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車中泊で全国制覇!<後編>「名門よりも“とんでもないコース”を優先」その理由とは?

KEYWORD ゴルフ場

車中泊をしながら全国2100カ所のゴルフ場制覇を目指し、すでに983カ所(1月28日現在)のコースをラウンドしている木村公一さん。彼を突き動かす原動力とは――?

TEXT/Kenji Takahashi PHOTO/Takanori Miki THANKS/箱根湯の花ゴルフ場

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  • 今回は、愛すべき“とんでもゴルファー”をご紹介しよう。“下道”だけを使い、車中泊をしながら全国のゴルフ場制覇を目指す木村公一さん、62歳。すでに983コースを回り(1月28日現在)、『釣りバカ日誌』ならぬ『ゴルフバカ日誌』の主人公のようである。いったいなぜ彼はここまでやるのか……。 TEXT/Kenji Takahashi PHOTO/Takanori Miki THANKS/箱根湯の花ゴ……

削れるのは高速代と食費
寝るだけならクルマでOK

「下道にこだわるのは、基本的に払わなくていいものは払いたくない性分だから。同時にこの先、全国に1200カ所以上のゴルフ場が残っているので、金はいくらあってもいい。プレー代とガソリン代は必須なので、だとすると削れるのは高速代と食費。風呂はゴルフ場で入るので、寝るためだけにホテル代を払うのはもったいないから車中泊。食事はコンビニの売れ残り弁当で十分です(笑)」

道中の愛車はホンダのエリシオンで30万円の中古を購入。2列目と3列目のシートを倒して寝る。

「最初はキャンピングカーも考えましたが、キャンピングカーで寝泊まりしたら意味がない。安く上げるために中古車にしました」


数字で表すのが好き。回ったコース数をマグネットの数字を使ってその都度更新して愛車にも貼っている

ラウンドの日程表作り、道中のルート選択、ゴルフ場の予約などはすべてスマホとパソコンでやる。

「ネット環境がよくなったおかげで全国制覇はすごくやりやすくなりました。富士山の麓のゴルフ場が積雪でクローズになったときは、電話とスマホを総動員して掛川のゴルフ場でラウンドして帰ったことがあります。自分にとってはゴルフをやるために土日がある。1日空きを作ると全国制覇が1日遅れる。家を出てゴルフ場へ向かったら、何が何でも城(ゴルフ場)を塗りつぶして帰りたいのです」

ゴルフ場制覇は、木村にとって文字通り城攻めなのだ。

「雨が降るとやりたくない。でも全国制覇を目指す以上、雨が降ってもゴルフ場がクローズしない限りやります。1人でも回る。あるコースでは50組がキャンセルしましたが、ゴルフ場がいいというので、2人で回ったこともあります」

予約はほとんどスマホの「1人予約」で行う。

「これまでに1人予約を800回やってきたので、同伴者が3人いると、過去2400人と一緒にラウンドしている計算になる。うち2000人が初対面ですが、皆さん、いい人ばかりでした。でも、その人たちとゴル友になろうとは思わない。人間関係を作ると、約束してダメになったときに困る。だから誘われても縁は作りません。自分のペースで、気の向くままラウンドする。その意味で1人予約はマジに一期一会。後腐れがなく自分のペースで城攻めができます」

全国制覇は、木村が自分だけの世界に浸れる文字通りオンリーワンの趣味といえるだろう。

力んで方向性が悪いのでドライバーはほぼ使わず3Wでティーショット。200ヤード飛ぶ。シニアのドラコン大会で316ヤード飛ばして3位に入賞。スウィングの基本は誰にも教わっていない

愛用クラブはキャスコのUFO。1Wは短尺。FW&UTは33からPPまでフルセット。その他、9番とPW、52度、58度。パターはゼクシオの中尺

安定した会社役員より
全国制覇

好きなゴルフ場のタイプはトリッキーなコース、というのも変わっている。理由がいい。

「いいゴルフ場を紹介した本は腐るほどある。川奈のことは誰でも書いているでしょう。でも私はいいゴルフ場を探すのが目的ではない。とんでもないコースのほうが好きで、記憶に残るんです。それに高級なコースは10年後もつぶれることはないが、メンテナンスの悪いトリッキーなコースは10年後になくなるかもしれない。だから訪れる人の少ない、狭くてトリッキーなとんでもないコースを優先して回っているのです」

現在、日本のゴルフ場の正確な数は2123コース。15年前は約2300コースだったので、木村が危機感を覚えるのも無理はない。

「ゴルファーズダイアリーの22年版と23年版を比べると、1年間で6コースがつぶれている。太陽光発電などに生まれ変わっているのでしょうが、このまま減り続けると10年後に何コース残っているか? だから早く回らないといけないという危機感を抱いています」

その危機感が高じ、今年6月には会社を退職して全国制覇に集中する意志を固めている。

「仕事は楽しいし、職場の仲間にも恵まれていてやり甲斐もあるが、残りの人生は全国制覇を優先したい。今後は九州や北海道など、自宅から遠いゴルフ場が中心になるので、1週間家を空けて週末に帰るというスケジュールになる。それでも残り1200コースの制覇には10年かかると思っています」

訪れたゴルフ場のネームタグやボールマークは全部持っている。キャディバッグには700枚以上のネームタグが! 初顔合わせの同伴競技者やゴルフ場スタッフとのコミュニケーションにもなる

今日もどこかで気ままにラウンド――
「生き甲斐が見つかった」

漫画の『釣りバカ日誌』ならぬ『ゴルフバカ日誌』を地でいく痛快サラリーマン人生だが、そこまで全国制覇に入れ込んでよかったことは何だろうか?

「生き甲斐が見つかった。これに尽きます。実は学生時代に『世界まるごとハウマッチ』に出演していたチャック・ウィルソンのフィットネスジムでバイトして、そこで日本一や世界一の人たちを見てきた。そのとき、どんなバカなことでも日本一になりたいと思ったんです。サラリーマンでは日本一になれなかったけど、ゴルフ場を制覇すれば日本一に近づく。わけのわからない価値に挑戦し続ける楽しさは、ほかでは味わえない快感ですよ」

ゴルフは一生やれて、知らない人とも楽しめ、やって面白いのが一番、という自称「ツアーアマ」の木村。家族の理解があってこそと思うが、今週末はどこの城攻めに興じているだろうか。

ゴルフ場で、道の駅の駐車場で、“城攻め中の公ちゃん”の姿を見掛けるかもしれない。「ゴルフバカ日誌」は今日も楽しくつづられているのだ

週刊ゴルフダイジェスト2024年2月20日号より