【ゴルフせんとや生まれけむ】阿波野秀幸<後編>「ホールインワンはしたくないんです」
ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、前回に引き続き元プロ野球選手の阿波野秀幸氏。
プロ野球OBにはゴルフのうまい人がすごく多いですが、僕の経験では野手より投手のほうがうまいと思いますね。実際に一緒に回ったことはありませんが、ウワサではPWで180ヤード飛ばすという清原(和博)くんなど、飛距離では野手には到底かなわないものの、グリーン周りやパットやスコアをまとめてくるのは投手という感じがします。やさしい、微妙なタッチは投手、力強さというか……時には暴力的、破壊的とすら感じられるような一打を放つのが野手というイメージですかね。
僕がピッチングをする時、変化球を投げようと思ったら、自分のボールはどのくらい曲がるかわかっていて、バッターボックスのこの辺りを狙って投げるとストライクゾーンのどのあたりに行くかという曲がり幅が計算できます。僕の場合、それはゴルフでも一緒。僕はスライサーですから、曲がるのを想定して打ちます。キャディさんがフォアーと大きな声を上げたのにボールはフェアウェイのど真ん中をとらえるナイスショット。それでみんながビックリするというのが、僕にはビッグドライブでみんなを驚かすよりもむしろ気持ちがいいくらいの快感なんですね。
小さい頃から野球をやってきたので、ゴルフをするときもつい野球のように考えてしまいます。ティーショットを打つ時もフェードとかドローとかじゃなくて、ここはシュートだなとか、ここはスライダーだなとかつい球種でイメージしてしまうんですよ。
今回、ゴルフダイジェストさんから取材のお話をいただいてすぐ思い出したのが現役時代のことです。遠征に行く移動中の新幹線の中でよく読んでいたのが週刊ゴルフダイジェストでした。ゴルフ用語はほとんど知らなかったから、何が書いてあるのかは実はあまりわかりませんでしたが(笑)。それでも僕は当時、野球で投球フォームの連続写真をさんざん見ていたせいもあってか、プロゴルファーのスウィングの連続写真を見るのは好きでした。真似はできませんでしたが、ああ、こんなふうにして打つんだって興味深く見ていたものです。
さて、最後にこれからのゴルフの夢ですが、実は特にこれといってないんですよ。僕にはもっとうまくなってスコアアップを目指したいという欲もありませんしね(笑)。ただ、1つだけおそらく皆さんとは変わっている、夢というか願いがあります。それは「ホールインワンはしたくない」ということです。以前、近鉄時代、同い年のキャッチャーの古久保健二が僕と同じくらいに始めたばかりでそんなに
うまくなかったのに選手会のコンペで出しちゃったんですよ。彼も最初は喜んでいましたが、お祝いだなんだかんだとやっているうちにどんどん暗くなっちゃって……。それを見てから「僕はやりたくない」って思っているんです。
大魔神佐々木(主浩)はよく一緒に回るゴルフ仲間なんですけど、先日、僕の一打がホントにもう少しで入りそうになったことがあって、大魔神が「入れ~!」、僕は「入るな~!」と大騒ぎでした。
阿波野 秀幸
1964年生まれ。亜細亜大学からドラフト1位で近鉄に入団。1年目から15勝を挙げ新人王を獲得。「トレンディエース」と呼ばれ人気者に。球史に残る川崎球場の「10・19」(1988年)ダブルヘッダーで連投していることでも知られる。巨人、横浜で活躍後はコーチを歴任。現在は野球評論家。ベストスコア83
週刊ゴルフダイジェスト2024年11月26日号より