【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.778「魅力ある選手ほど言い訳をしない」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
ゴルフ歴15年で競技会も経験。そこで気になるのは、「今日の調子はどうだった?」と聞くと結論から言わず、回りくどい説明をする人が多いことです。これは日本人の特性なのでしょうか?(匿名希望・49歳・高校教師)
ゴルフにはミスは付きものです。
だからこそ、失敗したときの悔しさも大きく言い訳をしたくなる。
その気持ちは理解できます。
でも、友人や家族に泣き言を聞いてもらっても自分自身に言い訳しても、犯したミスは取り返せません。
よく似たようなミスをした者同士、自分だけが惨めな思いをしているわけではないとキズをなめあうこともあるでしょう。
大叩きしたホールのショックを癒したい気持ちは拭いがたいということなのでしょうけれど、手厳しいようですが、これでは進歩は望めません。
ゴルフという競技は、ピンチの状況をほかの誰かと共有することはありません。
苦しい立場に追い込まれたゴルファーが、そのときの状況がどれだけ過酷なものだったかを分かってほしい、ミスに追い込まれた事情を察して同情してほしい、という心境になるのも分かります。
常に自分のことを見てもらいたがるタイプ、いつも話題の中心にいたい、かまってほしいタイプの人は万国共通でいるもので、それは何も日本人だからというわけでもないと思います。
ただ、たとえばアメリカでは日常会話でも、まずAはBだ、わたしはCだと言い切ってから、その考えや主張などの説明することが多いように感じます。
つまり、最初に結論があって、あとに理由がついてくる。
それに比べて、日本では結論から言わず、状況説明や背景描写から始まり、そのときの切迫した心理状態を解説したり、そこから予想される展開を交えるなど話し手である自分への感情移入を訴えがちではありますね。
結局、何がどうなったのと途中で聞きただしたくなる話し方をされることが少なくありません。
わたしが思うに、この話法の違いには日米の言語の違いがある程度は関わっているのではないかとは思います。
英語ではまず、主語+動詞で言いたいことの全体枠が設定されますが、日本語の語順では「です」「でした」が最後になるまで出てこない。
結論が示されるまでの会話の途中に余談をはさむことができます。
また、そういう日本語文法が、独特の弁論方法を生み出したのかもしれませんね。
確かに結論を先に提示すると、すぐ反対意見で会話が中断されかねないため、あらかじめ相手の反論や質問を抑えて先に説明を聞かせておきたい─そのような話の進め方はある意味において日本的に思えます。
ですが、こうした話法は謝罪すべきところを先に言い訳を連ねるように受け取られかねません。
言い分を理解してもらいたいなら、少なくとも話を最後まで聞いてもらえるように、口調や身ぶりなど伝え方にもそれなりの工夫をするべきでしょう。
ラウンド中やプレー後にしきりに言い訳するゴルファーには、考えてほしいですよね。
ですが、ゴルファーとしての経験を積めば積むほど、そのような失敗体験こそが自分を鍛えてくれることも分かってきます。
失敗しないゴルファーはいないし、たくさん失敗したゴルファーが上達するという真理が、体の中に浸透してくる。
その実感があるゴルファーは、いつの間にか言い訳しなくなるのでは。
わたしも若いころは、特に言い訳が嫌いでした。
人から同情してもらっても、自分が向上するための役には立たないと思い、決して言い訳をしないというルールを自分に課してもいました。
でも、経験を積んでいくうちに厳しく自分を追い詰めることは必ずしも成長を促さないことに気が付きました。
逃げ場もなく自分を縛り付けるより、クラブを持たない時間を作ることが心の余裕を生んで視野を広げ、ゴルフの新しいアイデアにもつながると考えるようにもなりました。
それでも、言い訳はやっぱり後ろ向き。
くどくどと事情説明をする人は、どうすればいいのでしょうか。
ミスやつまずきを成長のキッカケととらえて反省し、その原因や矯正法を自問自答するクセをつければ、周りの人との話し方もおのずと変わってくると思います。
言い訳で同情を買うより、興味深い体験談を聞かせてくれるゴルファーのほうがずっとカッコいいですよね!
「失敗を受け止めることで、次の一歩を早く踏み出せる」(PHOTO by Ayako Okamoto)
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