【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.172「ジャンボさんは“球”がしゃべっておりました」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
メンタルトレーニングなんかの影響か知りませんが、平常心でプレーすることが大事やとよく言われます。
でもね、僕の感覚では、平常心になろうとしているいうことはもうすでに平常心やないわけです。
ドキドキしているから平常心を保とうとするやないですか。ドキドキしている、それ自体がもう異常な状態なんやから、そのままドキドキしておったらええんですよ。僕はそういうふうに思ってましたから。
試合のときに、よし、今日はやけにドキドキするなあ、どうなるんやろうって、それを楽しむ感じです。緊張することが自分にとってすごいええ経験になってると思ったほうがいい。
だから、「うわあ、もっともっと緊張せい」いう感じになれたらいいんです。「プレッシャーよ、もっとかかれよ」思うくらいになれたらね。だって、いきなりボールがいつもより小さくなったとか、カップがバンカーに切ってあるとか、そんなことはないんやからね。
ラウンド中は喜怒哀楽を表に出さんことが相手に威圧感を与える、だからいつも平常心でプレーするいう人もおりますね。でも相手に対する威圧を与えるいう意味では、一球で、「すごいな」と思わせるいうのがプロ同士で一番効くわけですよ。
そういう意味ではジャンボさんと回ったときには、ジャンボさん目当てのギャラリーも多いし、ただでさえ威圧を感じるわけやないですか。ある試合で最終日に一緒に回ったとき、ジャンボさんは大まくりして優勝されましたけど、あるホールで5メートルくらいの下りのパットを5メートルオーバーするんやないかというくらいのタッチで打って、それがボコーンと入ってね。
入ってなかったらグリーン出てると思うくらいの勢いやったから、後で「ジャンボさん、あれ入ってなかったらグリーン出てましたよ」言うたら、「入ってんじゃねえか」言われてね。相手に対して強く見せたいのであればね、そういうんが一番効きます。黙ってても、球がしゃべってる。
まあ、ポーカーフェースの人もおれば、パフォーマンスをする人もいて、それを見るお客さんに楽しんでもらえるいうのが一番ですけれど。
「ジャンボさんは、球がしゃべっとった。これこそ威圧感ですわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2024年4月9日号より