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【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.299「すみませんの旅」

KEYWORD 林家正蔵

今回行ったゴルフ場では、謝られることが多々あったんです。人違いが2回。そして昼食の注文を忘れられて1回。何とも言えない気分にもなったんですが、スコアは前半40の後半も40で80の上出来。新年からいいゴルフができました

ILUUST/Chuji Aoshima

前回のお話はこちら

「おーい」と手を振られたと思ったら人違い

「おーい」と遠くで誰かがこっちに手を振っている。クラブハウス内のレストランに面した2階のテラスから、ホールアウトしてテラスに向かっている私と友人に向かって。

しかし、2階から手を振る人は、どうやら私に向かって手を振り「おーい」と声をかけているようで、また「おーい」と繰り返し声をかけてきた。おそらく同世代の男性はとても親し気に手を振っているのだが、逆光になっているのでシルエットだけでは人相がまったくわからない。

「今日来ているんだったら連絡しろよ」となおも大きな声でこっちに向かって話している。だんだんと近づいて、顔がはっきり見えるところまで来ると、その男性は急に申し訳なさそうな感じで「あっ、人違いでした。すみません」と頭をポリポリとかいてレストランの中へと入ってしまった。まあこの手の間違いは誰にでもあることと何も気にしなかった。

楽しみなカキフライ定食が届かない

私もレストランに入り、昼食をとることにした。そのコースのメニューはかなりの品数があるのだが、この時期の名物はカキフライ定食。近くの漁港に揚がった生食用のカキをサクサクの衣で頂く。大粒のカキフライが5個キャベツのわきに。私のお気に入りのマカロニサラダが付いて、ご飯、みそ汁、小鉢、おしんこが付いて、1000円ジャストだからありがたい。


まずは醤油をかけて、次のカキフライはタルタルソースをたっぷり。自家製のタルタルソースはゆで卵、玉ねぎ、ピクルスが刻んで入っていて、タルタルはアツアツご飯にのせてもおかずになるくらいのクオリティ。ウスターソース、中濃ソース、ケチャップ、いろいろと味変ができるのが嬉しく、ご飯、キャベツ、みそ汁のお代わりは自由ときている。

ところがだ。待てど暮らせど私のカキフライだけが来ない。他の友人のマーボー定食、海鮮皿うどん、天丼とミニそばセットはとうに来ていて、みんな美味しそうに食しているのにだ。業を煮やして「すみません、カキフライまだですか」と聞いてみるとウェイターさんが慌てて飛んで来て「今すぐお持ちいたします。すみません、すみません」と何度も謝る。「すぐにお持ちいたしますので」。「忘れちゃった?」と尋ねると、この正直者は「はい。お客様のカキフライだけ……。すみません」と蚊の鳴くように答えていた。

少々腹が立つ。なんで俺だけ忘れるんだよ。4人座って3人分のオーダーしか伝票になかったらおかしいと思うのが当たり前だろ。どうにも腹の虫が収まらないので年上の支配人みたいな人に一言言ってやろうかと席を立とうとする私を友人たちが押しとどめて「まあまあ向こうも謝ったんだから、ここは我慢我慢」。友人の説得から10分しないうちに私のカキフライ定食登場。じゃーん。なんとカキフライが通常5個のところ8個も皿に盛られていた。「あのー、お詫びということですみません」。「そんなことしなくても。じゃいただきます」。それを見ていた友人たちの箸がスルスルと伸びて、私のカキフライを取り上げる。結局得をしたのは私の友人たちで、私はいつも通りのカキフライ定食を頂くことに。

いやー旨い。サクサクの衣の中から潮の香りがジワーッと漂い、旨味たっぷりの汁がプシューッと溢れ出す。やっぱりいいなカキフライ。

最後の最後でまたもや人違い

大満足して後半へ。この日は冬とはいえ、セーター1枚でも汗をかくぐらいだった。体の調子もよく、思うような展開で前半は40。残りのハーフはカキフライのパワーでティーショットがスライスして右の林へ。7Iと9Iを持ってボールを捜していると、私と同じようにボールを捜している人が、隣のホールからどうやら同じようなところへと打ち込んできたらしい。私も自分のボールを確かめて、ボールにネームが入っているのでそれも確認して打とうとすると、そのおじさんが「ちょっと、それ私のボールだよ」と言い出した。「ちゃんと確認してから打ちなさいよ」と文句を言ってくる。「私のメーカーはね」と言ってきた。くしくも同じメーカーではあるが、私はボールに林家正蔵とネームを入れてある。「じゃーどうぞどうぞ。ご覧ください」と私も少々むかっ腹でそのおじさんに確認してもらう。「あっこれ私のじゃないや、スミマセン」と謝りつつ、「この間テレビで落語見たよ。あんた上手になったね」と言われて嫌な気持ちも少々吹き飛んだ。40、40の80は上出来のスコア。

帰りしなには、後ろから肩をポーンと叩かれ「五十嵐くん、また勝負な」と振り返ったおじさんがビックリ顔。「あんた五十嵐くんにそっくりだからつい間違えちゃって。すみません」。

この世の中に瓜二つの五十嵐さんがいるそうです。心当たりの方、ご連絡を。

カキフライ 忘れられて 得をする

月刊ゴルフダイジェスト2024年3月号より