【林家正蔵の曇りのち晴れ】最終回「ちょい飲みが楽しいの巻」
「ちょい飲み」が私の最近のブーム。仕事帰りなどに少しだけお酒を飲む人も多いのではないでしょうか。でも酒好きにとっては、ちょい飲みなんてできるはずもなく、肴を頼んでしまったらさぁ大変。結局は何杯も飲んでしまう羽目に……。どなたかちょい飲み方法を教えてくれませんか?
ILLUST/Chuji Aoshima
ゴルフに来たらまずは“生”で1杯といきましょう
長年続けてきた「曇りのち晴れ」も今回で最終回を迎えます。感慨深いものを感じながら最終回の原稿を書いております。
さて今回話すのは、「ちょい飲み」について。ゴルフ仲間の間では、近頃、秋の風と柔らかい日差しを浴びてビールを1杯飲みながら気軽にプレーをするのが流行っている。かといって、ベロベロになるわけではなく、ちょいと1杯やるのである。
スタート前に生ビールをやると、なんだかとてもいい休日だなと心底思える。普段のウィークデーでは朝から飲むなんて考えられないからだ。しかし飲めない方にしてみれば、スタート前にビールなんて飲んだらゴルフに身が入らないでしょと言われてしまう。
中ジョッキ1杯くらいだと、とてもいい気分でしかもリラックスできて力まずに済むような気がする。もっとも個人差があるのであくまで私の場合である。それも気心知れた飲んべえたちの時に限る。
人によってはスタート前に飲むのを不謹慎だと感じる方もいるだろうから、ビールを飲む場合はやはり軽くつまんでおいたほうがいい。
朝の和朝食でアジの開きなんかをつまむのもよし。大概、ほうれん草のおひたしや、ひじきの煮物、めんたいこなんかが酒の肴にピッタリの品揃えだが、ついつい飲んべえは、生ビールで収まらず、1杯が2杯、もしくは生ビールの後に焼酎の水割りなんてことになりかねない。ここはあくまでも生ビール1杯が適量である。
ごはんも炊きたてが多く、ピカピカ光る米粒を見るとついつい手を出してしまうのが人の心。ところがあまり食べるとビールで米が腹の中でふくらみ体が回らなくなる。だが、こういうときに食べる米は旨い。ゴルフの前は米かパンかなんて考えていることも面白い。さて、オーダーしなくては。
ホテルのバーで老いぼれカラスが1・2・3羽
そこで私たちがよくやるのが、モーニングの洋食を2つ注文して4人で食べるという方法。そうすれば、ベーコンやウィンナー、トーストも軽いつまみになる。ジュースが並べばトマトジュースにして、生ビールを半分残して割って飲むのも「レッドアイ」と洒落た感じになる。
昼飯もざるそばなんかをツルツルとたぐり、やはりここも生ビール1杯に抑えておくのがいい。ホールアウトし、湯に浸かり、サウナがあれば、もっと汗をかいて集まってからゴルフ場で軽く飲むのがいい。泊まりとなると別の話だが、自宅に帰るのだから、ここでも1杯やりたい。
ホールアウトした後の酒は、ラウンド中のプレーがいい肴になる。先日は泊まりのゴルフ。1日目にワンハーフやってゴルフ場のホテル。しかも格式のある名門ホテルに宿泊し、翌日ラウンドして帰るという夢のようなプランであった。
1日目のワンハーフを終えて、食事前にレストランのバーに集まったのが午後4時50分で、もう明日のゴルフまでに何もなしで飲んで食べて寝るだけとなる。平日のせいか、ホテルのバーは空いており、私たち一行はカウンターに並んで座る。その日どういうわけか全員が黒色の服装で、薄手のカーディガンやらVネック、ニットのジャケットと種類は違えどオールブラック。おじさんたちが背中を丸めて、止まり木に座っているものだから、このさまを見たら老いぼれカラスが電線に止まっているようでなんだかわびしく見えたであろう。
常連さんのスマートな飲み方に憧れます
さて何を飲むことにしましょうか。カウンターの中には、まるで絵に描いたようなバーテンダーがいる。ここでビールは脳がない。かといって、マティーニじゃ強いかな。ジンリッキー、ウォッカトニック、近頃お気に入りのサイドカーのソーダ割りも食前には収まりがいい。
いつしか私の隣に70歳くらいの品のいい紳士が一人座り、おしぼりで手を拭き、「お願いします」とバーテンダーに声をかける。「かしこまりました」とバーテンダーは返事をして酒を作り出す。
おいおい、もうこれで注文が成立したのか。並んでいるグラスではなく、別の棚からバカラのクラシックグラス。少々大きめで、品のある削り込みが入っている。
さてさて、マイグラスがここに置いてあるのだから、常連さんでしかも大金持ちであろう。バーテンダーは、大きめの氷を入れて、ボトルを出した。
まるでマジックのようにキンミヤ焼酎をグラスに半分。そこに梅干しを入れ、あとはソーダで割る。仕上げに梅干しの汁を3滴落とす。実に旨そうに飲んで、1杯で帰っていく。カッコいいなー。同じものを注文したが、「お持ち込みなのですみません」と断られた。あの紳士が気になっていつしかベロベロになってしまった。
バカラとは、約250年前から現代に至るまで、類まれなる才能をもつ職人たちを数多く輩出し、クリスタル製品で世界中の人々を魅了し、とりこにしている食器のブランド
キンミヤ焼酎と 紳士な常連の アンバランス感
月刊ゴルフダイジェスト2024年12月号より