドにリドーCCを開場させている。リドーCCは第2次世界大戦中に徴用され閉鎖されてしまったが「リンクスの聖杯」として非常に高い評価を得ていた。マクドナルドを尊敬するギル・ハンスはバンコクの地にリドーCCを再現することにした。「バリシアー」とはマクドナルドが手掛けたシカゴGCにほど近い自身の邸宅に付けた名前から取られた。
緩やかにうねる大地にレイアウトされたコースは、一見優しい表情を見せているが、ひとたびボールを打ち、フェアウェイを進んでいくと「リンクスそのもの」で、持てる技量をすべて使い果たすほど難度が高かった。
バリシアーゴルフリンクス
●18H・7115Y・P71
●開場/2021年
●コース設計/ギル・ハンス

世界最高とうたわれたコースをオマージュ
キタアニCCの跡地を整地し誕生したインランドリンクス。かつてニューヨークにあったリドーCCをオマージュして造られた。タイで初めてのリンクスタイプのコースだ


クラブハウスは隈研吾設計
建築家・隈研吾設計のクラブハウスは無駄がなく機能的。レストランからはコースを眺めることができ開放的でもある。ロッカー棟も簡素ながら機能的で好感が持てる

マンメイドリンクスの傑作と称された
リドーCC
1917年、チャールズ・ブレア・マクドナルドとセス・レイナーがニューヨーク州ロングアイランドに完成させたリンクスコース。大量の砂が使われ当時としては破格といえる75万ドルの建築費がかけられた。第二次世界大戦中に徴用され、戦後復活することなく消滅した
例えばバリシアーリンクスの3番・206ヤード・パー3(EDEN)は、セントアンドリュースの11番ホール(172ヤード・パー3)がデザインソース。リドーCCでは3番ホールで175ヤードだった

4番ホール・606Y・PAR5(CHANNEL)

池を2度越える「海峡」ホール。距離も長く、最も難しく感じた
距離のあるホールで池を2度越えて攻める。攻略は左から攻める3オンの通常ルート、1打目を右にある島に落とし最短でピンを狙う「危険と報酬」の飛ばし屋ルートがある。フェアウェイにはうねりがあり、グリーンを視認できるのは2つ目の池を越えてからだ。距離があるだけにミスをするとなかなかグリーンにたどり着けないという印象を受ける難ホールだ。
リドーGCでのデザインソースはイングランドのリトルストーンGC(1888年)の16番(464ヤード・パー4)でHC1のホールだった

2つ目の橋を越えるとグリーンが視認できるが距離はかなりある
8番ホール・217Y・PAR3(BIARRITZ)

溝で2つに分けられた四角いグリーン「ビアリッツ」
距離のあるパー3で、ティーイングエリアからグリーンまでウェイストエリアで囲まれ、グリーンは長方形。グリーンはスウェルと呼ばれるくぼ地で前後2つに分けられており、ここからのアプローチはやや打ち上げになる。「ビアリッツ」ホールは、フランスの保養地ビアリッツにスコットランドのトム&ウイリー・ダン兄弟が設計したゴルフ・ド・ビアリッツの3番ホールがオリジナル。1920年にハリー・コルトにより改修されている。
デザインソースは1911年パイピングロックCの9番(227ヤード・パー3)、イエールGCの9番(225ヤード・パー3)、リドーCCでは8番(234ヤード・パー3)になり名称は「OCEAN」だった


ティーイングエリアからグリーンまでウェイストエリアで、距離もあり風の吹き方で手にするクラブはかなり異なる。グリーンは長方形で不思議なデザインだとわかるが、ビアリッツは歴史的に古く、決して奇をてらったものではない。デザインソースとなったイエールGCの9番ではウェイストエリアではなく大きな池だった。セス・レイナーの設計
10番ホール・405Y・PAR4(ALPS)

