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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.857「簡単な言葉でも信頼関係が成り立っている人からの声がけは心に響きますよね」

KEYWORD 岡本綾子

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


岡本さんはプロゴルファーになってから今まで、人から声をかけられて一番うれしかった言葉は、どのようなことで相手はどんな方でしたでしょうか。(匿名希望) 


この連載企画、編集部からお誘いを受けた当初は、お断りしようと思っていました。

理由の中のひとつに、読者のみなさんから寄せられる質問に対して回答することに荷が重いと感じたからでした。

どのような疑問にも正しい答えを出せる自信はありませんでしたし、それは今でも変わっていません。

それでも連載を続けてこられたのは、毎週のようにこのページの読者から返ってくる熱心な反応が励みになったからです。

読者のみなさまには、この場を借りて心からのお礼を申し上げます。

そんな経験を通してしみじみと思い当たるのが、まさに言葉の問題です。

人と人とが分かり合うために必要なのが言葉ですが、言葉は毒にも薬にもなり、救いの手にもなれば致命的な凶器になることもあります。

ゴルフのレッスンでは、複雑微妙な細かい動きを言葉で表わすのが難しく、比喩やたとえの多い表現は思わぬ誤解を生んでしまうこともあります。


ゴルフのレッスン用語の分かりにくさもゴルフの難しさの原因の一つと言っていいのかもしれません。

わたしはこの連載を通じて「ゴルフと言葉」の問題について常に考えてきた──そう言ってもいいと思います。

そこで、わたしが一番うれしかった言葉や誰からの言葉だったかということについてですが、すぐに断定的に答えることは難しいです。

その時の自分の心にどんなに染みたかというのは、個人的な体験であって、そのかけがえのない想い出はそっと大切にしておきたいからです。

代わりにどのような言葉がうれしいかという一般論として、プロアスリートでも会社員でもいい仕事をしていい成績を挙げれば、周りからその頑張りを称えたりねぎらう温かい言葉が寄せられると思います。

エラいぞ、よくやった、大変だったね、とホメてくれる言葉を聞いたとき、悪い気はしません。時として、その言葉が心を揺さぶり泣いて感激することもあるでしょう。

そんなことが起こるのは、その言葉をかけてくれた相手とあなたの間に特別な信頼関係があるからだと私は思います。

しかし、その人のために良かれと思って発せられた言葉であっても、場合によっては、言及された人が深く傷つくこともあります。

そう考えると、人は自分の想いを伝えようとして懸命に言葉を選ぼうとしますが、ほんとうはその前に、まず先方との信頼関係を築く努力を払うべきなのかもしれませんね。

人の言葉が心に染みるのは、多くは迷いや不安の中で自分が弱っている時なのではないでしょうか。

人は理路整然と決まりごとを伝えられて力が湧くのではなく、語る人の温かい思いやりや理解を知って元気を得るのだと思います。

少なくとも経験上、わたしはそうでした。

言葉は聞き手の心や人生を支える魔法の杖にもなってくれるのです。

トーナメント中継の解説席に座るようになって10年ほど経ちますが、これからも選手たちの力に少しでもなれるよう、言葉と向き合い付き合っていきたいと思います。

「良い人間関係を築く最初の言葉は、気持ちの良い“挨拶”だと思います」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)

週刊ゴルフダイジェスト2025年4月29日号より