【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.790「パットを決めるコツは“経験値”の積み上げです」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
パットがもう少し入れば70台と奮闘中です。そこで質問ですが、パターが上手い人って何が違うのでしょうか? グリップはどれが正解? ストロークの仕方が問題? 入るコツはあるのでしょうか。(匿名希望・40歳・ベストスコア80)
パッティングが上手な人と、そうでない人は、どこがどう違うのか──。
結論から言えば、経験の差です。
積み重ねてきた練習の厚みが違う以外にありません。
ゴルフを始めた時期が同じで、似たような環境で練習も同じようにがんばったのに、いつの間にか差がついてしまう。
そういう場合、多くの人は「もともと持っていた運動神経が違っていた」と決めつけがちですが、わたしはそうは思いません。
小さいころから野球をしてきたから、ボールをバットで打つ感覚が備わっていて、ゴルフを始める以前の条件が準備されていた、という違いはあるかもしれません。
そうしたケースも経験の差に含まれているのであって、何も生まれついた運動神経もしくは身体能力の違いで、埋めようのない差がつけられたわけではありません。
ともすると、パッティングにはセンスが必要という人もいます。
もちろん、どんなスポーツも練習さえ積めば、誰もがプロ級のスキルを身に付けることができて名選手になれるわけではありません。
ですが、センスがなければ練習しても意味がないということはありません。
スポーツには種目ごとに体使いやタイミングに関して、ある意味で理屈抜きのセンスを要求される部分もあるにはあります。
それは言葉で説明しきれない感覚的なもので、すべてをセンスとして片付けてしまいがちで、初心者段階で「自分にはセンスがない」と諦めてしまうことも少なくありません。
でもその感覚は、練習で体を動かしている間に自然と身に付いてくるものであって、最初から生まれつき身に備わった力で何もせずに発揮できる特殊能力のようなものではありません。
バスケットボールを初めて手に持ったにもかかわらず、シュートして器用にリングに入れられる勘のいい人はいるでしょう。
でも、それで満足してそのままでいれば、最初は上手くシュートできなくても悔しくて練習したほかの人にあっという間に追い抜かれてしまうはずです。
そこでゴルフの練習を思い浮かべてみましょう。
ゴルフの要素をショットとアプローチ、パッティングの3分野に分けて見てください。
理想的なレベルアップのためには、このトライアングルを満遍なく大きくするため、それぞれの練習を同じ分量ずつ継続していくべきでしょう。
しかし実際、アマチュアの方にとっては1週間に使える練習時間は限られていますし、練習場に行くには時間もお金もかかります。
そうなると、どうしてもショット練習に偏り、パットの練習はおろそかになる傾向にあるでしょう。
コースでラウンドするようになれば、ショットとパット、スコアメイクのうえでどちらが大きな比重を持っているかは、徐々にわかってくると思います。
ショットとパットの打数の比率を考えれば、スコアが良くなるにつれパットの重要性を身に染みて感じてくると思います。
しかし、アマチュアの方の多くはパッティングは何とかなると思い込み、やや軽視している傾向にあると感じるのは私だけでしょうか。
レッスン記事などを見ていても、ショットの記事はたくさんあっても、パッティングの必勝法は見かけることが少ないと感じます。
確かに、ショットはパットに比べて見た目がダイナミックですから、記事にしやすいのかもしれませんが、そんな影響もあって? アマチュアの方がパッティング練習から遠ざかっていくことに少なからず影響しているのかもしれませんよね。
パッティングの基本は、ボールをターゲットに向かって真っすぐに打ち出すストロークを安定させることです。
そして1、3、5、7メートル……と距離感を体の中に作ること。
この2点ですが、傾斜で曲がるラインのイメージや芝目による曲がり具合データは、実地体験でしかインプットできません。
結果、パッティングとはどこまで行っても終わりのないデータの収集作業、そして常に油断なくストロークを安定させる練習の継続というしかありません。
だって何十勝もしているトッププロでさえあれだけ悩んでいるんですからね。
「継続するには練習の仕方を工夫する努力も大事なことだと思いますよ」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2023年11月21日号より
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