【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.33「ハッとするレッスン」
PHOTO /Yasuo Masuda
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
世の中には何とか理論とか、何とか打法とか、ゴルフスウィングに関する情報があふれています。いまはネット検索という便利なものがあるので、ちょっと“ググッて”みれば、そういうスウィング論をぎょうさん見つけることができます。
ちなみに僕の師匠・高松志門さんが提唱する「ゆるゆる打法」で検索してみると、ずらーっと何十個もヒットします。
せやけど、そのスウィング理論でゴルファー全員がようなるということはありません。ようなる人もおれば、逆にヘロヘロになる人もおるはずです。しかも、ようなったと喜んでおるうちに、だんだんと悪くなることもあります。
ヘロヘロになった人が我慢して続けておったら、いつの間にかようなるということもありますから、ええとか悪いとかにわかには決めつけられんのもやっかいです。
同じ理論でも、伝える人のニュアンスでよくなることも悪くなることもあります。相手を見てどう伝えるのかというノウハウも必要でしょう。
人によっては物理学のように教えたほうがええ場合もあるし、そんなものはチンプンカンプンや、と拒否反応を起こす人もおるはずです。
僕の大師匠の橘田規さんなんかは、ブツブツと独り言のような教え方をしたものですけど、そのブツブツというのが、意外とものすごく頭に残るんです。
左足下がりのライで、ちょっとボールを上げなならんところで、みんなドタンとダフるんです。プロでもです。
そういう若いプロを見ると先生は、「おまえな、ゴルフ場は左足上がりばかりやないからな」とボソッと言って終わりです。レッスンにはなりません。それで少ししてから「ずっと左足上がりのゴルフ場だったら、18ホール終わったら、ずいぶんと高いところにおるぞ」と言うんです。
打ち下ろしのパー3で、パーンと高い球を打ってフィニッシュを取っていると、「おまえ、グリーンはどこにあるんや」と言われます。「下です」と言うと、「だったら、下向かんかい。どこ見とんじゃい」と怒られます。
それを言われたときはハッとしますし、30年も経った今でも覚えています。
基本でも最新理論でもなんでもええですけど、僕としては「ハッ」とさせてくれるレッスンがええですね。
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月1日号より