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【ゴルフ野性塾】Vol.1760「パッティングは素直さ半分、頑固さ半分」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

「素直さは必要だ。素直さがないと

人様のやってる事、語ってる事、総てが曲って見えるし、曲って聞えるものだ。疑心も生じる。人の世を明るく生きるには素直さが要ると思うよ。素直さ持って損はしないな。得する事が多いと思うな」
「塾長の言葉、毎日は要りません。でも一週間に一度、贅沢言わせて貰えば二日に一度は聞けたらと思います」

私が住む福岡けやき通りの15階から大濠公園迄、片道1キロの距離だが、公園で私を待つ人が増えて来ている様じゃある。
皆、後期高齢に近い人達だ。彼等は公園内のスターバックスコーヒー店の外のテーブルでコーヒーか紅茶飲みながら待っている。
私はカフェラッテのホットを注文する。ケーキを頼む者もいるが、多くはアメリカンコーヒーか紅茶だけだ。
そして、会話が始まる。彼等のゴルフの質問に答えるか、彼等のスウィングへの考えを聞いて過すだけの1時間弱の時間である。
いつの間にか1対1の会話が5対1の会話になって来た

1メートルをド真中から入れよ。

後期高齢者は余りの時間を持つ。
私は原稿執筆があるので有難いと思うほどの余りの時間はないが、それでも彼等と一緒に過す時間は充分に持っている。

「素直さは大事だ。教わったものを素直に受け止め、努力の道に入る。ゴルフを教えてくれた師匠と通う練習場を頻繁に変えない練習はハンディ5のゴルフを作ると思う。そこから先はライバルの存在が要るな。75年生きて来て何が大切で必要だったか、今は分る。信じた人の存在と友の存在だ。友達がいなかったらゴルフの楽しさは半減すると思う」
「確かにそうです。ゴルフやる時に一番必要なのは一緒に回ってくれるゴルフ仲間であり、友人です。次に1メートルを絶対に外さないパターと200ヤードのキャリー飛距離出してくれるドライバーじゃないでしょうか」
「そこだ。1メートルが7割の確率で入ってくれるパター持っていたとて、1メートルをド真中から入れなきゃならんのよ」
「ド真中ですか。簡単と思いますが」
「簡単じゃない。そして人間の素直さ生むのがド真中入りなんだ。どっからでも入りゃいい。入る位置は360度ある。勝負事は勝ちゃいい。どんな勝ち方であっても勝てば官軍、錦の旗よ、と考える人間に性格の素直さは期待出来ん。ド真中から入れる1メートルがあれば性格の素直さは生じるものだ。ジュニア塾生と進化論塾生の指導で気づいた事だが、自分が絶対に外さない距離をド真中から入れる技術と精神力は必要だと思う。カップの端からでも入りゃいいと思うパッティングに素直さは生じないぜ。信じた教えを頑固に守り抜いて行くのがゴルフ上達の秘伝だ。素直さと頑固さはどんな競技にも必要な資質と思う。素直だけではダメ、頑固だけ持ってても駄目だな」


「難しいですネ。自分自身を省みた時、素直さと頑固さ、半々とゆう時はなかった様に思いますが」
「今から半々にすりゃいい。70歳過ぎた人間の知恵使えば素直さと頑固さ、半々にする事は出来るだろう」
「難しい事ですよ。やっぱり素直さが先に来るか、頑固さが先に来て気持ちの領域を占めると思いますが」
「出来る筈だ。自分の絶対のパッティング距離を作るにはド真中から入れに行くアドレス時の単純さと素直さ、そして、その単純さと素直さを守り抜く頑固さが要るんだ。70歳過ぎて入りゃこっちの勝ちと思うは年寄りの偏屈だな。そんな傲慢さ持ってたんじゃ周りに嫌われるな」
「周りって誰ですか? ゴルフ仲間ですか? それとも友人ですか?」
「女房と子供、そして孫達だ。嫌われるのイヤだろう?」
「そりゃイヤですよ。いい爺様やりたいですからネ」
「いい爺になりたきゃ1メートルのパット、カップのド真中から入れる練習するんだな。そして1メートルがド真中から入らず、端から入る様になったら70センチの距離にすりゃいい。それでいい爺様の寿命は延びるとゆう訳だ」
「ド真中ですか。入れる方法教えて下さい」
「そんな暇も気もない。自分で探せ。時間は充分にある筈だ。クラブ競技参加の時間もあれば友と一緒に回る時間もあるのが後期高齢者の身だろう。スタート前の30分、練習グリーンの端で球3球、転がし続けりゃいい。その内、ド真中から入り続けた時の喜び湧いて来ると思う。端は駄目だ。ド真中、真正面が素直さを生む秘訣だ」
「その考えは哲学ですか? それとも倫理観ですか?」
「どっちでもない。コーヒー一杯飲んで過す爺様の井戸端話といったところだ」
「こんな話、若い頃は居酒屋で聞いた様な気もするんですが、今はスターバックスの外のテーブルです。人間、変る時は変れるものですネ」
「いい爺様になれ。丸くなり過ぎても面白くはないし、頑固過ぎた偏屈爺も面白くはないだろう。何でも賛成、何でも反対は人の世を狭くする。だとしたら程々、然り気なくが一番大切かな」「若い人間に聞いて貰いたい話ですネ。講演会はやらないのですか?」
「コロナ前は年に50回はやっていた。コロナでゼロになった。そして今もゼロのままだ。もう、人様の前に立つ自信はなしだ」
「やりませんか? 爺様達の前で。トーナメントプロゴルファー、ジュニア塾生指導、執筆業の経験、聞いて退屈する事はないと思いますが」
「今の私に1メートルをド真中から入れて来る自信はない。それと同じだ。自信無くした者の話に魅力はない。多くを期待するな。望みもするな。好奇心持って貰うのも迷惑。それでは解散だ。俺、大濠を1周して15階に帰る。今日、来ている下着とジャージは女房に脱がされる。昔は俺が脱がしていたが、今は逆だ。やっぱり何かが平凡に変って行く」
「平凡っていいものですか?」
「分らん。これから分ると思う。風邪引くな、熱出すな、無理するなが後期高齢者の健康3カ条だ。練習場の球数、プロを目指す者には年齢の最低20倍、30歳過ぎれば10倍、プロになって40歳過ぎれば年齢の5倍打てと教えて来たが、70歳過ぎれば年齢と同じ数打ちゃ充分と思う。疲れてると思ったら、年齢の半分でいい。これから練習場行くんだろ? お前さんは73歳だから、今日の練習、73球打って終りでいいと思う。沢山打ったって身に付かないものだ。固定の習慣は作るな。一日一日、少しでいいから変える好奇心は必要だ。年を取って最初に変って来るのは好奇心だろう。私の経験で申せば、好奇心の量が減る。ノルマは要らんぞ。好奇心の重たさが軽くなるからな。それではまた会える時迄、サヨウナラ」

スターバックスから離れた。彼等が私の背を眺め続けている気配を感じた。
一日が過ぎた。
現在時、11月24日午前4時25分。
昨日の夜、神戸から帰って来た長男雅樹は日付の変る前に自分の部屋に戻った。女房はテレビの音を消して私に付き合っていたが、いつの間にか居間から自分の部屋に戻ったらしい。1時間半で本稿書き上げました。
今日はどこへ行こう。
体調良好です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年12月13日号より