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「みんなが使っているクラブ」が自分にも合うとは限らない

TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe

松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、最先端のゴルフ理論について語る当連載。第34回は黒宮が今のジュニアに足りないものを指摘する。

GD 黒宮さんは学生を見ていて、何か感じることがありますか。

黒宮 4~5年前から見ていますけど、僕たちの時代と明らかに違うのは、ゴルフに必要な「地頭(じあたま)が足りない」ということですね。

GD 「地頭」とは?

黒宮 今の学生は、スマホやゲームの影響かインドアで遊ぶことが多く、「察知能力」が劣っている気がします。そうした子は、「砂利道を自転車で走っているときに、どのくらいスピードを出したら転ぶ」というのが経験値が少ないからわからないんです。そういう生徒は、パッティングの測定をすると技術的には上手いんですが、タッチが全然合わなくてとんでもないオーバーをしたりする。おそらくグリーン上でも、足裏や目からの情報の察知能力が低いんです。

GD  そうした生徒への指導は?

黒宮 
まずは自分で考えさせて、「情報量」と「経験値」のギャップを埋めるようにします。ドライバーのシャフトを替えたいと言ってきた生徒に、「何で替えたいの?」と聞くと、「周りのみんなが使っているから」という答えが返ってきます。本来はシャフトを替えるのは、相性も含めてもっと考えて決めなきゃいけない話で、人気があるからという安易な理由では決まらないはず。実は女子プロでも同じようなことがあって、トラスパター(※1)を使って稲見萌寧選手が優勝したら翌週のトラスの使用率が跳ね上がるわけですよ。

GD プロでも情報に翻弄されてしまうのですね。

黒宮 あるプロが、試合の日の朝のスタートでドキドキすると言うので、理由を探ったら、朝のウォーミングアップでジャンプ系の動きをいっぱいやっていたんです。それを一度やめてみればとアドバイスしたら、ドキドキが減ったんですよ。気持ちが浮つくなら、重心を落とすような運動がいいはず。でもこういうことは、本来プレーをしている本人が察知しなければいけないことですよね。

GD それが経験値と情報量のギャップということなんですね。経験値が足りないジュニアの子たちはどうすればいいのでしょう。

黒宮 そこはデジタルを活用することですね。最近はアイアンも飛距離重視でロフトを立てたいという子が多い。その場合、実際に替える前に、弾道測定器を使ってアイアンの落下角度(※2)のテストをするんですよ。落下角は43度ぐらいの角度がないとグリーン上で球が止まらないといわれていますが、実際にテストをすると40度を満たしている選手はほぼゼロでした。球の高い9番アイアンでも落下角が30 度台後半だったりしますからね。そうなると、アイアンのロフトを立てるという選択肢にはならないはず。こういう自分の現状をデータで知ることによって、適正なクラブの選択や、スウィングの課題設定などに誘導していくわけです。ジュニアに限らず、人は自分のネガティブな要素に向き合って察知するのは苦手ですから、データや数字を使って現状に向き合わせるのがコーチの役割です。

GD あふれる情報量に比べて圧倒的に少ないジュニアの経験値や察知能力をカバーするために、データがひと役買うわけですね。

(※1)テーラーメイド「トラス パター」。ネックが三角形状で、芯を外したときのヘッドのブレを抑える構造になっている。(※2)落下角度は、ボールが地面に落下する際の角度。グリーンスピードやコンパクションによっても違うが、おおむね45度以上の落下角度であればグリーンに止まりやすい球だといわれている

目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任

黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導

週刊ゴルフダイジェスト2021年4月20日号より