【陳さんとまわろう!】Vol.214「松山英樹はまだまだメジャーで勝ちますよ」
TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto
PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ
日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。今回のお話は、松山英樹のマスターズ制覇について。
やっぱりプロのゴルフで
大切なのはパットなんです
――いやあ陳さん、松山英樹がマスターズに優勝しましたね。
陳さん そうだねえ。やりましたねえ。マスターズで、日本の選手が優勝するなんてねえ。朝早くからテレビで見ていて、うれしくて感動して、涙が出そうになりましたよ。マスターズはメジャーの中でいちばん華やかで美しくてエキサイティングで、招待されて栄誉を感じる大会ですよ。プロならぜったいに袖を通したいグリーンジャケットを、東洋の、日本の、松山が着ちゃったものな。凄いことよ。
――マスターズの前の2試合で予選落ちしていたし、パットの調子がいまいちでしたから、まさか勝つとは思っていませんでした。
陳さん ほんと、そうだ。1メートルぐらいの距離を外してバーディがとれなかったりボギーにしたりね。ところがマスターズでは別人のように入っていたものね。パットが入れば勝つんだ。プロはパットなんですよ。パターを替えたって聞きましたよ。
――陳さんは1963年から6年連続でマスターズに招待されて、すべて決勝ラウンドに進みましたが、パットが良ければもっと上位に入れたと残念がっていましたね。
陳さん そうなんだ。昔と今では比較になりませんがね、当時、日本のグリーンはコーライでしょ。それに慣れている私がオーガスタのベント芝を攻略できるわけがないんだ(笑)。それでもわりあい成績が良かったのはターフをしっかりとって打っていくダウンブローショットが身についていたからですよ。ボールを薄く打つショットをやっていたら芝に沈んだボールを打てないでミスが出て、たぶん予選落ちを続けたはず。
――松山は29歳。陳さんが初めてマスターズに出たのは31歳でした。
陳さん そう。技術的に脂がのっているころですよ。ただ、脂がのっているだけでは勝てないからな。松山はアメリカに腰を据えて戦っていたから勝てたんだ。マスターズに出るためにだけオーガスタに乗り込んで、勝てるほど甘くはないよ。時差の影響があるし、疲れもあるし、本調子でない状態で戦ってもオーガスタは攻略できません。
――松山は今回、ショットもキレキレでした。
陳さん あの立派な体格は欧米の選手に少しも見劣りしないものね。からだ中に体力や気力が充満しているというかな、ショットに迷いが見られなかった。スウィングに思い切りの良さが出ていましたよ。いいときの感覚が甦ってきたのかもしれないね。300ヤード近く飛ばす人がフェアウェイをキープするのは大変な技術。250ヤードの人がそれをやるのと大きな違いですよ。至難だ。
――これをきっかけに松山は他のメジャーも獲れますかね。
陳さん 獲れますよ。(ジャック)ニクラスにしてもタイガー(ウッズ)にしても、強い選手は年に2回3回とメジャーを獲るものなんだ。松山もその力があることを今回の優勝で証明したね。アイアンの距離感と方向の正確さは豊富な練習量と間違いのない練習法に裏打ちされていたと思いますからね。ただし、全米プロと全米オープンは無名のとんでもない選手が飛び出すことが多いですから、勝つには運と相当の頑張りが必要ですよ。しかし全英オープン(今年はロイヤルセントジョージズ)にはそのような選手は出てこないんだ。だから松山の実力があれば簡単に勝てるのよ。
陳清波
ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた
月刊ゴルフダイジェスト2021年7月号より