【笑顔のレシピ】Vol.107「勝ったら兜の緒を“ゆるめて”あげましょう」
メジャーチャンプ・渋野日向子を育てた青木翔が“コーチング”のこだわりを語る連載「笑顔のレシピ」。ゴルフだけでなく、仕事や育児などでも役立つヒントが満載!
TEXT/SHOTANOW PHOTO/ARAKISHIN
「勝って兜の緒を締めよ」ということわざがあります。勝負に勝ったあとほど、ゆるみがちな気持ちを引き締めなくてはいけないという意味ですが、僕は兜の「緒」を解くくらいゆるめてしまっていいと思っています。
なぜなら、勝ったということは相応の努力や我慢を積み重ねてきた結果だからです。順位がつく競技は相手がいるので、運の要素もあるでしょう。ただ、運をつかめるベースがあったということには変わりありません。
だからまずは、その労をねぎらってあげるべきです。もちろん結果が出ていなくたって、普段から努力をしていたら取り組んできた姿勢に対しても大いに褒めます。
小学生くらいの年齢では、親や先生、コーチなどの大人に褒められることがモチベーションとなります。だから試合に限らずゲーム形式の練習のような小さなものでも、がんばって結果を出したら手放しで一緒に喜び、褒めるようにしています。
難しいのは子どもが成長していく過程です。できることが増えていくと、見ている大人は「これくらいできて当たり前」と錯覚するようになってしまいます。そうすると小さな成功に対して褒められなくなり、そのうちに大きな成果を出しても「目指している所はここじゃないんだから、気を抜くんじゃない」となってしまう。
たとえ目標はもっと高みでも、その試合で反省すべき点があっても、まずは褒め称えるというのは選手に対する敬意だと思います。そのうえで改善点があれば、それは別の場で話せばいい。
努力を認められなければ、子どもの気持ちがゴルフからも親からも離れてしまうかもしれません。「勝って兜の緒を締めよ」という親心があるのであれば、まずは彼らの努力を認めるところから始めてみましょう。
誰しも赤ちゃんの頃は、歩いただけで大いに褒められたはず。年齢を重ねても新しいことにチャレンジしているという姿勢は同じです。その姿勢を認め応援する存在でありたいと思います。
青木翔
あおきしょう。1983年生まれ。福岡県出身。渋野日向子をメジャーチャンプに導き、三ヶ島かななどツアープロや、全国トップレベルのジュニアゴルファーの育成に努めている
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月28日号より