【ゴルフ野性塾】Vol.1791「プレッシャーを感じればトップ位置は低くなる」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
雨足、
弱まっていた。
集うて30分以上過ぎ、これ迄だと解散の時だったが、あと10分も経ちゃ傘無しで歩ける様な気はした。
私は立った。
24歳でプロゴルファーを目指し、まずは体力作り、筋力作りが必要と陸上自衛隊に入ったが、最初に教わったのは敬礼だ。
二等兵で入隊し、一等兵で任期満了除隊し、そして鹿沼CCでプロテスト合格を目指す研修生生活に入ったが、プロテストに通ったのは3年と11カ月後だった。
台風一過の翌日、コースコンディションは悪かった。
合格は一人も出ないだろうと関係者は言っていたらしいが、合格者3名出た。
私はトップ合格だった。
日本オープンも開催された事のある関西の名門コース、滋賀県琵琶湖CC。
一日2ラウンドの一発勝負だったが、34・36・39・35の2ラウンド通算パープレーで回って来た。
イーグル2つ、バーディ3つ、ボギー4つ、トリプルボギー1つのラウンドだった。
プレッシャー感じたのは午後のラウンド、OB打ってトリプルボギー叩いた後の8番ホールのティーショット、そして最終18番ホールのティーショットだけだった。
恐怖と予期不安に鈍感な研修生だったと思う。
結果を怖れ始めたのはプロになってツアー参戦した後からである。
知らぬは武器であり、気付かぬも武器であった。
ツアー参戦中の身でありながら、昭和59年ペンを持ち、平成5年ジュニアゴルフ塾を開いたのは周りの嫉妬を快感と覚える鈍感さ在ったからだと思う。
周りの気配に敏感であれば、ペン持つ事もジュニア塾開く事もなかった様な気はする。
敏感だったのは己のゴルフの分析結果だけだった。
特にグリーン上。
体・技・心の分析を繰り返した。
私に足りなかったのはパッティングへの鈍感さだけだった。
自衛隊の敬礼こそが坂田理論の源流。
私にゴルフの基本を与えてくれたのは自衛隊だった。
敬礼だ。
プレッシャー感じればトップ位置が変る。
低くなる。
だから日頃から高いトップ位置で球打っておけば、プレッシャー受けた時、低くなってもその位置と高さ、その者の適正の位置と高さになる。
私がジュニア塾生にトップの高さを求めたのはプレッシャー下の振りを想定しての事だった。
「塾出身者110名がプロテストに合格したのはスウィング、特にトップ位置を高く作れたからだと思うぞ」
私は18名の前で陸上自衛隊の敬礼をした。
「よく見ておけ。これが坂田理論の源流であり、110名がプロテストに通った一因だ」
私は敬礼を続けた。
眼線は眼の高さの前方一点。
眼の玉は不動。体勢も不動。
呼吸は吸う息も吐く息も浅くだ。
胸を張り、首筋を伸ばして、足先は踵をくっ付け、爪先30度開いたジャイロ型。
一週間に一度集う18名との戦いの時と思った。
周りの眼線は無視した。
1分過ぎたと思う。
「この敬礼、自衛隊で教わったものだ。研修生になってプロテストに通り、ツアー参戦し、物書きを始めてジュニア塾も開き、今日75歳。自衛隊除隊後、敬礼したのは今日が初めてだ。敬礼姿勢のまま、体を右に回す。右手の爪の先、右の額を指すが、この右手に左手をくっ付けてグリップの型を作る。そして前傾すればトップだ。右指先と右肘の一直線はスウィング面を直角に支える。右肘を地面に向ければ出前持ちスウィングとなり、逆に浮かせればフライングエルボーとなって窮屈を生む。自然態は常に直角型から生れる。スウィング面を支える直角型が理想。若き者の敬礼だ。老い行けば右肩の筋力も落ち、右肘は地面を向くが、若き時の右の爪の先から右肘迄の右腕は斜め45度を維持する。敬礼もトップ型もだ。勇気を支え、プレッシャーに強い、そして高い順応力を持つスウィングを作ってくれたのは敬礼だった。この型が私のゴルフ理論の源流だ」
「やってみていいですか?」
「やれ。右手首をピーンと張れよ。そして右手首を直角に曲げ、左手の平を添えればトップ型だ」
18名は立った。
この時、18名全員、ゴルフやってる事を知った。
18名は敬礼した。
小雨の中、18名はスターバックス店前方左の樹林の中へ向った。
樹林の中でトップ型の確認を始めた。
お互いでだ。
坂田プロの敬礼とは違うな。
敬礼は簡単なものと思っていたが簡単じゃない。難しいぞ、の声が聞えた。
私の指導に飢えていたのかと思った。
でもこの敬礼トップだと体がよく回るぞ。
飛距離伸びるんじゃないのか、の声がした。
雨は小雨。
集うて50分過ぎていた。
私はスターバックスを出た。
彼等とは反対の方向へ向った。
そして、西鉄バス停から西新ゴルフ練習場へと向った。
挨拶なしの去り様であり、18名の邪魔はしたくなかった。
途中、西新の街、パン店で18個の菓子パンを買った。
練習場の集球アルバイト学生等への差し入れパンである。
夜10時から球を回収するには小腹を満たすものが要る。
今日7月20日、木曜日。午前5時5分。
あの雨の日から18名には会っていない。
少しは単純なトップ型になっただろうか。
あの日は400球打ち、昨日、450球打った。
途中の休憩は3回。
ペットボトルのお茶1本飲んだ。ミルククッキー3枚食べた。
これより担当編集者Yの自宅にファックス送稿する。
昨日夜、送稿の予定だったが6時間の遅れ。
450球は疲れた。
リズムで打つ。
スウィング中、力を使うは
一カ所だけ。
インパクトの音を聞いた瞬間だけである。
窓の外、明るくなって来た。
ビルの屋上で光るビルの高さと位置を知らせる赤いビル灯の向うに福岡空港。飛行機の離着陸始まるのは何時か。
静かだ。
消防車、救急車、パトカーのサイレンの音、全く聞えない。
雲は横一線の乳白色。
6層重なる雨上りの空。
梅雨は明けるか、明けたのか。
体調良好です。
それでは来週。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年8月8日号より