【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.800「『クラブが寝ている』『上から打て』そのレッスン用語、正しく伝わってますか?」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
ゴルフを始めて5年、上級者から「クラブが寝て入ってるよ」と言われますが、よく分かりません。どういう動きになればいいのでしょうか。(匿名希望・39歳)
ゴルフスウィングのメカニズムや、スウィング中に体がどのように動いているかを言葉にして伝えることは難しいです。
ゴルフに限ったことではないと思いますが、伝えることは難しく、人に教えるということがいかに難しいか、今回改めて考えさせられました。
今回の質問は、トップからダウンスウィングにかけて「クラブが寝て入る」という指摘がよく分からないということですよね。
ここで言う「クラブが寝て入る」という表現は、ゴルフレッスンではよくあることです。
コーチは、ダウンスウィングでその症状が起きないように、クラブを立てた状態でクラブを振り下ろせと指導したいはず。
ちなみに、寝るの反対は立つか起きるですが、確かに寝るや立つという言い方は、クラブの動きを表す比喩です。
具体的には、ダウンスウィングでシャフトの先端であるグリップエンドが矢印となって地面を指す角度が鈍角か直角に近いか、と言い換えるべきなのかもしれません。
ですが、あえて寝るとか立つとか言ったほうが、そのクラブの有り様を感覚的にとらえやすいと考えられているからなのでしょう。
しかし、自分のダウンスウィングの状態について、そのような表現でコーチから指摘を受けたとき、受ける側はすぐに納得できるものでしょうか。
ビギナーの方にとっては、スウィング中に自分がどのような動きをしているか正確に知ることは難しいでしょう。
実は今回、ほかにも似たような質問が寄せられていました。
「アイアンの練習をしている際、コーチから『もう少し上から打ち込む意識を持って』と言われ、主人からもよく同じことを指摘されます。上から打てと言われると、なんだか鍬で土を耕すような感じになり打てる気がしません」(45歳・女性)
この、上から打ち込むや叩くというのも、感覚的表現としてレッスンでよく使われる用語ですよね。
指摘された本人は上から打とうとしてクラブを振ろうと思うものの、コーチが示す動きになるかどうか不安だと思います。
クラブが寝る、上から叩くというレッスンで使用される感覚的表現というのは、教える側から発せられるイメージですよ。
ですから、教わる側がその内容を正確に共有できるとは限りません。
伝える側は、そこを頭に入れておくべきです。
誰もが口にする言い方だから簡単に使っているけれど、だからといって分かりやすい表現とは言えません。
微妙な体の動きを相手に伝える表現は、教わる側でなく教える側にとってこそ責任重大な問題なのです。
ですが、教わる側の立場に寄り添わず、通り一遍のレッスン用語で問題を指摘して良しとしてはいないだろうか、わたしはそう感じます。
上から叩くイメージが持てないのは、力のないゴルファーに多く見られる症状です。
おそらく筋力が弱いだけでなく体重も軽いため、何とか打ち上げて遠くへ飛ばそうと、あおるようなすくい打ちをしているからなのでしょう。
まずはその勘違いを解いてあげなくてはいけませんよね。
トップからダウンスウィングでクラブが寝て入る状態は、スウィングの動き全体に致命的な欠陥があるからではなく、ダウンスウィングに移った早い段階で手首が小指方向に折れて、いわゆるコックがほどけてしまう点から始まっている──そのことを解説しながら横に立ってクラブを持った手を一緒に動かしながら、ここでグリップの形がどうなっているかを示してあげる。
これは例のひとつですが、そういう指導をすれば実感できるのではないでしょうか?
人によって問題のありかはさまざまです。
指導者は注意深く相手を観察していないと適切に対応できません。
その点、教える側にも教わる側と同様の辛抱強さが必要です。
言葉はモノを伝える便利な方法ですが、その便利さに頼ると伝わることも伝わらず、間違ったメッセージを送ることにもなりかねません。
丁寧に慎重に言葉を選ぶこと。
年の初めの戒めとすることにいたしましょう(笑)。
「素直な人ほど理解力や上達するスピードが早い傾向があると思います」
週刊ゴルフダイジェスト2024年2月6日号より
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