【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.843「ボールは“見る”のではなく“ボールがある景色”としてとらえるといいですよ」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
私はボールを上から見ようとアドレスで首を下げるクセがあるみたいです。確かに首の位置を直し普通に構えると、振り抜きが良くなる気がします。ボールはどのように見るのが正しいのでしょう?(匿名希望・35歳・ゴルフ歴1年)
ゴルフを始めた当初、「ボールから目を離すな」と教えてもらったのではないでしょうか。
ダフリやトップなどミスショットの最大の原因はヘッドアップにあり、というのは間違いないでしょう。
でも、最後までボールから目を離さなかったからといって、正確に打てるとは限りません。
わたしはボールをしっかり見ていれば正しいインパクトが迎えられるとは思ってはいません。
では、どのようにボールを見るのが正しいのかということですが、この質問をどう解釈するかが問題です。
ボールの見方やボールへの視線の送り方を尋ねられた場合、何通りもの回答がありますが、ここでは正しいアドレスについて考えてみたいと思います。
アドレスで首を下げて構えるクセがあるということですが、それはボールを真上から見ようとして首を下に向けているということですね。
ほとんどのスポーツで体を動かしている最中の姿勢で、顔の面を下に向け首が折れる(下に曲がる)体勢になることはないように思います。
それだけ、首を下へ折る姿勢は体のバランスが不安定になり、力が入らないのだと考えていいと思います。
その姿勢を避けるために、よく指摘されるのが「アゴを引く」という表現です。
アゴを引けば首が真っすぐな状態を保てます。
昔の学校の保健室に木製の定規がスライドして身長を測る器具がありましたよね。
あれに乗って計測する際に、よく「アゴを引いて後ろの柱に後頭部がピッタリ付くように背中を真っすぐにして立って」と言われたもの。
アゴを引くというのは、その時の要領です。
そうしたら、首が折れず頭を下に向けずに腰から上半身だけを前傾させて構えられると思います。
背筋が伸びた状態で前に傾いた姿勢なので、顔の面は自然と前方やや下に向く。
それがアドレスのおおよその正しい姿勢です。
ですから「頭を上げて構えたら振り抜きが良くなった」と感じたのは当然だと思います。
首を下に折っては肩周りの動きが窮屈になりますからね。
不安な気持ちはわからなくはありませんが、ボールを無理に上から見る必要はありません。
プロや上級者の方たちは、アドレスの形を見ればその人のレベルが分かるとよく言います。
それほどアドレスは大事なのです。
そしてスウィングがリズムテンポよくスムーズに振れていれば上手に見える、これだけは確かです。
アドレスの姿勢がきちんと決まったら、今度はボールの見方ですね。
このとき、ゴルファーはボールのどこに焦点を合わせているでしょうか?
問われると、正直わたしはボールの表面上の正確な一点を答えることができません。
思い返してもボールの右半球なのか左半球なのか、はたまたボールの上半分なのか下半分かもわかりません。
私の視野では、ただボール全体が中心の漠然とした風景としてとらえていると思います。
わたしの頭の中には、これから打つボールがフェースと衝突してひしゃげているインパクトの瞬間のハイスピード映像などのイメージが浮かんでいるような気がします。
でも実際には、ボールとフェースがぶつかるコンマ何秒の瞬間は見えるわけもなく、ボヤッとしか認識できないと思います。
逆にいつもボールのどこか特別な一点を食い入るように見つめているゴルファーがいるかどうか、プロたちに聞いてみたいですね。
パーシモン時代からチタンドライバー、大型ヘッドへと進化したことで、ボール位置が多少変わってきましたが、頭の位置は変わりませんけどね。
ボールはどう見るべきかは、アドレスの姿勢さえ正しく取れれば、正直どこを見ていてもいいと思います。
ただ、お金が落ちてるわけじゃなし、むやみにこうべを垂れてもいいことはありません。
これ、わたしがかつてアメリカでプレーし始めた頃に、当時キャディをしてくれていた人が教えてくれた言葉です(笑)。
「身長測定するときの姿勢がアドレスの基本姿勢ですよ」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2024年12月24日号より