今の子は悩みをすぐに解決できてしまう。自分で答えを見つける時間も大切です
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、最先端のゴルフ理論について語る当連載。第35回はジュニアゴルファーを育てる親が気をつけるべきポイントについて。
GD ジュニア育成において、子どもの成長段階に応じた親子の距離感が重要ということですが。
目澤 そうですね。以前にも話しましたが、子の成功を願う親心は誰にでもありますから、ジュニア時代の試合への同行は普通のことだと思います。ただ、高校生や大学生になっても試合を見に来る親御さんがゴルフには多いんですよ。
GD 他競技と違いゴルフは日数が長いので、同行するとなると本当にベッタリになりますね。
目澤 はい。そうなると、その延長線上に過干渉や子離れの遅れという問題が出るわけです。親は子に期待を込めていろいろアドバイスをします。子どもにこうなってほしい、それにはこうしたら良いという道筋が親の頭の中で描かれているものだから、現実とのギャップができてしまう。それで、「なんでやらないんだ」、「なんでできないんだ」ということになってしまう。
GD いわゆる親の子どもへの自己投影の問題ですね。
目澤 そうした親のイライラは、子どもを萎縮させ、その子が本来進むべき方向を見失う悪いサイクルにはまりかねないですよね。
黒宮 僕の同級生の川村昌弘は、ジュニアのころから自分は自分というスタンスで、外からの雑音や情報には一切耳を傾けなかった。彼は自分を知っていて、だから世界のどこでも通用するゴルフができるんです。今シーズン好調の小祝さくら選手も優勝後のスピーチを聞くと、冷静で、自分の言葉でしっかり試合を振り返ることができていますよね。
GD 確かに。出来合いの言葉で喋っていない感じはします。
黒宮 でも、そうした自分と向き合える選手は、今はなかなか育たない環境になりつつありますよね。
GD どうしてでしょう。
黒宮 昔はコーチを探すことからして大変でしたが、今は情報量も多いので簡単にコーチと出会えて習えてしまう。悩みなどを他人に任せられるスピードが速いんです。ミスが出続けたときというのは、まずは自分でなんとかしようと苦労して、でもどうにもならなくなってようやく誰かに助けを求めるのが自然です。でも今の子は、「ミスが出るから答えをコーチに聞こう」となりがち。コーチは良い球を打たせることはできますが、実際に試合の空気感の中でいいゴルフをするにはその答えを自分自身で見つけなければいけません。例えばミスに直面したときに自分はどう対応できるか、そしてできなくなることは何か、それは自分と向き合って初めて分かることです。その経験を経たうえで、そこからようやくコーチと一緒にその対応を練習していく作業になると思うんです。
目澤 僕は河本結選手に以前からトレーニングを勧めてきましたが、昔は一向にやろうとしなかった。でもアメリカの試合を経験して、彼女は一生懸命トレーニングに取り組むようになりました。自分と向き合うことは、現実と向き合うことでもあるので、そうなると自ずと何が必要か分かってくる。それが、親離れや自立にも通じるのかなと思います。
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
週刊ゴルフダイジェスト2021年4月27日号より