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【野球とゴルフの気鋭コーチ対談】渋野日向子のコーチ青木翔と千葉ロッテマリーンズ投手コーチ吉井理人の「育てたかったら教えない!」

GDライブラリ
2020.02.11

渋野日向子のコーチ、青木翔が思わず本屋で「ジャケ買い」した本がある。タイトルは『最高のコーチは、教えない』。著者はプロ野球、千葉ロッテマリーンズの投手コーチ吉井理人氏だ。この“ビビビ”の出合いから約半年後、2人が実際に顔を合わせた。

左から吉井理人、青木翔

吉井理人
●千葉ロッテマリーンズ投手コーチ
和歌山生まれ54歳。84年プロ入り。日本4球団、メジャー3球団で活躍後、ソフトバンク、日本ハムのコーチを務める。筑波大大学院でコーチ論を研究、19年ロッテの一軍投手コーチに。ゴルフは「好きですが、全然伸びません」

青木翔
●プロコーチ
福岡生まれ36歳。アカデミー「ASGA」代表。福岡大卒業後、プロを目指すも指導者の道に。19年の全英女子オープン覇者・渋野日向子をはじめプロや多くのジュニアのコーチを務める。「1人1人の個性を生かす」指導がモットー

青木 ふらっと立ち寄った本屋で吉井さんの本を見て「おぉ、これや!」と思ったんです。中身も見ずに買いましたが、実践されていることが自分の考えととても近く、勝手にシンパシーを感じて参考にさせてもらっています。だから今、メチャ緊張しています(笑)。

吉井 ありがとうございます。競技は違いますけど共感してもらっていると聞き、お会いできて嬉しいです。この本、我ながらすごいタイトルだなと思っています(笑)。でも、まったく教えないわけじゃないんですけどね。

青木 そうなんですよね。僕自身も「教えない」とは言いますが、正確には「答えを教えない」ということなんです。言われたことだけをやっている選手は、成長の限界があるなと。

吉井 「答えを教えない」というのは、人の成長をサポートするのにもっとも重要なことかもしれません。相手が子どもであろうとプロスポーツ選手であろうと、会社で部下に対するときもきっとそう。

青木 僕は日ごろから生徒に「明日俺が死んだら、どうすんねん」って言ってるんです。常に付きっきりにはなれないし、フィールドに出れば自分の頭で考えなくてはいけない。自ら課題を見つけて、それを解決するためにトライ&エラーをするというのが、最強の成長サイクルだと思っています。

吉井 そのサイクルに乗れば、コーチが教えることは本当に減ってきます。ダルビッシュ(有)は僕がコーチを務めたときには、すでにそれができ上がっていた。技術面はもちろんですが、自分を俯瞰して課題を見つけて最適な解決法を導き出す。天才だと思いました。だから彼にはほとんど教えなかった。渋野プロもそうですか?

青木 いやいやいや。あいつは全然(笑)。でも、ラウンドが終わるとその日の内容をきちんと覚えていて、明確に答えられてました。だから「じゃあ、あのミスではどうすべきだった?」と自分で答えを出せるように、とにかくコミュニケーションを取りましたね。スーパー質問攻めです(笑)

吉井 選手の成長を促すコーチングの基本はコミュニケーション。選手の考えを聞き出し、それを修正していくことが僕らの仕事です。手間だし時間もかかりますが、それを省くと後で大変なことになってしまいますからね。

「教えない」=「放置」ではない

吉井 僕、「教えない」と本のタイトルにつけましたが、まったく教えていないわけではない(笑)。青木さんが教えるのはマインドセットだけで、技術的なことは一切教えない?

