【笑顔のレシピ】Vol.122「あのときもっとやっておけば…」後悔だけはしてほしくない
メジャーチャンプ・渋野日向子を育てた青木翔が“コーチング”のこだわりを語る連載「笑顔のレシピ」。ゴルフだけでなく、仕事や育児などでも役立つヒントが満載!
TEXT/SHOTANOW PHOTO/Tadashi Anezaki
僕は教え子の選手に何かを求めるタイプではありません。ただ、1つだけ日ごろ思っているのは「自分のようにならないでほしい」ということです。
僕は20代前半の選手時代、プロゴルファーを目指していました。結局、夢は叶わずコーチングの道へシフトチェンジしたのですが、その決断をした際に感じたのは「あのときもっと練習をしておけばよかった」という後悔です。
それまでのゴルフに対する取り組みを振り返ったとき、1日あと数十球多くボールを打つことができたんじゃないか。単調な練習ももっと意識を高くして取り組めたんじゃないか。そんな自分への問いかけが次々に生まれてきました。
つまり、プロになれないという結果よりも、僕にとっては自分が取り組んできた過程への後悔のほうがはるかに大きなものだったのです。
今の教え子たちがプロになるかどうかは分かりません。ただ、自分で立てた目標が達成されなかったとき、「やっておけばよかった」という気持ちにだけはなってほしくないのです。だから僕は自分の経験を含めて、選手たちに伝えるようにしています。
たった1日の練習で手を抜いてしまっても、技術的に何かが大きく変わるわけではありません。でも、全力で取り組めなかった記憶は喉にささった小骨のように残り続けます。
選手がクラブを置く決断をしたときに、その事実をどう思うか想像をさせるのがコーチの役割。「手を抜くな! 意識を高く持て!」と発破をかけるのは簡単です。でも僕がいないとき、選手は自分で自分を律していかなければ、本当の意味での自立は獲得できません。そのために、少し先の未来を想像させることを意識しています。
これはゴルフを離れてからも必要だし、ボールを上手に打つことよりもはるかに大切なことです。手を抜かずに目の前のことを一生懸命やる大切さを、ゴルフを通じて気づいてほしいと思います。
青木翔
あおきしょう。1983年生まれ。福岡県出身。渋野日向子をメジャーチャンプに導き、三ヶ島かななどツアープロや、全国トップレベルのジュニアゴルファーの育成に努めている
週刊ゴルフダイジェスト2022年5月3日号より