【ゴルフ野性塾】Vol.1754「練習とは、自信のレベルを上げること」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
今日10月13日。
晴れたる福岡の空。
東の山の上、小さな雲が横に並んで浮いている。
昨日も同じ景色だった。
しかし、あの暑い空はどこへ行ったのかと思う。
今日の予想最高気温は24度と聞く。
現在時午前10時25分。気温22度。
暖房も冷房も必要とせぬ秋の真っ只中。
赤坂けやき通りの樹木の葉、秋色へと薄まり始めている。
本稿執筆後、遅い朝食を食べて、すぐさま大濠公園への散策に出掛けるつもりです。
私は相変らずの日々。
15階で然り気なく過しています。
体調良好です。
それでは来週。
球3球。
10回繰り返せば何かが見える
練習中にひらめいたり、感覚をつかむとメモを取るようにしています。ところが、次のラウンドや練習で試してみても、まるで上手くいきません。塾長、ひらめきや開眼とは何なのでしょうか。あの感覚を忘れないようにするにはどうすればいいですか。(千葉県・大野政史・67歳・ゴルフ歴20年・平均スコア95)
必要であれ、必要でなくとも手に入れたものが捨てられなくなると溜るばかりと思う。
となれば極端な話、ゴミ屋敷化して行くだろう。
私と女房、そして44歳の同居人、長男雅樹は手に入ったものを捨てるも処分も苦手とする性分である。
何故、その性分なのかは分らない。
推測、憶測は出来るが推測と憶測の源流は遠く、記憶定かじゃなかった。
私もゴルフ理論と状況推察時、推測憶測の範疇に入るのではと思える文を書く事はあったが、50%以上確かと思った時だけ書いて来た。
そして、文末に“思う”の一言か、“筈”の一文を入れて来た。
長女寛子は41歳になるが、幼い頃から身の周りの整理整頓力を持つ子であった。
人間関係もだ。
それ故にか、お節介するのもされるのもイヤがる性分だった。
大人になり、子供2人持つ親となった今、その性分、生きているのかは知らぬが、多分、持ち続けている様な気はする。
己の性分を変えるのは簡単ではないと思う。
ならばその性分のまま生きて行くが幸せであろう。
私は断捨離を苦手とする人間である。
買った物、戴いた物を捨てるには苦痛が伴う。
その苦痛がイヤで捨てる事の出来ない性分になった様に思う。
購入したゴルフクラブやスーツ、支給契約で戴いたゴルフウェアやスパイク等、もう使う事はないと分っていても処分する事が出来なかった。
故に今も我が住まいの一室に溜め込んでいる。
身辺を簡素化するを苦手とする女房殿が言い続けて来た。
「もういい加減、処分したら? どなたかに譲り渡すも善し、貰って貰うも善し。もっと身辺を整理すべきじゃないの? 寛子に頼んだら3日でひと部屋綺麗になるわ。
寛子だったら3日要らないか。アナタに断らずにボンボン片付けて行くから、業者がいれば半日で済むんじゃないの? もう5年前になるけど、余り着ていないカシミアのセーターをもう着る事ないと言ってゴミ袋に捨てた人だから」
「その話を聞いた時は俺も驚いた。俺がスコットランドで買って来たセーターだった」
「一瞬の迷いもなしでしたネ。私、『カシミアだ!』と叫んでましたよ。その時、『それがどうしたの?』と寛子が平然とした顔で呟いたのには驚いたわ。この子は私とは違うと思った。決断力、思ったらすぐの行動力が私とは異質だったわ。寛子のマンションに行ってなかったからこのカシミアは救われたけど、行ってたらゴミ焼却所の煙になってたと思うわ。子供2人の母親になって断捨離パワー、強まった様な気がするな」
「残すも片付けるも力が必要か。俺にはカシミア捨てるなんて発想と行動、全く持てないな」
「私もよ。今迄、カシミア捨てたのは2度だけですネ。着られなくなって捨てました。肘が破れ、脇の下に大きな穴が開き、セーター全体の生地も薄くなって修理不能状態迄行って未練抱いて処分したけど、そりゃ切なかったわ。信さんに最初に買って貰ったカシミア、大切に着続けて来たのよ。雇用促進住宅時代、最初は外出着、そして部屋での普段着、最後はパジャマ代わりに着続けて来たわ。高価なカシミアセーターは私の宝物だった」
「もう雇用促進住宅時代から35年以上か。俺もカシミア着た時は感動したな。俺にカシミア着てゴルフ出来る力量あるのか、と自問した記憶あるぞ」
「信さんが最初にカシミア着た時、覚えてる。周防灘から帰った時の事よ。新品のカシミア着て、『このセーター最高。軽くて柔らかくて暖かい』と玄関で言ったのよ。幼稚園児だった雅樹が信さんに飛び付いた。そして柔らかくて暖かいと言って顔を信さんの胸にこすり付けたわ。雅樹の鼻水がペタッとカシミアにくっ付いた。寛子も走って来て信さんに抱き付いた。寛子の鼻水もくっ付いた。信さん、叫んだ。『今すぐ洗ってくれ! 風呂も食事もその後だ!』と。
大変な事が起きたとは分ったけど楽しかったなァ。叱るに叱れず、悲しい顔で雅樹と寛子の2人を抱き続けていた御主人様、可愛かったわよ」
「俺も覚えてる。ベチャッと雅樹の鼻水、胸にくっ付いた時、我が子も喜ぶカシミアの柔らかさと暖かさかと思ったものな。懐かしいぜ」
「その大切なカシミアも寛子の手に掛かると、もう着る事ないの一言でゴミ袋行きよ。あの人、カシミアの有難さと値段、分ってないのかもネ」
「分ってても不必要ならば捨てる奴だ」
本稿、マンシングのTシャツの上にマンシングの丸首カシミアセーター着て書いております。
私も女房も長男雅樹もカシミア大好き人間です。
ただ、執筆だけは別だった。
特に観戦記執筆は取材したものを一夜で捨てて来た。
マスターズも全英オープンも一日10のテーマを取材した。
本誌、週刊朝日とスポニチと一日3本の観戦記執筆を毎夜続けたが、取材した10のテーマの内、6つあれば執筆出来た。
残る4本は取材メモと記憶、一緒に捨てた。
捨てなければ翌日の取材、適当になると感じたからである。
私の性分なれど、残るものは使う。となれば、4本分の取材、しなくなると思ったからである。
やはり、10本取材して、その中の6本でその日の執筆を終らせたかった。
ひらめきを残そうとすれば、固執と固着が生れると思う。
固執と固着は拘りを生み、次の行動への制約になるのではあるまいか。
水も入って来る水を抑制して古き水を長く溜め続ければ飲めない水となろう。
人の世もそうだと思う。
縁と幸運あれば、入って来る水と出て行く水のバランスは保てる筈だ。
貴兄の気持ちは理解出来る。
しかし、今少し、球3球の練習をされてはどうか。
1球、何も考えず、何も想わず、何も期待せずの球を打つ。
次の1球、上手く打てた時の感覚で打つ。
次の1球、上手く打てた時の体の動きで打つ。
この球3球の練習を10回繰り返すのです。
上手く行っても行かなくても繰り返す事が大切だった。
結果、私はこの練習で自信のレベルを上げる事が出来、そしてプロテストに通り、すぐのツアー参戦が出来たのではと思っています。
健闘を祈る。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2022年11月1日号より