【競技ゴルファー・タニシゲ】Vol.5 打ち方ではなく“スウィングプレーンの向き”を変える
野球では「続きの谷繁」とそのリードを評されていた谷繁元信。打者が狙っていないと見るや3球でも同じコースを攻める……そんなセオリー破りの谷繁の目から鱗が落ちた青木翔のレッスンとは?
PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/六甲国際GC
客観的な“第三者の視点”に
目から鱗が落ちました
青木 以前、谷繁さんのグリップをちょっと直しました。左右の手のすき間をなくし、グリップのラバー部分が見えないようにしましたが、違和感があったでしょう?
谷繁 まだありますねえ。グリップをちょっと変えただけで、テークバックの感じ、トップの位置……スウィングが全部変わっちゃうでしょう。
青木 そうなんです。そもそも、スウィングは一連の流れなので、グリップはこう、上げ方はこう、トップがこう、みたいにバラバラに作っていこうとするのは無理なんですよ。
谷繁 それが1日2日の練習で体に染みつくわけないですよね。
青木 おっしゃる通り。それを待てない人が多くて、すぐに「できた。次」とか「何か合わない、次」とか。
谷繁 今はYouTubeなどで情報があふれているから、いろいろやってみたくなるんですよね。その気持ちもわかりますけどね。
青木 練習をしながら、できるのを待つことも重要です。あと、今回はフライトスコープを使ってデータを取り、谷繁さんのスウィングを分析しました。
谷繁 これまでゴルフはほとんど我流でやってきたので新鮮でしたね。数字を見せてもらいながら説明されたのもあって、納得しやすかったです。
青木 まずはアイアンからで、最初に前の握り方(グリップ)で打ってもらいデータを取りましたよね。そのままでも十分いい数字なので、普通のアマチュアゴルファーなら「いいですね」で企画自体終了するところでした(笑)。でも、目標は日本ミッドアマ出場ですからね。“その先”が必要。もちろん、グリップを変えてデータも取りました。
谷繁 変更後のグリップだと、構えた時点で球がつかまらない感じがしてムズムズしました。ペチッといくイメージしか出なくて……。案の定、1球目は全然つかまりませんでした。
青木 そのデータを見たら、谷繁さんはカット軌道で、インパクト時にフェースが閉じていて引っかけやすいことがわかりました。もうちょっと、インパクト時にフェースが開いていたほうがいい。
谷繁 それだと球がつかまらないんじゃないかと思ったんですが……。
青木 アイアンはダウンブローで打つので、軌道がインサイドアウトになりやすいから球も右に出やすい。ならば、スウィングプレーンを左に向ければいいんです。
谷繁 それまでの僕はグリップにすき間を作ることによって、腕を使いフェースを強引にかぶせ、何とか球をつかまえようにしていたと指摘されました。
青木 そうなんです。器用だからできちゃうんですよね。ただ、再現性は低くなります。そこで、変更後のグリップのまま、スウィングプレーンを左に向けてとアドバイスしたんです。
谷繁 「スウィングプレーンを左」と意識して、次の1打。見事につかまったよねえ(笑)。
青木 「今の見た?」って言ってましたよね。ドヤ顔がすごかった(笑)。
谷繁 これまでアイアンはドロー気味の球だったけど、いわゆるつかまったフェードが出た。腕での小細工じゃなく、スウィングプレーンの向きを変えるなんて目から鱗でしたよ。以前もお話ししましたが、僕が横浜時代、フロントに「チームを強くしたいなら投手の補強を」と言ったら「それをなんとかするのが君の仕事」と言われて、ハッとしたことがありましたが、「ああ、その手があるか」って感じ。
青木 コロンブスの卵、みたいな。野球の配球でもそんなことはありましたか?
谷繁 僕は中学校時代まで、打者の弱点を突くリード一辺倒でした。それが、高校時代から投手の長所を引き出すリードを覚え、最終的にはうまくミックスできるようになりました。すると、打者は僕のリードを気にするようになるんです。「キャッチャーが谷繁のときは投手より谷繁と勝負しているような気になった」とよく言われましたが、それこそが狙いでした。
青木 バッターの集中力を分散させるということですか?
谷繁 そうなんです。投手5割、捕手5割くらいに持っていけたら理想かなと思っていました。すると、どれだけいいいいバッターでもちょっとしたタイミングのズレやミスショットが起こりますから。
青木 投手の調子が悪くても、そんな手が。
谷繁 配球では「続きの谷繁」と言われていたんです。打者が狙っていないと思えば3球でも同じエリアに投げさせる、と。そういうふうに打者に意識させられたら、しめたものですよ。その裏もかけるし。ただ、野球ではそんな発想の転換もできたけど、ゴルフではほら、まだ引き出しが少ないから(笑)。グリップを変えようとか、スウィングプレーンの向きとか、考えたことがなかった。客観的な数字やコーチの目、必要ですね。
青木 自分で動画を撮っても“見えない部分”がありますよね。最近はデータのとれる機器がある練習場やスタジオもありますが、その数字を分析できなきゃ意味がありません。でも谷繁さん、安心してください、今回は僕がいます(笑)。
フライトスコープを使って谷繁のゴルフを“丸裸”に。我流ゴルフを貫いてきた谷繁にとっては新鮮な体験に
週刊ゴルフダイジェスト2024年4月9日号より
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