【ゴルフの、ほんとう】Vol.726「想像する楽しさを若い人にはもっと感じてほしいです」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
ゴルフで一緒にプレーして気持ちいいのは、周りをよく見られて気が利く人でしょう。こういう教育は成長期にされるべきなのでしょうが、最近の新入社員にはそういう想像力が欠けているように思うのですが。(匿名希望・49歳)
わたしたちも駆け出しのころは、「近ごろの若いもんは!」と年配の方から聞かされたものでした。
ですが、どれだけの時が流れても「イマドキの若いもん」に対して突き付けたい文句は、年配者の口から消え去ることはなかったように思います。
時代によって日本の教育方針が変わってきたこともあり、当然ですが全員が同じような人間になるとは限りません。
要は、人間ひとりひとり、環境と性格、機会とやる気で成長の仕方や方向はガラリと変わってしまうからです。
ただ、人が育った時代の影響を大きく受けることは間違いないと思います。
これはあくまで個人的な印象ですが、わたしが普段から接することも多い若い世代の選手たちを眺めていて不思議に感じるのは「自分のゴルフに集中する反面、ほかの選手のプレーにはまったく興味がない」という点です。
これこそまさに「イマドキの若いもん」って感じですかね。
試合であれプライベートであれ、一緒にラウンドしているプレーヤーが、目の前でどんな考え方をして目の前のピンをどう攻めるのか、ゴルファーなら誰でも興味を持つと思うのですがどうも違う。
興味がないというか、自分以外にはまるで関心がない、といった風情といいますか。
こうした無興味、無関心には、SNSなどネット社会の発達やあるいはコロナ禍による人間関係の変化も影響しているのかもしれません。
もう一つ、強いて挙げるとするならば、ゴルフの考え方が自分本位ということでしょうか。
たとえば、右も左も危険なホールで、ピンは2段グリーン奥に立っているとします。
もちろん状況にもよりますが、わたしなら仮にミスしても最低でも手前の広いグリーンにオンする狙い方をすると思います。
ですがイマドキの若い選手は、何が何でも上の段に乗せるという選択肢1本ということが多いかもしれません。
その日の体調やここまでのアイアンの振れ具合、当たり具合などといったデータと突き合わせて、確率をはじき出しての判断を下すのが本来のやり方でしょうがそうではない。
固定観念で作られた「自分のゴルフ」に照らしてみるだけ。
ある意味とてもシンプルですが……。
ひょっとしたら、そこにはギアの進化が関係しているのかもしれません。
この近年でギアは飛躍的に進歩してきました。
ボールの進化とも相まって以前とは比較にならない飛距離が出る。
ゴルファーの知恵と技術で使いこなしていたギアは、今や人間の仕事を肩代わりしてくれてもいます。
誰もが遠くへ飛ばせるゴルフ新時代が実際に開かれつつあるとも感じます。
ゴルファーは、適切なクラブをチョイスして自分のスウィングをするだけでいいのかもしれません。
実際、女子のトーナメントでも6500ヤード以下のコースなら、セッティング次第で優勝スコアは20アンダーに達します。
今後その数字をどうするのかということもある。
そう考えると10年後、20年後ゴルフがどう変化しているのか正直、想像もつきません。
男女プレーヤーがまったく同じ条件で同じコースで戦う、なんてことも当たり前になっているかもしれません。
そのとき、イマドキの若い選手がどんなプレーをしているのかは、楽しみのような、コワいような(笑)。
あなたの想像力はどんな未来を描いてますか?
週刊ゴルフダイジェスト2022年7月26日号より