青木 基礎は教えます。それも徹底的に。練習を見に来た記者には「教えないとか言って、超スパルタじゃないですか」と突っ込まれます(笑)。僕の生徒は小中学生のジュニアも多いんです。彼らには基礎的な技術を教えてあげないと、そもそも課題を見つけるレベルにまでならないので。

吉井 プロ野球選手であっても、高卒ルーキーは同じことが言えますね。ほとんどの選手は基礎が必要な技術レベルで入団します。だから、2年程度は基礎練習。技術を持っていない選手に教えないのは、ただの放置になってしまいます。

青木 「教えないこと」について具体的な話をすると、しぶこはアプローチの引き出しが少ない。日本女子オープンでもラフにかなり苦しめられましたが「打てないなら諦めろ」と言いました。一見すると放置ですが、「自分に足らないもの」と「通用しないときにどう対応するか」に気づいてほしかったんです。

多くのジュニアを指導する青木。「課題を見つけられるレベルまで基礎は叩きこむ」

吉井 みんなゲームではいい結果を出したい。でも実力以上のものは出ないんです。だから、自分の技術の引き出しには何が入っているかを把握して、試合ではその引き出し以外開けないようにしないといけません。

青木 持っている技術でベストなパフォーマンスを出す癖をつけないと、新しい技術が加わったときに使いこなせないですからね。

吉井 というのを頭ではわかっていても、自分のゴルフでは、林のなかから狭い隙間を狙っちゃうんですけどね(笑)。

青木 僕が吉井さんのコーチをやりますよ(挙手)! でも試合前に何か伝えて上手くなるなら、日頃からしています。だけど教える人だって結果を出してほしいから、ついプラスαの指導をしてしまう。

吉井 試合前、一番よくないのは「体の動きに関する指導」をすることです。「もう少しひじを高く上げてみろ」とか「左足の位置を修正しろ」とか。動作のことを言われた選手は意識が自分の内側に向いてしまいまいます。

青木 逆に体が動きにくくなる?

吉井 そう。野球の投手もゴルフも自分から始動をするスポーツです。自分の内側、つまり体に意識があると、今まで自然に動いていた部分も動かなくなってしまう。

青木 僕は試合前やラウンド中は、選手の意思を後押しする言葉をかけます。「いいよ!」「行ってこい!」。そんな感じ。しぶこが全英女子で勝ったときもキャディをしていましたが、僕は彼女が決めた選択を応援していただけです。

練習熱心な渋野の傍らに青木の姿はよくある。「我慢は必要。時間もかかる」

吉井 そういった言葉は自信につながります。あとイメージを伝えることもいいですね。たとえば「糸を引くようなボールを投げろ」とかもっと抽象的な言葉だと「スバババーンといけ」とか。そうすると意識が外に向き、体がそれを出すための動きになるんです。

選手には教えないがコーチは答えを知っておく

青木 選手にどんな言葉をかけるかってめちゃくちゃ難しいですよね。たとえば「7割の力で振ってごらん」と言っても、僕と選手の7割の力感は違うし、脱力すべき箇所やタイミングも伝えたいものと合っているとは限らない。こちらのニュアンス通りに受け取っていることなどほぼないと思っています。

吉井 コーチは声をかける前に、まずその選手の表現の仕方をわかってあげないといけない。「7割って言ったらどれくらいの力感になるかな」とか。もしかしたら5割でちょうどよい感じになるかもしれないし。だから極力、自分の感覚的なことは言わないほうがいいのかなって思います。さっきの始動の話をすると、動き始めは誰しも自分のコツというものがあって、人それぞれですから。

青木 選手と自分の表現を近づけるためには、やっぱりコミュニケーションですか?

吉井 あとは観察ですね。まずは彼らを知ること。能力や悩みを把握しておけば、どこに導けばいいのか、そのためにはどんな言葉がいいのかがわかってきます。でもその答えは伝えません。彼らが自分で気がつくことが大事です。誘導するのもダメです。

今年の目標を「スマイル」とした吉井。厳しくも、いつも寄り添う目がチームを優勝に導く

青木 見て話さないと、わからないですよね。だから僕のレッスンは、できるだけ個別にするようにしています。いっぱいいたら見きれないですもん。選手とはゴルフに関係のない話もたくさんします。学校のこととか、何にハマっているとか、ほかのスポーツのことも。そうすると考え方や性格がわかってくる。結果が出ない原因がゴルフだけにあるとは限りません。

吉井 性格によっても技術レベルによっても、言葉のチョイスや声のかけ方、タイミングは本当に人それぞれですから。一概にこれをやっておけばいいというのがないのがコーチングなんです。

褒めているだけでは選手は伸びない

青木 そう、型のようなものがないのがコーチングの特徴かもしれないですね。それで言うと、今、教育や指導の現場では猫も杓子も「褒めて伸ばす」ということをやっている印象です。もう指導=褒めるみたいになっているなと。

吉井 そうかもしれません。コミュニケーションを取るとき、褒めることを念頭に置くのではなく、話を聞くというスタンスがいいと思います。

青木 聞くときに何か気をつけていることはあるんですか?

