【世界基準を追いかけろ!】Vol.57 全米アマに大量のスカウトマン! 彼らの求める選手像とは?
松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回は前週に引き続き、8月に開催された全米アマチュアゴルフ選手権を視察した事情通のX氏に加わってもらい、アメリカのアマチュア選手の契約事情について教えてもらった。
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
GD 全米アマで、ちょっと驚いたことがあったそうですが。
X そうなんです。スカウトマンやエージェントの人間が大勢、試合会場のオークモントGCに来ていて驚きました。
GD 高校野球で言うところの甲子園のバックネット裏のような感じですか。
X はい。スカウト熱が高まっている背景には、今年の7月からNCAA(※1)が、大学生選手に対する契約とかスポンサードができるように認めたことがあるみたいなんですよ。現地に来ていたアメリカのリクルーターと話す機会があったんですけど、どういう選手を狙っているのか聞くと、「ドライバーショットでいうと、キャリーで300Y先の枠内にキッチリ打っていけるプレーヤーだ」と言うんです。つまり、350Yを飛ばせる能力は必要なくて、300〜310Yを正確に飛ばせる技量を必要としているということなんですよ。
目澤 PGAツアーでも、ブライソン・デシャンボーなどは、飛ばしに関してはある種、極限近くまで行ってみて本質が分かったというか、最近は飛距離を過度に求めることをしなくなっていますよね。
X トータル8000Yを超えるようなコースでやるなら、ドライバーで350Yを正確に打てる技術が必要ですが、そんな設定はPGAツアーでもないわけでして。それで今、アメリカでは、ここ数年のディスタンス争いに一旦、終止符が打たれた傾向にあるみたいです。それでも、キャリーで300〜310Yの飛距離はないと勝負はできないわけですけれどね。
GD 要するに、ドライビングディスタンス重視からトータルドライビング(※2)重視へとシフトしているわけですね。
目澤 それはコースの難しさとも関係しているんですよ。日本のように花道があるコースだと、ラフに入ったとしてもロフトのあるクラブで花道から転がして狙っていけますけど、それがなかなかないですからね。だから2打目が凄く重要というか、球を止める技術が試されるわけです。そのためにはティーショットはフェアウェイにきっちり置いていかないといけないわけです。
GD 310Y先のフェアウェイの枠にキッチリ打てないと勝負にならないわけですね。
X 今回の全米アマの会場のオークモントも、フェアウェイの傾斜があるので、距離を稼ごうとしたスピンの少ない球や、低い弾道のティーショットは傾斜でラフにもっていかれていました。ですから、ティーショットはスピンを入れるような打ち方で、少し吹き上げさせてフェアウェイに置くような球を打っていましたね。それができないならココに来る資格はないと、オーストラリア人のコーチは言っていましたね。
GD 今、まさにコリン・モリカワのような選手が注目されているわけですね。今年の全米アマは177〜178㎝のコリンのような体格の選手の活躍が目立ったという、前々回話していたことと符合しますね。
(※1)NCAA(全米大学スポーツ協会)は、学生アスリートがスポンサーと個別契約などを結ぶことを禁止していたが、過去に選手側からの多数の訴訟が起こされ、ここ数年選手側の主張を支持する判決が多数下されてきた。それを受けてNCAAは今年の7月に選手たちが肖像権などで利益を得ることや代理人を雇うことを認めた。(※2)トータルドライビング……平均飛距離とフェアウェイキープ率のランキングをポイント換算して算出される数値。実戦的なドライバーショットの技術が反映される
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
週刊ゴルフダイジェスト2021年10月12日号より