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【名手の名言】ボブ・トスキ「ゴルフとは心のなかで暴力的に闘う非暴力的なゲームである」

レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。ゴルフに限らず、仕事や人生におけるヒントが詰まった「名手の名言」。今回はPGAツアー5勝を含めた計9勝を挙げティーチングプロとしても活躍したボブ・トスキの言葉をご紹介!


ゴルフとは
心のなかで暴力的に闘う
非暴力的なゲームである

ボブ・トスキ


トスキは、ゴルフを単なるスポーツとは捉えていなかった。むしろ、そこにある内的葛藤に注目していた。ゴルフという競技は、止まっている球を自分だけの力でコントロールする、最も“暴力”から遠いゲームだ。コートを走ることもなければ、相手選手とぶつかり合うこともない。ショットの瞬間には沈黙すら求められるほど、静寂の中で進行していく。

だが、その静寂とは裏腹に、プレーヤーの心の中では嵐が吹き荒れる。ミスを恐れ、ミスを悔い、成功を願う。それらすべてが渦巻くのが、ゴルファーの精神世界だ。ミスをしたときの自分への怒りや後悔、それでも冷静さを保たねばならないというプレッシャー。ゴルフにおける本当の闘いは、目の前のコースではなく、自分自身の内側にある。

実際、完璧なラウンドというのは存在しない。すべてのホールでバーディを獲れば理論上の「54」となるが、それを達成したゴルファーは未だいない。だからこそ「54ビジョン」という理想を掲げ、ゴルフの本質を伝える指導者もいるほどだ。ミスは避けられないものであり、勝敗を分けるのはそのミスとどう向き合い、どう処理するかにある。

2009年の全英オープンで、タイガー・ウッズが自身のミスに激高し、クラブを地面に叩きつける場面が話題となった。そこにあったのは、自分を罰したくなるほどの心の葛藤であり、まさに「心の中で暴力的に闘う」姿そのものだった。

トスキは、ゴルフの上達には技術以前に目標設定が必要であると説いた。「うまくなりたい」という内なる動機がなければ、人は前に進めない。現代でいうモチベーション理論の先駆けとも言える発想だ。

彼の言葉は、ゴルフというゲームの本質を突いている。外から見れば静かな芝の上での非暴力的なスポーツ。だが、その裏には暴力的なまでの精神戦が潜んでいる。その落差、そしてそのバランスのなかで、いかに自分を制御できるか。それがゴルフが「メンタル・スポーツ」と呼ばれる所以であり、多くのゴルファーを惹きつけてやまない理由なのだ。

■ボブ・トスキ(1926~)

米国・マサチューセッツ州生まれ。1945年にプロ入りし、49年からPGAツアーに参戦。54年に世界選手権優勝を含む4勝を挙げ、賞金王に輝く。PGAツアー5勝、シニア2勝。ティーチングプロとしても活躍し、単にスウィングだけでなく、ゴルファーの心理面の分析、アドバイスが新鮮で、70年代後半、日本でも一大ブームを巻き起こした。2013年にPGAゴルフプロ殿堂入り。