吉井 まず聞くということですね(笑)。間違っているとわかっていても、一度主張を受け止める。よし、お前の言うことはわかった、やってみろと。それで失敗をしたときに、振り返ればいいんです。なぜ失敗したと思うかって。

青木 僕、失敗ってすごく大事だと思ってるんです。もう選手が失敗すると笑っちゃう。「お前やったなぁ!」って。

吉井 それはすごい。野球選手ならキレる奴も出てきそうだ(笑)。

青木 笑うっていうのは馬鹿にしているわけじゃなくて、失敗してへこんでほしくない。失敗すると誰もがしょげる。だからそれを消すために笑う。失敗すると絶対にそこから得られるものがある。成長のきっかけをつかんだんだから嬉しいだろって。失敗をいいこととしてとらえてほしいんです。

吉井 これまでティーチング、つまり技術を教えていた人がコーチングに取り組もうとすると、とても難しく感じるかもしれない。でも基本的には選手の話を聞き観察して、彼らの気づきを生み出してあげるということだけです。

青木 我慢が必要ですよね。選手は思った通りのことをしないですから。時間もかかる。でも自ら課題を発見してそれを解決できるようになれば、その思考方法はスポーツ以外でも役に立ちます。選手としてのキャリアなんて人生のほんの一時にすぎませんから。

吉井 プロ野球も選手寿命が短い。選手として大成しなくても、その考え方は身につけてほしいですね。

コーチングとティーチング

青木 これからコーチングをやってみようという人は、確かに時間との葛藤はあるかもしれません。なかでも世間が注目するような逸材“ダイヤモンドの原石”をコーチングすることもプレッシャーじゃないですか? 今年、ロッテに佐々木朗希選手が入りましたが。

吉井 どうしたらいいかわからないです(笑)。アイデアやプランはありますけどね。ビビっています。何かアドバイスはありますか?

青木 僕がですか!? 恐れ多い。しぶこの場合はもともと原石と言われていたわけじゃありませんでしたから。黄金世代のなかでも、ナショナルチームの子よりワンランク下という感じで。ただちゃんとクラブを振り切れて、頭もよかった。欠点はたくさんありましたがそれを埋めるより、尖っているものを伸ばそうと思いました。

吉井 欠点を埋めるのは時間がかかりますからね。加えて選手のモチベーションも下がりやすい。

青木 プロの世界って大きなザルだという話をするんです。大きな石は残る。あとはいびつな形の石も落ちていかない。いきなり大きな石にはなれないので、一点が尖った石を目指しなさいと。

吉井 参考になります。それでいこう!

青木 えぇ!(焦)

今年の目標を「楽」とした青木。大きな目標に向かっていくために忘れてはならない心持ちだ

吉井 原石に限らず、コーチに本当のことを言う選手は少ないですからね。それを言わせるのもコーチの役割です。

青木 引き出すコーチングと教えるティーチングは、対立しているものではなく両方必要だと思います。ただ今はあまりにも指導者が教えるティーチング要素が強い。

吉井 野球もそうです。師弟関係の文化の名残りで、技術を持った人は選手を育てるのも上手だと思われていました。今はラグビーやサッカーのように徐々にコーチングが取り入れられている状況です。

青木 ゴルフでもそんな波がくれば、長い期間、世界で戦える選手が出てくるかもしれません。僕もコーチとして注目されるようになって、自分を信じられなくなることだってあるんです。

吉井 わかります。僕は迷ったとき、一度離れて学校に行き、ほかの競技の方にも話を聞いた。これは大事です。ラグビーやサッカーでは、指導者がすごく勉強していますから。コーチングには信頼関係が大事。自分もいつでも辞める覚悟で選手と向き合います。そこは思い切って、忖度せずに。

青木 僕も同じです。今日は勇気をいただきました。これからもお互い頑張っていきましょうね。

PHOTO/Nakaya Nakai、Hiroaki Arihara、TEXT/SHOTANOW

週刊GD2020年1月28日号より