「アルプス」はプレストウィックGC17番からオマージュされた名ホール
ティーイングエリアから眺めると小高い丘が目に入り、ホールの形状が読めないが、右にフェアウェイがあり逃げ道が用意されている。飛ばし屋なら丘を越えて攻めることができるが、その先はグリーンの幅と同じ大きなバンカーが口を開けて待ち受けており、深いバンカーからピンを狙うことになる。右フェアウェイはかなりの傾斜があるがピンを視認できるので安心感がある。
アルプスとして名高いのはプレストウィックGCの17番(394ヤード・パー4)だ。リドーGCのアルプスホールも10番(414ヤード・パー4)で、ザ・ナショナルGL・オブ・アメリカでは3番(418ヤード・パー4)だ

グリーン手前のバンカーはかなり大きいことがわかる。グリーンをオーバーすると広大なウェイストエリアに入ってしまう。1打目はブラインドになっていることから、果敢に攻めるか、右に逃げるか、技量に合わせて選ぶことになる
16番ホール・207Y・Par3(REDAN)

構えると「どこに打つ」と気弱になるほど難しい「レダン」ホール
世界で最も模倣されているホールデザインとして有名なのが「レダン」。スコットランドのノースベリックGC西コースの15番(189ヤード・パー3)だ。本家のレダンホールは海からの風が強く、また打ち上げのため判断が難しい。バリシアーGLではホール形状は把握できるが、グリーンの幅はなく左へと曲がっていて、両側にバンカーがあり正確なショットを要求するシビアさがある。
デザインソースはノースベリックGCの15番。リドーCCも16番(206ヤード・パー3)でパイピングロックCは3番(227ヤード・パー3)、ザ・ナショナルGC・オブ・アメリカでは4番(185ヤード・パー3)だ

グリーン幅が狭く風はアゲンスト。ピンを狙わずバンカーを避けてグリーン手前のエリアに落とし、距離の短いアプローチで攻めるのが正解に思える。海からの風が強いノースベリックGCではドライバーでグリーン奥に落とし、上りのアプローチで攻めるのが最も賢い攻め方とされる(バリシアーGCと真逆の攻め方)
本家のレダンホールは266ヤード・パー4だったが、1895年に改造され200ヤード・パー3になった。1921年に作製された図面

17番ホール・616Y・Par5(LONG)

セントアンドリュース14番と同じ、距離のある「LONG」
最も距離のあるタフなホール。広大なウェイストエリアを越えて打ち、3打目でピンを狙うのが正しい戦略ルートだが、18番ホールの半島状のフェアウェイに落としウェイストエリアを越えて果敢に攻めることもできる。ただし飛距離に自信があればの話。右サイドに打ってしまうとウェイストエリアを越えて打つことになり、ミスして入れてしまうと距離を稼がなければならなくなり思わず力んで脱出は難しい。HC8のホールだが表示以上に難度の高いホールだ。
デザインソースはセントアンドリュースの14番(567ヤード・パー5/LONG)、リドーGCでは17番(563ヤード・パー5)でHC2の難関ホールだった。マクドナルドがセントアンドリュースの14番を参考にした独自のデザインとされる


距離があることから見えているグリーンになかなかたどり着かない印象があった。フェアウェイは広いがウェイストエリアも広く飛距離と方向性が求められるホール。グリーンはかなり広い。デザインソースになったリドーGCの17番はセントアンドリュースの14番から考案されたホールだ
18番ホール・498Y・Par4(HOME)

アリスター・マッケンジーの「2ショットホール」が体験できる最終ホール
距離のあるパー4で、ティーショットは打ち上げになるが、17番のフェアウェイと共有している部分があり全体的には広く感じる。右から攻めると2打目地点からピンが視認できるが、ウェイストエリアがあるので飛距離だけではなく方向性も求められる。小高い左ルートではグリーン方向は視認できない。2打目以降は左がコース外になりフックボールはOBとなる可能性が高い。
リドーGCの18番(424ヤード・パー4)とバリシアーGLの18番はアリスター・マッケンジーが1914年カントリーライフ詩の「理想の2ショットデザインコンテスト」に応募して優勝したホールの再現だ。マッケンジー、マクドナルド、そしてハンスと対話できるホールだと言える
週刊ゴルフダイジェスト2025年9月16日号より
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